創業明治元年。155年の歴史を歩んできた焼酎メーカー・濵田酒造は、縮小する焼酎市場で新たな需要を創出しようと、新感覚の“ボタニカル系”麦焼酎「CHILL GREEN spicy & citrus」を開発。これまでの焼酎にない柑橘(かんきつ)系の香りとスパイシーな味わいが、焼酎に苦手意識のある若年層を中心に注目され、好調な売れ行きを続けている。
炭酸で割るとレモングラスやラムネみたいな爽やかさが新感覚
ワインのようなデザインのボトルのキャップを開けてグラスに注ぐと、ほのかに広がる爽やかな香り。「CHILL GREEN spicy & citrus」(以下、CHILL GREEN)は、ボタニカル原料として「マーガオ」を使用した、柑橘系の香りと山椒のようなスパイシーな味わいを併せ持つ新感覚の麦焼酎だ。 「マーガオは、台湾や中国の一部地域で収穫されるスパイスで、別名山胡椒とも呼ばれ、レモングラスに似た香りを持っています。これを発酵した焼酎のもととなるもろみに最適なタイミングで添加することで、これまでの焼酎にない香味を引き出しました。炭酸で割ると口当たりがすっきり爽やかで、『レモングラスの香りがする』『ラムネを飲んでるみたい』といった評価をいただいています」と製造元の濵田酒造マーケティング本部コミュニケーション課課長の脇元信一さんは説明する。
同社は創業155年を迎えた焼酎メーカーで、伝統、革新、継承をコンセプトとする三つの蔵を構える。“芋”のイメージが強い鹿児島だが、同社は以前より麦焼酎の展開にも力を入れており、芋焼酎と同等の販売規模となっている。焼酎といえば、20年ほど前に芋焼酎ブームが起こって一気に全国区となったが、2007年頃のピーク以降、少子高齢化による飲酒人口減や若者のアルコール離れなどにより、焼酎市場は縮小している。 「お酒は昔からコミュニケーションを円滑にするツールの一つとされていますが、今の若い世代の人たちにとっては、SNSの普及など、コミュニケーションツールの多様化により、お酒に対するそのような認識が薄くなってきているようです。そうした世代にも受け入れられる新しい焼酎をつくることは、当社の大きなテーマの一つでした」
焼酎に苦手意識のあるエントリー層や若い世代に着目
18年、同社が若い世代にも刺さる新しい焼酎として、「だいやめ~DAIYAME~」(以下、だいやめ)を世に出した。これは創業150周年を機に開発された本格芋焼酎で、同社独自の技術で生み出した「香熟芋」を使用し、ライチのような華やかな香りとまろやかな味わいを持つ。発売すると幅広い層から「飲みやすい」と評価され、売れ行きは急増した。 「だいやめの登場で“香り系焼酎”というジャンルが生まれ、他社からもバナナやマスカットといった〝香り〟に着目した焼酎が発売されるようになりました。この流れを受けて、新たに企画したのが『CHILL GREEN』です」
同商品は、普段あまり焼酎を飲まない、あるいは苦手意識を持っているエントリー層や若い世代をターゲットに設定し、開発チームのメインにも若手を起用した。また、当時「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」という病気が広がっており原料芋の調達が十分にできなかったため、芋焼酎と同等の市場規模を持つ麦焼酎で開発がスタートした。 「ゆったりと自分らしく時間を過ごしたい考えを持つ若い世代に向け〝香り”〝ボタニカル(植物由来)〟〝chill out(落ち着く、リラックスする)〟をキーワードに酒質開発を進める中、たどり着いたのがマーガオでした」
何度も試作を繰り返してマーガオに行き着いた後も、サンプルを各部署の社員に試飲してもらい、その感想を参考にしながらブラッシュアップを重ねた。ようやく納得のいく味わいになった酒質を、毎年同社が秋に開催している「新酒まつり」に覆面で出品したところ、好評を博して手応えを得る。「chill out」と「ボタニカル」のイメージから「CHILL GREEN」と名付け、23年2月に発売が決定した。
今後もリアル&デジタル両面での販促活動に注力
発売に当たって、同社はだいやめの際に行った地域密着型の販促を踏襲した。大手メーカーのように大々的なPRは難しく、また20年以降はコロナ禍で試飲できるリアルイベントの開催もできなかったため、FM局やタウン誌など地域メディアとSNSを活用して地道なプロモーション活動を展開した。例えば、「デジタル体験会」と称したオンライン飲み会などもその一例だ。「CHILL GREEN」においても、そのノウハウを活用して知名度アップを図りつつ、メディア向けの試飲会などを開催してPRに努めた。そのかいもあって当初の年間生産予定数を発売から約2カ月で完売するという幸先のいいスタートを切った。 「おかげさまで、CHILL GREENは発売後も好調な売れ行きを続けていて、リピート率も高い。男女を問わず若い世代に人気があり、エントリー層にもしっかりと刺さっている手応えがあります。今後も消費者とのリアルとデジタル、両面でのコミュニケーションに力を入れて、『濵田酒造は面白い焼酎をつくってくれる』という期待に応えていきたい」と脇元さんは展望を語る。
すでに「だいやめ」は世界三大酒類コンテスト全てにおいて部門最高金賞を受賞し、アジアや欧州を中心に輸出されて海外でも好評を博している。同コンテストの一つで金賞を受賞したCHILL GREENも、国内のみならず、今後海外へと羽ばたいて、焼酎の需要増に一役買ってくれそうだ。
会社データ
社 名 : 濵田酒造株式会社(はまだしゅぞう)
所在地 : 鹿児島県いちき串木野市湊町4-1
電 話 : 0996-36-5771
HP :https://www.hamadasyuzou.co.jp
代表者 : 濵田雄一郎 代表取締役社長
設 立 : 1868年
従業員 : 358人(2023年12月時点)
【いちき串木野商工会議所】
※月刊石垣2024年2月号に掲載された記事です。
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