2024年から刷新される新1万円札の肖像画に決まり、21年のNHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公にも決定した渋沢栄一翁。生誕180年を記念して、渋沢翁が求めた経営者像、生涯を通じて実践した経営哲学と理念が、時代を超えて令和の今こそ求められている。
事例1 日本の発展に貢献した「利益と公益の両立」の理念を伝えたい
深谷商工会議所(埼玉県深谷市)
昨年8月27日、渋沢栄一翁にゆかりのある埼玉県深谷市、東京都北区、東京商工会議所、深谷商工会議所、ふかや市商工会、渋沢栄一記念財団の6者が「渋沢栄一翁の顕彰に関する包括連携協定」を締結した。この協定では「渋沢栄一の精神の普及啓発に関すること」「渋沢栄一のドラマなどのメディア誘致に関すること」「渋沢栄一ゆかりの情報収集に関すること」などについて、6者が連携して取り組んでいくこととなっている。
「渋沢栄一連携協定」締結で6者が力を合わせていく
─今回、どのような経緯で「渋沢栄一連携協定」が締結されることになったのですか。
村岡正巳会頭(以下、村岡) 渋沢栄一翁が新紙幣の肖像画に決定したことが大きな要因だと思います。深谷市では以前から、生誕の地として市内の各団体が連携して顕彰事業を行ってきました。これを機に全国的に渋沢翁の業績を知っていただくため、地域の枠を超え、渋沢翁の生涯に関わりのある6者が、この盛り上がりを一過性のもので終わらせることなく持続的なものにしていこうと、今回の締結に至りました。新紙幣の発表が昨年4月9日で、協定の話が始まったのが6月ごろ、締結がその2カ月後の8月でしたので、トントン拍子に話が進みました。
─渋沢栄一翁に関わりのある6者が協定を締結した意義について、どのようにお考えですか。
村岡 渋沢翁は全国各地に功績を残しており、ゆかりの地それぞれが独自に顕彰事業を行っていましたが、それ以外の地域では渋沢翁の認知度が思いのほか低いのが現状です。こうした中、6者が渋沢翁の顕彰に関して多様な分野で連携し、各事業を推進・実施していくことで、より広範囲かつ多くの方々に渋沢翁を知っていただく機会が増えていくと思います。そういった活動を行っていくにあたり、渋沢翁が晩年を過ごした東京都北区、初代会頭を務めた東京商工会議所、そして渋沢栄一記念財団の3者は、生誕の地である深谷市や私たち団体にとって、非常に頼もしいパートナーだと考えています。渋沢翁が日本のためにどれだけ働いたかということを全国の人に知っていただくことが、協定の一番の意義だと思いますし、また、商工会議所の活動を多くの人に知っていただく良い機会だと考えています。
ただの交流だけで終わらず新たなビジネスにつなげる
─「渋沢栄一連携協定」では、これからどのような活動を行っていくのですか。
村岡 協定締結後、渋沢翁を主人公としたNHK大河ドラマが2021年に放映されることになりました。協定の話が出る前から、地元の渋沢翁に関連する方たちへの大河ドラマに関するリサーチがあったと聞いていましたが、協定の大きな目標の一つでもあった大河ドラマが実現したことは、非常に大きな喜びです。あとは全国の、これまであまり知られていなかった渋沢翁にゆかりのある地域に名乗り出ていただき、さらに大きなグループとして一緒に活動をしていけたらと思っています。そういった中で商工会議所としては、ただの交流で終えるのではなく、一緒に手を組んで新たなビジネスに結び付けられるよう努力していきます。
─改めて渋沢栄一翁の功績や経営哲学に注目が集まっていることについて、どう感じていますか。
村岡 キーワードは「利益と公益の両立」だと思います。渋沢翁の中心的な考えである「道徳経済合一」は“企業の目的が利潤の追求であるとしても、その根底には道徳が必要であり、国ないしは人類全体の繁栄に対して責任を持たなければならない”という意味です。
現在、日本の経済成長が、かつての高度経済成長やバブル経済のころと比べ、緩やかなものとなっている状況に加え、企業の社会的責任についても以前より重視されていることから、大企業や中小企業、あるいは都市と地方が協力し合い、また社会貢献活動なども通じて、自らの利益と同様、公益についても考え、日本全体を良くしていくことが必要だと思います。こうした観点から、利益と公益の両立を掲げ、わが国の発展に尽力した渋沢翁の理念が注目されているのだと思います。
一過性で終わらせないよう深谷市の魅力もPRしていく
─渋沢栄一翁生誕の地の商工会議所として、特に意識して活動していることはありますか。
村岡 新紙幣の肖像画と大河ドラマの主役に決定したことにより、深谷市にはすでに多くの方にお越しいただいており、まちの活性化につながる大きな機会となっています。渋沢翁の功績や理念などを多くの方に知ってもらうことはもちろんですが、私たち商工会議所は、地域商工業の発展やまちの活性化を目指して活動しています。この機会を最大限に生かし、一過性のもので終わらせないよう、市内事業所や深谷市の魅力も存分にPRしていきたいと考えています。
その活動の一つとして商工会議所が中心になって進めているのが、「渋沢栄一・青天を衝(つ)け深谷大河ドラマ館」(仮称)の開館です。ここに来館した方々が周辺の関連施設や飲食店などを回遊できるようにすることで、まちの活性化につなげていきたいと考えています。
─渋沢栄一翁の地元として、渋沢翁の足跡と功績をこれからどのように伝えていくのでしょうか。
村岡 渋沢翁の座像がある深谷駅前の青淵(せいえん)広場では、渋沢翁をしのび、毎年、命日の11月11日には献花式が行われています。また、市内の大きなイベントの一つでもある深谷市産業祭において、当所は渋沢翁ブースを設け、関連商品の販売のほか、パネルを作成・展示し、渋沢翁の功績をPRしています。ほかにも市内では、竜門社(渋沢翁の理念に共鳴した経済人らによる組織。現・渋沢栄一記念財団)の深谷支部が講演会を行うなど、渋沢翁について知る機会が多くあります。今後も市内の各関係機関と連携し、このような機会を増やしていければと思っています。
この機会を最大限に生かし地域経済発展につなげていく
─深谷市内には渋沢栄一翁ゆかりの建物が数多くあります。今後こうした観光資源をどのように生かしていく予定ですか。
村岡 渋沢翁ゆかりの建物は、駅や中心市街地からは少し離れたところにあります。そこで当所は、地域の商店街と連携し、中心市街地にカフェや渋沢翁関連商品、パネル展示などを併設した「渋沢栄一ふるさと館(仮称)」の建設に向けて準備を進めています。また、関連施設と中心市街地を結ぶガイドマップなども作成し、市内のお店や商品をPRしていきます。
深谷には、渋沢翁以外には深谷ねぎくらいしか有名なものがないため、深谷の特徴を表したものをつくっていかないといけません。そこで、埼玉県で有数の生産量を誇る、土地柄を生かした名物をつくっていこうと考えています。深谷には「煮ぼうとう」という郷土料理があり、渋沢翁の好物として伝えられています。それ以外に、4年前に深谷市の新・ご当地グルメコンテストで最優秀賞を受賞した「ふかやカレーやきそば」の普及にも力を入れており、すでに市内28店舗がメニューの一つとして推奨しています。市外から多くの方が継続的に食べに来てくれるようになればと期待しています。
─最後に、渋沢栄一翁が大きく注目される時期を迎えるに際し、深谷商工会議所の会頭としての決意をお聞かせください。
村岡 私自身としては、このような時期に会頭をやらせていただくことになり、身が引き締まる思いです。今回の新紙幣の肖像画、大河ドラマの決定は、私たちにとってまたとない大きなチャンスです。このチャンスを最大限に生かして、市内企業および地域経済の発展とまちの活性化に向けて、各機関と連携しながら、さまざまな事業を展開していく所存です。そして、これからも多くの皆さまに渋沢翁、そして深谷市の魅力を知っていただきたいと思っておりますので、ぜひ深谷にお越しください。お待ちしております。
会社データ
深谷商工会議所
所在地:埼玉県深谷市本住町17-1
電話:048-571-2145
HP:https://www.fukaya-cci.or.jp/
※月刊石垣2020年3月号に掲載された記事です。
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