小型モーターの専業メーカーとして、数々のモーターを開発・製造してきた山本電気。その技術を生かして調理家電分野に進出し、自社ブランドとして世に送り出したのが、フードプロセッサー「マルチスピードミキサー マスターカット」だ。本物志向の消費者に大いに支持され、今や大手メーカー品を抑えてロングセラーとなっている。この商品が、決して広いとはいえない日本のキッチンに受け入れられた理由を探ってみた。
フードプロセッサーの泣きどころを解消
フードプロセッサーとは、モーターによる刃の回転によって、投入した食材を切り刻んだり混ぜたりする調理器具である。手でやれば大変な手間と労力の掛かる作業をあっという間にやってくれる便利グッズだが、日本の家庭における普及率はさほど高くない。キッチン空間が狭くて置き場所がない、重い、音がうるさい、後片付けが面倒、などが主な理由だ。
そうしたデメリットを改善し、さらに機能性を高めて世に登場したのが、山本電気の「マルチスピードミキサー マスターカット」である。コーヒーメーカーのようなおしゃれな外見に加え、ガラス製が相場だった容器をステンレス製にして、大幅に軽量化。その上、シンプルな円筒形に変えたことで洗いやすさも実現した。さらに、刃を回す軸とモーターを直結させる「ダイレクトドライブ方式」を採用し、静粛性を高めた。つまり、フードプロセッサーの泣きどころをほとんど解消しているのだ。
「こうした製品をつくれたのは、当社が〝モーター屋〟だから。通常、モーターは容器の横に配置され、回転軸との間をベルトやギアでつないでいます。その摩擦音が敬遠されるわけですが、当社には回転軸と直結できるモーターがあるので音を低減できました。しかもモーターのパワーをそのまま回転に生かせるため、馬力があるのに消費電力は従来品の半分以下。われわれの強みを生かした結果といえます」と同社社長の山本弘則さんは説明する。
OEMをやめて自社ブランドに注力
モーター専業メーカーだった同社が、調理器具の製造を手掛けるようになったのは昭和40年代以降。調理家電用モーターを製造する傍ら、ミキサーやブレンダ―、コーヒーミルなどのOEM(他社ブランドの製品を製造すること)を請け負うようになったのが始まりだ。ところが、その後、受注量は年々減少。「日本でやっていくにはどうしたらいいか」と真剣に考えた末、自社ブランド製品の開発・製造に乗り出すことにした。
「60年ごろからミキサーや家庭用精米機づくりに本腰を入れましたが、販売の経験もブランド力もないため、販路はごく一部に限られていました。しかし、ほそぼそとつくって売っているだけでは先がありません。そこで、私が社長に就任した平成12年ごろ、業績を上げるためにOEMから脱却。自社ブランドに力を入れ、新たな販路を開拓していこうと決めました」
こうして生まれたのが、「マルチスピードミキサー マスターカット」の初代機である。同社の技術の粋を集め、一台で「刻む・おろす・こねる・砕く・する・混ぜる・泡立てる」の作業をこなす働き者だ。これを「料理の鉄人」として有名な道場六三郎さんに監修を依頼。「MICHIBA KITCHEN PRODUCT」というブランド名で19年に販売を開始した。
「容器の材質やモーターの仕組みと同様、もう一つこだわったのが低速から高速まで自在に回転数を変えられる無段階変速機能です。開発中にたまたまテレビで、『料理人と主婦とフードプロセッサーで一番おいしいつくねをつくれるのは?』という番組をやっていて、フードプロセッサーがビリだったんです。料理人は肉を粗びきと細びきにしてブレンドしていたのですが、フードプロセッサーはよくも悪くも均等にひいてしまう。ならば、ひき加減を自在に調節できるようにしようと考えたんです」とこだわりをのぞかせる。
人けのない売り場にビジネスチャンスあり
さて、問題は販路開拓である。営業経験の乏しい同社は、売り先リストを作成し、優先順位と営業方法を検討。商品の良さをアピールするには、「使ってみてすごく良かった」という口コミが必要だと考え、まずはインターネットショッピングサイトへの出店を決めた。
並行して、家電量販店にも片っ端から足を運んだ。最初はどこでも門前払いされたが、ネット上に口コミが上がってくるようになったため、「ネットで評判」とアピールするように。すると、ある店が扱ってくれることになった。
「家電量販店で人けのない売り場があったら、そこにはチャンスが隠れています。不人気商品の並んだ棚に、もし面白い商品が加わったら、かえって目を引くでしょう?」
山本さんのもくろみ通り、同商品は閑散としていたフードプロセッサー売り場を、人の集まる一角に変えてしまった。その動向は他の家電量販店にも伝わり、やがてどの店にも置かれることとなる。人気に火が付いた後もマイナーチェンジを繰り返し、機能性を充実。最新機では、前述の七つにコーヒー豆などをひく機能を新たに加え、今では「もう手放せない」という固定ファンを獲得した。大手メーカー品より高価であるにもかかわらず売れ行きは伸び続け、累計販売数は20万台を超えた。
「最初はひと月に100~200台しか売れない時期が続きました。売れるようになるまで地道に営業を展開するという方法は、本来ならば非効率。大手メーカーならこんなやり方はしません。それができたのは、モーター製造という本業の傍らにつくれて、特別な仕入れもなく、コストもさほど掛からなかったから。今後もこの強みを生かして魅力ある製品を生み出し、海外も視野に入れたいですね」
そう山本さんが語る通り、現在は新たな調理家電を開発中の同社。変化の目まぐるしいキッチングッズ分 野に、どんなものを投入してくるのか楽しみだ。
会社データ
社名:山本電気株式会社
住所:福島県須賀川市和田道116
電話:0248-73-3181
代表者:山本弘則 代表取締役社長
設立:昭和27年
従業員:130人
※月刊石垣2015年4月号に掲載された記事です。
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