白鳥製薬
千葉県千葉市
茶葉からカフェインを抽出
遠いヨーロッパの地で第一次世界大戦が勃発してから2年がたち、まだ戦況が収まる様相を見せていなかった大正5(1916)年、千葉県津田沼村(現・習志野市津田沼)で江戸時代から続く家業の精米業を引き継いでいた白鳥與惣左衛門(よそうざえもん)は、茶葉から天然カフェインの抽出に成功し、白鳥製薬所を設立した。現在、医薬品原薬や各種化学品の製造などを行っている白鳥製薬の始まりである。
「そのころカフェインは軍事物資で、当時は敵国だったドイツからの輸入が途絶えており、国産化が求められていました。初代は米を船で江戸に運んでいて、得意先の薬問屋からカフェインを茶葉から抽出する方法があることを聞き、独学で研究を始めたのです」と、白鳥製薬の五代目社長を務め、現在は会長の白鳥豊さんは言う。
研究熱心だった初代は、精米で使うボイラーを使って茶葉を加熱して抽出する方法を思いつき、静岡県から茶葉(くず茶)を取り寄せて研究を始めた。独学だったため時間がかかったが、始めてから2年後の大正5年に、ついに日本で初めて茶葉からカフェインを抽出することに成功。白鳥家代々の広大な敷地内に白鳥製薬所を設立して初代社長に就任した。初代がまだ27歳の時だった。それから初代は、カフェインの製造販売で事業基盤を築きつつ、さまざまな研究開発に取り組んでいった。
「時代に寄り添って変革を恐れない初代のこのような姿勢は、その後も受け継がれており、それが弊社がこれまで百年以上続いてこられた理由の一つだと思います」
ずさんな経営からの改革
第二次世界大戦中、カフェインはパイロットの眠気覚ましのための軍需品として使用されており、白鳥製薬所は製造方法の改良に注力しながら、生産を続けていった。また、無水カフェインは総合感冒薬や解熱鎮静剤などに用いられることから、医薬品分野への用途拡大も見込まれていた。そこで初代は終戦後、会社を改組して白鳥製薬株式会社を設立し、家業の精米業は関連会社に移譲して、カフェインを中心とした医薬品事業の拡大を目指していった。
「当初はカフェインを水で抽出していましたが、そこで蓄えていた経験を生かして、今度は有機合成カフェインに転じていき、医薬品原薬を製造していくようになりました。親和性はあるものの、技術的には大きな違いのある化学合成のために、潤沢な研究開発費を注ぎ込んでいったのです。これも、変革を恐れなかった結果だと考えています」と白鳥さんは語る。
白鳥さんは平成10(1998)年に五代目社長に就任したが、世代的には初代の孫にあたり、大学卒業後は生命保険会社に勤務してから白鳥製薬に入社した。その後8年間は工場勤務に就いている。
「私は本家ですから、将来は社長になるのだろうなと思っていたら、同族争いに巻き込まれて、長い間苦労しました。そのころは経営がずさんで、うそが横行し、社内は陰口や人の足を引っ張り合うような雰囲気でした。このままでは会社が長続きするはずがないので、私が副社長になったころから、それらを排除していきました」
「創薬」にも果敢に挑戦
白鳥さんは副社長時代の平成7(1995)年に「誠義感(せいぎかん)」に基づいた経営理念を制定し、社内改革に乗り出した。
「『誠』はうそをつかないこと。『義』はそれが正しい道かどうかをよく考えること。『感』は人の痛みや苦しみを理解すること。それらを心掛け、当たり前のことを当たり前のように実践し行動しようというのが、私が決めた会社の理念です。これにより社内の悪い部分を排除できたのは、私が長い間工場で働き、その後も社員の目線で仕事をしてきたこと、またそれまで苦労してきた社員たちも私の考えを理解してくれ、白鳥製薬は自分たち社員のことを大切にしてくれる会社だということを分かってくれたからだと思います」と白鳥さんは自信を持って語る。
白鳥製薬は現在、医薬品の原料やジェネリック医薬品の合成などを行っているが、最近では中小原薬メーカーとしては異例とされる、独自の技術で新規の医薬品を開発する「創薬」にも挑戦している。この創薬は、最低でも10年以上はかかるとされている。
「どの企業もこれまでの成功に安住しがちですが、医薬品の場合は、10年単位での先を見据えた企業活動が求められ、今の安住が10年後の失敗につながります。いま挑戦している創薬を成功させて、その延長線でさらに企業を伸ばしていきたいと考えています」
時代の変化に対応していくためには、白鳥製薬のように、変革を恐れることなく新たなことに挑戦していく必要もあるだろう。
プロフィール
社名:白鳥製薬株式会社(しらとりせいやく)
所在地:千葉県千葉市美浜区中瀬2-6-1 WBGマリブイースト28F
電話:043-307-8977
HP:https://shiratori-pharm.co.jp/
代表者:白鳥 豊 代表取締役会長
創業:大正5(1916)年
従業員:191人(2022年4月1日現在)
【習志野商工会議所】
※月刊石垣2022年7月号に掲載された記事です。
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