中国、バングラデシュ、ベトナムはじめアジア各国は世界の衣料品生産で圧倒的なシェアを占めている。2010年以降、人件費の上昇した中国から東南アジアや南アジアへの生産シフトが進み、WTO統計によれば、かつて世界の半分近くを占めていた中国のシェアは30・8%に縮小、代わってバングラデシュが6・8%、ベトナムが6・2%に伸ばした。今後はミャンマーの生産が拡大すると予想されていた。
ミャンマーの最大都市、ヤンゴンにあるミンガラドン工業団地には日系の縫製メーカーの工場が林立しており、ワンフロアに1000人を超える女性作業員が一心不乱にミシンを踏んで紳士物スーツを縫製する光景は壮観。1990年代の上海周辺の縫製工場を思い出させる。そのミャンマーは先月号でも触れたようにクーデターで国内が大混乱に陥り、縫製品の輸出は激減している。
ベトナムは昨年12月、米政府から為替操作国との認定を受けるなど対米貿易黒字の急増が貿易摩擦につながり、今後、米国向けの縫製品輸出に響いてくる可能性が高い。通貨ドン高傾向や国内の人手不足も縫製業の立地には痛い。
そうした中で、ダークホースとして浮上しているのがインドネシアだ。世界の綿花生産の28・5%(2019年)を占める中国最大の綿花産地であり、その8割を生産する新疆ウイグル自治区が、少数民族の弾圧政策を進めていると欧米に非難されたことがきっかけとなっている。米欧の衣料品メーカーは新疆以外の産地の綿花に切り替え、米欧諸国から輸入を制限される恐れがある中国国内生産から、繊維産業の環境が整ったインドネシアにシフトしはじめた。その結果、昨年秋以降綿糸、綿生地の輸出が急増し、12月には前年同月比25%増とコロナ禍で衣料品需要が落ち込む中で、時ならぬ好況に沸いている。
ミャンマー、中国はともに国内の政治的問題が繊維製品の生産、輸出に影響を及ぼす事態となっており、人件費などコスト要因ではない問題で足をすくわれている。今後、ミャンマーがアウンサンスーチー氏を指導者とする民政に戻ったとしても、一度起きたクーデターの記憶は外資に残る。中国が新疆ウイグルにおけるウイグル族などの漢族への同化政策を諦める可能性は皆無であり、中国での輸出型生産は見直しを迫られる。
アジアは政治が経済を揺さぶり、一国の経済の命運を決めかねない難しい時代に突入した。慎重さと大胆さの両方が必要だ。
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