2015年に大分市で設立したリクレは、全国でもあまり例を見ない「ハサミを持たない美容室」を展開している。サービス内容をシャンプーブローとヘアセットに絞り、20~50代の働く女性をメインターゲットに美容と癒やしを提供。圧倒的な支持とニーズを受けて福岡や東京にも進出し、現在7店舗を運営している。
「社長になりたい」という夢をかなえるため美容業へ
美容室なのにカットをしない!? にわかにイメージしづらいかもしれないが、リクレが運営する店にハサミは置いていない。
同店は、シャンプーブローとヘアセットに特化した専門店だ。シャンプーブローでは、脳神経外科医の監修の下に3種類の洗い方を用意。頭皮のリンパに沿って血流を促す洗い方、ツボ押しする要領で行う洗い方、そして香りと水圧で汚れを落とす洗い方だ。ヘアセットにもマニュアルを設け、美容師の免許を持つスタッフが希望のスタイリングを提供する。 「現代の女性ってすごく忙しい。身支度にも時間がかかり、仕事にプライベートに何役もこなした後、髪を洗って乾かすのもひと仕事です。せめて身支度の一つだけでもほかの誰かにやってもらい、ホッとひと息ついてほしい。そんな美容サロンです」と同社社長の狩生(かりう)志保さんは説明する。
狩生さんがこの事業を思いついたのは、小学生の頃の「将来、社長になりたい」という夢に端を発する。もともと美容業に興味があったことから、美容学校に進んで免許を取得、美容師として勤務しながら店舗運営の知識を蓄えていった。ところが当時、美容室はコンビニよりも多く飽和状態だったため、何か別のサービスはないかと模索し始めた。 「お客さまは美容師につくので、その美容師が辞めるとお客さまも離れていってしまいます。そうならないためにどんなサービスを提供すればいいかと考えたとき、美容室で一番気持ちいいのはシャンプーだと思ったんです」
SNSマーケティングの活用でファンを拡大
事業内容をシャンプーブローに特化すれば、カラー剤やパーマ剤、それに付随する機材などをそろえる必要がなく、原価率を大幅に抑えられる。その分をスタッフに還元することもできる。さらに、誰が担当しても満足してもらえる洗い方をマニュアル化すれば、たとえスタッフが辞めても顧客は流出しないのではないか。狩生さんは事業化に向けて構想を練っていったが、苦労したのは資金調達だ。 「予想はしていましたが、銀行に融資をお願いしたとき、普通の美容室を開業したらどうかとやんわり諭されました。家でもできるのに、シャンプーだけで商売できるわけないじゃないかって。結局シャンプー台が買えるだけのお金を融資してもらえなかったので、1店目はやむを得ずヘアメイクだけの店をオープンしました」
次こそはシャンプーブローの店を出そうと、狩生さんはSNSマーケティングに力を入れた。それを目にした主に20~30代の女性客が来店するようになり、1年もしないうちに黒字転換を果たした。その実績やSNSでの口コミなどを数値化して再度銀行を訪れ、ようやくシャンプー台が買える資金を融資してもらうことに成功し、2店目の出店を果たした。
事業が軌道に乗ってきたことを受け、シャンプーブローとヘアセットを一体化したブランド「uruu(ウルー)」を立ち上げ、福岡に3店目をオープンする。「うちの近くにも出店して」という要望に応えて関東に進出しようと、銀行融資だけではなく地元のベンチャーキャピタルやファンドからも出資を受け、2021年に東京・恵比寿に店を構えたのを皮切りに、自由が丘、銀座と店舗を増やしていった。銀座出店時には、恵比寿や自由が丘の顧客がSNSで自発的にPRしてくれたこともあって、開店初日から満席になるなど、着実にファンを増やしている。 「こうして事業展開できているのは、お客さまのおかげだなと実感しています。以前、『ここがあるから明日も頑張れる』と言って帰って行った人の言葉がすごく励みになっていて、その期待に応えられるサードプレイスサロンでありたいと思っています」
ゆくゆくは医療や介護の分野にも進出したい
今までありそうでなかったハサミを持たない美容室は、隠れた需要を掘り起こし、SNSの活用も手伝って急速に認知を拡大した。現在、1店舗の1カ月当たりの集客数は東京で800~1000人、九州で600~800人にも上り、中には毎日通ってくる顧客もいるほど人気を博している。一方、同店舗で働くスタッフたちは、カットやパーマを行う機会がないことに物足りなさを感じていないのかと聞いてみたところ、むしろシャンプーブローを極めたいという意欲が高く、入れ替わりの激しい業界において離職率は5%未満と驚異の定着率を誇っている。
順調に業績を伸ばしている同社だが、“シャンプーブローにお金を払う”ことに対する価値観は人それぞれであるため、その魅力をどう伝え、どう理解してもらうかが課題だという。 「1回約30分の利用時間の中で、お客さまの気持ちに寄り添い、満足してもらうことで、シャンプーブローサロンという文化を根付かせたい。今はブランドの構築期と位置付けて、今年中に10店舗まで増やしたいと思っています。また、現在は美容分野だけですが、今後は医療機関や介護施設にも出店して、気持ちいい、スッキリする、ホッとする時間を提供したいですね」と狩生さんはしっかり次を見据えている。
会社データ
社 名 : 株式会社Lecture(リクレ)
所在地 : 大分県大分市中央町2-3-10
電 話 : 097-547-7265
代表者 : 狩生志保 代表取締役
設 立 : 2015年
従業員 : 30人
【大分商工会議所】
※月刊石垣2024年4月号に掲載された記事です。
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