日本企業にとって中国でのビジネスがかつてないほど難しい時期を迎えている。米中冷戦は今後、さらに激化する可能性が高く、米国の同盟国である日本は「インド太平洋経済枠組み(IPEF)」、半導体の「チップ4」をはじめ、バイデン政権から中国との経済関係見直しを迫られているからだ。中国側は各省や主要都市が日本企業誘致の活動を再び積極化しているが、日本企業の中国市場での業績は低調で、先行きの不安は大きい。
2012年9月に尖閣諸島を日本政府が国有化したことをきっかけに中国全土に広がった反日デモは、日本企業の工場が襲撃、放火されるなど衝撃的だったが、一過性でもあった。今、日本企業は米中のはざまで出口の見えない閉塞(へいそく)状況にある。日本国内を上回る市場として中国で利益を上げてきた自動車業界の業績が、今年1~3月の販売台数は前年同期比でホンダが37.7%減、日産が36.8%減、トヨタが14.6%減、マツダが66.1%減など不振に陥っている。かつて中国での販売が企業業績を左右していた建設機械業界も、生産縮小する企業やコマツのように中国の生産拠点を輸出型に切り替える企業が出てきた。
一方で、中国でのビジネスに積極的な姿勢の外国企業もある。テスラとエアバスだ。テスラは19年に米国外で初の電気自動車(EV)の組立工場を上海に建設し、中国で販売を伸ばしてきた。さらに超大型商用蓄電池「メガパック」を製造する「メガファクトリー」を上海自由貿易試験区臨港新区に新設する、と発表した。エアバスも天津市にあるA320シリーズの組立工場の大規模拡張を発表、26年には月産75機体制にする。
両社とも中国需要が事業のカギを握っており、中国と巧みに協調したわけだが、中国側にはテスラ、エアバスの新規投資の経済効果、協業による技術移転、米欧との「経熱」演出による政治的緊張緩和の狙いがあったのは確かだ。エアバスの工場拡張はフランスのマクロン大統領訪中に合わせて現地で発表され、マクロン大統領は台湾問題で中国側のメンツを立てる発言をした。
日本企業は北京で起きた日本人駐在員の拘束問題などでますます中国ビジネスに懐疑的になっていて、このまま「静かで、緩やかな撤退」に向かいかねない。日本企業は中国側が何を求め、どうすれば受け入れるかを探り、事業を継続、拡大していく粘りと知恵が必要な時期だ。狭隘(きょうあい)な難路を進む勇気が米中冷戦下の中国ビジネスに求められている。
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