製品開発や新規事業の開拓などは、新たな投資に注げる人材や資金力に乏しい中小企業がチャレンジするにはハードルが高い部分も多い。そこで、現状を打破するために1社で取り組むのではなく、地域にある企業や大学、公的機関などとの産学官連携が注目されている。
地方の中小企業では難しい開発も産学官の連携があれば可能になる
北陸テクノは工業用の溶解炉、熱処理炉の設計・製作などを行う工業炉メーカーである。同社が本社を置く射水(いみず)市は米作が盛んで、毎年3千tも排出されるもみ殻の処理に課題を抱えていた。それを再処理して活用するために射水市とJAいみず野、富山県立大学が共同で結成した「もみ殻循環プロジェクトチーム」に参画。外部の研究者らと共同で研究を重ね、もみ殻処理炉を開発した。さらに、処理したもみ殻灰を使った製品の開発にも取り組んでいる。
工業炉のメーカーに農業用処理炉の開発を依頼
日本海の富山湾に面する射水市では、稲を脱穀・もみ摺(す)りした後に出るもみ殻は、以前は水田暗きょや堆肥化され、野焼きも盛んに行われてきた。しかし、2000年以降はそれが事実上禁止され、米生産者は1t当たり1万円以上の費用をかけて産業廃棄物として処理せざるを得なくなった。そのため、もみ殻を利活用する方策が求められていた。
射水市は09年に「バイオマスタウン構想」を発表し、農作物から出るバイオマスを活用する取り組みとしてもみ殻に着目。翌10年には「もみ殻循環プロジェクトチーム」を結成し、もみ殻の有効利用の技術開発、実用化の研究を始めた。しかし、もみ殻を燃焼炉で燃やして再利用することは難しく、思うように進まなかった。そこで、地元の工業炉メーカーである北陸テクノが協力の依頼を受けた。同社の研究開発への対応力が評価されてのことだった。
同社の竹内美樹さんは、そのときの経緯についてこのように語る。
「もみ殻のバイオマス利用はJAいみず野の提案です。最初はほかのメーカーに開発を依頼したのですが、もみ殻は燃焼温度が高すぎるとアスベストのような毒性のある灰が出て、低すぎるとダイオキシンが発生してしまう。なかなかうまくいかず、富山県立大学の地域連携センターに相談したところ、北陸テクノを紹介され、工業炉のメーカーだけれど、いろいろなことにチャレンジしている会社だと聞き、依頼することにしました」
竹内さんは当時、射水市役所の産業経済部でこのプロジェクトを率いていた。その後、昨年3月に市役所を定年退職。引き続き、同社でもみ殻循環プロジェクトに関わっている。
国の農業研究機関と連携を取って意見交換
もみ殻にはケイ素が含まれており、そこから抽出した非結晶の可溶性シリカ灰は、肥料として使うことができる。しかし、もみ殻を燃焼させる際に炉内で発生する物質が燃焼を阻害したり、シリカが結晶化したりしてしまい肥料として使えないなど、燃焼の制御が非常に難しく、実用化できなかった。
「もみ殻の処理炉を開発するに当たり、茨城県つくば市にある農研機構(農業に関する国の研究機関)でもみ殻からシリカを取り出す研究をしている方や早稲田大学の鉱物化学の先生に、こちらで取ったデータや灰をお送りして、異分野を融合した産学官連携を進めてきました。そのおかげで、炉に入れるもみ殻の量、炉内での滞在時間、注入する空気の量やタイミングなどを制御するプログラムが完成しました。これで、もみ殻を燃焼させる温度を500度に制御することが可能になり、肥料として使えるシリカが抽出できるようになったのです」
完成した全国初のもみ殻処理炉は、18年5月にJAいみず野のカントリーエレベーター(穀物の貯蔵施設)横に設置された。これで、もみ殻から農業用肥料として使えるシリカを抽出できるようになり、大量のもみ殻を処理できるだけでなく、その再利用も可能になった。また、処理炉で発生した熱を隣接する園芸ハウスの加熱に利用し、イチゴの栽培も行っている。
「北陸テクノのエンジニアたちが既存の概念にとらわれず、研究者の皆さんと一緒に新しいことに挑んでいったことが、成功の要因だと思います」と竹内さんは言う。
もみ殻を処理するだけでなくその灰を資材として活用
このようにして抽出されたシリカ灰には、肥料のほかに工業用製品や食品・医薬品関連、化粧品などの材料としての用途がある。とはいえ、もみ殻循環プロジェクトは資源循環型の農業を目指し、まずは肥料としての実用化を進めていった。
「JAいみず野が中心となって研究を進め、この肥料がどのように効くのか、どのように使えば効果が高くなるのかといったことを調べています」
この追い風となったのが、20年12月に施行された「肥料取締法」の改正で、肥料の配合に関する規制が見直され、もみ殻から出るシリカ灰を使用した肥料が登録できるようになり、生産することが可能になった。
「肥料分野は、農研機構とJAいみず野、そして肥料メーカーが共同で進めていて、うまくいけば今年3月には商品として売り出すことができるようになります。また、化粧品や試料、吸着剤、ろ過材の素材として使いたいというお問い合わせもいただいています。もみ殻処理炉そのものについても、今まで処理に困っていたもみ殻から資材ができて売れるということで、問い合わせが増えています」
ここまでに得られた大きな成果は、産学官の連携があってのものだと竹内さんは言う。
「地方の中小企業としては、産学官の連携で新しいものに挑戦できたのはありがたいことでした。今は金融機関も加わり、設備を販売するメーカーとして、これにより全国にもみ殻処理炉を広げていけたらと期待しています」
工業炉メーカーである同社が、農業用の処理炉という新たな分野に進出できたのは、他組織との連携に積極的に取り組んできたからにほかならない。
会社データ
社名:北陸テクノ株式会社
所在地:富山県射水市青井谷1-8-3
電話:0766-57-1400
代表者:釣雅広 代表取締役社長
従業員:約40人(グループ全体)
【射水商工会議所】
※月刊石垣2022年2月号に掲載された記事です。
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