約340年にわたり、松江市で食品製造を行ってきた中浦食品。「地元の文化を伝える」をモットーに、さまざまな加工品を扱ってきた同社の看板商品と言えば「どじょう掬いまんじゅう」だ。山陰地方の代表民謡の安来節からヒントを得た同商品は土産品として人気が爆発し、発売から約60年たった今も地域はもとより他県の人にも親しまれている。
島根らしさを形に 地元の文化を映した銘菓
「どじょう掬いまんじゅう」は、山陰地方において知らない人はいないほど有名な菓子である。安来節に合わせて踊る「どじょう掬い踊り」に使うひょっとこのお面を模した、愛嬌(あいきょう)たっぷりな形のまんじゅうだ。中には口どけのいい白あんが入っており、一口頰張ると優しい甘さが広がっていく。水産加工や菓子製造を主事業とする中浦食品が1967年に発売した同商品は、今や地域を代表する土産物として、県内のみならず県外からも熱い支持を受けている。
「商品開発に乗り出したのは、高度経済成長の真っただ中で、これから旅行ブームが来るだろうと予測し、土産物の需要に着目しました。当社では、『地元の資源を使って地元の文化を発信する』ことを製造の基本スタンスにしているので、島根県に観光に来られた方に島根らしいお土産を買ってもらうには何がいいかをずっと考えて、行きついたのが『どじょう掬いまんじゅう』です」と同社18代目社長の鷦鷯(ささき)侑さんは説明する。
同社は1686年に松江藩に献上する酒造業で創業した。1927年に中浦商店製菓部を設立して菓子製造を始めた後、北前船の寄港地だったこともあり、水産品にも事業を拡大し、水産加工を中心とした食品事業に本格参入した。47年に中浦食品を設立し、つくだ煮や水産加工品、菓子などを扱うようになる。祖父の代になると観光土産品にも進出し、誕生したのが同商品だ。
全国区へと押し上げた革新性と話題力
開発に当たっては、当初から“地元の名物になる新しい菓子”を意識していたという。そこで、隣接する安来市に伝わる代表的な民謡・安来節に合わせて踊る「どじょう掬い踊り」に目を付けた。当時、安来節を保存する目的で全国大会が開催されるようになり、どじょう掬い踊りが徐々に知られるようになったこともあって、まんじゅうを通じてこの文化をもっと広く伝えたい、という思いが根底にあった。
「当社はちょうどそのころ、工場設備の機械化を進めていて、菓子を従来の手作りから機械製造へシフトしていました。それで独特な形状でも量産が可能になったので、ひょっとこのお面をそのまま菓子に採用することにしました」
まんじゅうがひょっとこの形をしているだけでも十分斬新だが、中に白インゲン豆を使った白あんを入れていることも革新的だった。その分、形状と味わいの最適なバランスを見いだすのに時間を要したが、やがて本体は完成した。まんじゅうより、むしろてこずったのはパッケージだという。
「パッケージデザインは漫画家のおおば比呂司氏に三顧の礼をもって依頼しました。当時おおば氏はデザイナーとして多くの商業デザインも手掛けていて、ぜひその作風で書き文字や意匠を考えていただきたかったんです。おおば氏は多忙を極めましたが、妥協することなくやりとりを繰り返しながら、3~4年にわたる試行錯誤の末にようやく発売にこぎ着けました」
同商品は、ひょうきんな見た目で土産物としての需要を掘り起こし、同社の売り上げを4年で倍増させた。さらに、全国区の知名度を得る契機となったのが、全国菓子博覧会の受賞(2002、13年)とローカルCM全国大会のグランプリ受賞(1992年)だ。地域限定のCMながら、何とフランス人の男女を起用。女性が「愛しているわードジョウスクイマンジュウも、あなたも」とフランス語でささやき、その手にはどじょう掬いまんじゅうを持っているという内容だ。フランス映画のようなロマンチックな雰囲気とのミスマッチが大ウケして、たちまち全国各地から注文が殺到する。それを機に、土産物店、空港や道の駅などを中心に年間約520万個を出荷する大ヒット商品へと成長した。
コラボを力にさらなる地域の魅力を発信
もちろん、苦しい時期もあった。コロナ禍では観光需要の急減に伴う土産物市場の冷え込みにより、CMの中断も余儀なくされた。しかし、過去にコラボが実現した秋葉原系アイドルなどとのユニークな企画を展開。また、島根出身タレントの顔をモチーフにしたどじょう掬いまんじゅうのコラボ企画をSNSで展開するなどして、売り上げ減を最小限に食い止めた。現在、同商品の発売60周年を来年に控え、開港60周年を迎えた出雲空港との企画が進行中だという。
「おかげさまで、『どじょう掬いまんじゅう』は、山陰を代表する銘菓の一つとして定着しました。今後もさまざまなコラボ企画で、商品だけでなく山陰地方の認知を高め、多くの方が来訪するきっかけとなればと考えています。これまで培ってきた県内外の多くの企業とのネットワークを生かして、今後も発信を続けていきます」
現在、島根県は出生数の減少による自然減と若年層の転出による社会減により、人口減少が加速している。他方では水産資源の変化で、同社が水産加工品の原材料に活用している板ワカメの収穫量も減少しており、原料や資源調達にも課題が残る。そうした現状打開の一助となるべく、同商品を通じて地元の文化のさらなる発信にまい進している。
会社データ
社 名 : 中浦食品株式会社(なかうらしょくひん)
所在地 : 島根県松江市東出雲町錦浜583-41
電 話 : 0852-53-0844
HP : https://www.nakaura-f.co.jp/
代表者 : 鷦鷯侑 代表取締役社長
従業員 : 166人
【松江商工会議所】
※月刊石垣2026年8月号に掲載された記事です。
