4Pから4Cそして4Eへ
マーケティングの4要素といえば、アメリカのマーケティング学者、エドモンド・マッカーシーが1960年に提唱した「4P」があまりに有名だ。プレイス(立地)、プロモーション(販促)、プロダクト(品ぞろえ)、プライス(価格)の4つは、日本の商業がチェーンストア産業化にまい進していた時代背景と重なり、金科玉条の教えとして普及した。
その後、産業構造がプロダクトアウトからマーケットインへとシフトしていくと、新たな4要素が登場した。1993年、アメリカの経済学者、ロバート・ローターボーンによる「4C」、すなわちコンビニエンス(利便性)、コミュニケーション(顧客との対話)、カスタマーバリュー(顧客にとっての価値)、カスタマーコスト(顧客コスト)だ。視点が企業側から顧客側に転換していることが分かる。
時代はさらに成熟し、顧客のニーズがより高度化していく今日、新たな4要素が注目を集めている。日本のドラッグストア業界におけるコンサルティングの第一人者、松村清氏による、エブリウエア・エニタイム(どこでも・いつでも)、エンゲージメント(約束・絆)、エクスペリエンス(体験)、エクスチェンジ(値打ち)の「4E」である。
その中でも2つのE、エンゲージメントとエクスペリエンスの重要性を感じさせる一枚のチラシに出合った。
全国に23万軒超を数える美容室。あまりの過当競争に、価格競争は激しさを増す一方だ。新規客獲得の割引率も2割、3割引きは当たり前で、半額、さらには7割引きを打ち出す店もある。
新規客を価格でかき集めようとするから、価格に敏感な顧客ばかりが集まり、多くの美容室は、顧客との良好かつ長期的な関係性を築けないでいる。そして、それは何も美容室業界ばかりの話ではない。
体験価値を重視
そんな競争の激しい既存市場にありながら、神奈川県大和市の美容室「ガナーズ ヘアードレッシング」のチラシは異彩を放っている。カラー両面のチラシに展開されているのは、店主である勝村大輔さんのサッカー愛だ。満員のスタジアムを美容室にたとえ、スタッフのキャラクターをサッカーのポジション別に表現。それに、勝村さんのサッカー観戦記まで掲載されている。けれども、どこにも価格やメニューが載っていない。
2店舗目の集客に悩んでいた勝村さんが学んだのが、体験価値を重視するエクスペリエンス・マーケティングを提唱する藤村正宏さんだった。
「楽しさを表現する」「ターゲットを明確にする」「スタッフの顔を出す」「お客さまをエスコートする」、そして「(自分の)好きなことを出す」という5つのアドバイスを形にしたのがこのチラシであり、その後も実践していった。
客に好かれるには客を好きになる
現在では多くの顧客に愛される勝村さんは言う。
「サッカーという好きなことを発信したことで、売上げを超える大きな宝物を手に入れることができました。それは、生涯お付き合いしたいと願うお客さまとの出会いです」
お客さまに好かれたければ、それ以上にお客さまを好きになることだ。そのとき、価格よりも大切なことがある。
(笹井清範・『商業界』編集長)
最新号を紙面で読める!