大型ショッピングモールや全国チェーン店に負けずに地域で独自の地位を築いている小売店がある。なぜ人が集まるのか? 何を売っているのか? なぜ売れるのか? 誰もが一度は訪れてみたい繁盛している地域の小売店の戦略に迫った。
事例1 時代に合わせた家具で集客し自社製造の仙台たんす販売につなげる
門間箪笥店(宮城県仙台市)
藩祖・伊達政宗のまちづくりにより、〝杜(もり)の都〟と呼ばれる仙台で、門間箪笥(もんまたんす)店は伝統工芸家具である仙台たんすを中心とした高級家具を販売している。以前は自社で製造した仙台たんすの販売のみだったが、今では市の中心地に店舗を構え、提案型のショールームを展開している。自社に専門の職人を抱えて製造から販売まで行うたんす店は珍しく、近年はネット販売や海外進出も進めている。
家業を継いで見えてきた将来への不安
仙台たんすは、江戸時代初期に伊達政宗が仙台藩主だったころ、築城の際に建具の一部としてつくられたものがルーツだと言われている。仙台藩の武士たちが刀や着物などをしまう家具として愛用した仙台たんすは、仙台市の市木でもあるケヤキの木材を10年以上寝かせ、30もの漆(うるし)塗りの工程を重ねて表面を磨き上げ、縁起物や家紋をあしらった金具を取り付けている。この伝統的なたんすは、今もなお仙台の地でつくり続けられている。
門間箪笥店は明治5(1872)年の創業で、以来145年にわたり同じ場所で製造を続ける唯一の仙台たんす製造元となっている。かつて仙台藩の足軽だった初代が明治維新後に家具づくりを始め、三代目が法人化して、今に至る同社の礎(いしずえ)をつくった。工房には指物師(さしものし・家具など木工品の職人)や塗師(ぬし)といった職人を抱え、昭和初期に建てられた住宅と工房は国の 文化財にも指定されている。
現在、同社の専務取締役を務める門間一泰(かずひろ)さんは、大学を卒業後、リクルート社に勤務していたが、平成23年の東日本大震災後に退職。家業を継ぐために戻ってきた。
「もともと家に戻るつもりでいたのですが、そこに震災が起こって店の見通しがつかなくなり、家に戻るのをいったん見直しました。ところが震災後すぐに父が亡くなり、母一人ではやっていくことが難しいということで、結局は戻ってきました」と門間さんは言う。父親である先代の後を継いだ母親が六代目社長となり、将来は門間さんが七代目を継ぐことになるが、実質的にはすでに門間さんが会社の運営をすべて担っている。
「私が戻ってきた当時、店は裏の工房でつくったものを表の店舗で売るという形でした。建物も20年前から『仙台箪笥伝承館』として公開していたので、博物館のような形で仙台たんすを見せるという位置付けのほうが強かった。販売もしていましたが、積極的に宣伝もせず、営業に回っていませんでした。このままでは先細りなので、顧客との接点を増やすための新たな取り組みが必要でした」
そこから門間箪笥店の新たな展開が始まった。
無垢材のオーダー家具を扱い〝購入潜在層〟にアプローチ
「前職での最後の2年間はブライダル関連で家具を扱う部門にいたので、自社の製品だけを販売しても売れないことは分かっていました。すべて手づくりの仙台たんすは高価で、たとえいいものであってもそう簡単に買っていただけるようなものではありません。そこで、自社の仙台たんすと一緒に置いても違和感のない、無垢(むく)材(丸太から切り出した木材)を使った高級家具の販売も始めることにしたのです。その家具は提携工房に依頼して製造しています」
家具は住宅購入や結婚のタイミングで買う人が多いが、特に高級家具は価格の関係もあり、結婚よりも住宅購入の際に買う人の方が多いという。そこで門間さんは、その層にターゲットを絞って販売を進めていくことにした。
「無垢材の家具を選ぶような、お金に余裕があって家具に関心が高い人なら、今買うのは家具だけでも、将来的には仙台たんすも買っていただけるかもしれない。そういう〝購入潜在層〟にアプローチするために無垢材の家具を取り扱うことは、自社のブランディングの点から見ても大きくズレませんし、集客につながるだろうということで始めたのです」
このような努力が実り、店での売り上げは徐々に増えていった。そして、自社製品にも新たな風を吹き込んでいくことになる。家業を継いだ翌24年には外部の若手デザイナーと協力して新たな自社ブランド「monmaya+」(モンマヤプラス)を立ち上げ、伝統的な仙台たんすに現代的なデザインを掛け合わせた製品を発表した。
「工房ではこれまでずっと伝統的な製品をつくってきましたが、それだけでは売っていくことが難しい。昔ながらのものが悪いわけではないのですが、どんなに品質がよくてもデザインが好みに合わなければ人は使わない。そこで、今の生活様式に合ったものを、うちの技術を生かしてつくろうということで取り組み始めました」
伝統的な仙台たんすは重厚なつくりである。新たなブランドの製品は、伝統ある高級感を感じさせながらも、軽やかなイメージのデザインにしていった。
〝接客〟ではなく〝営業〟で顧客のニーズを把握する
新しいことを始めるにあたって門間さんが気付いたのは、話題性の重要さだったという。
「うちの製品はグッドデザイン賞(毎年、デザインが優れた物事に贈られる賞)をいただいたこともあるのですが、それよりも、伝統工芸の老舗がデザイナーとコラボして何か新しいことをやっているぞということの方が話題性があり、マスコミに取り上げられやすかった。だからといって、それでたくさん売れるようになったわけではありませんが、店の認知度は高まりました」
業績が伸びて店が手狭になり、市内中心部からも離れていたことから、26年3月、繁華街近くに路面店「monmaya大町店」をオープンした。店内は和風モダンな内装で、無垢材のオーダー家具をメインに置きながら、仙台たんすを今の生活の中でどのように使うかといった提案型のショールームにしている。アクセスがよくなり、展示する家具も増えたことから、以前に比べて多くの人が来店するようになったという。
「家具というのは人生で何度も買うものではないので、家具を買い慣れた人などいません。そのため、来店したお客さまが何を求めているかをしっかり聞き取り、こちらから多くの情報を提供していくことを心掛けています。これはもはや〝接客〟ではなく、うちでは〝営業〟と呼んでいます。うちの家具は高いのですが、世代を超えて使えるものばかり。100年前の仙台たんすも修繕すれば新品同様になります。そういった、ものを大切にするという昔ながらの日本の価値観もお伝えしています」
今のところは自社の仙台たんすよりも無垢材のオーダー家具の方が売り上げは多い。将来的には、家具を購入してくれた顧客が仙台たんすにも興味を向けてくれることを期待しているという。
「うちのベースはあくまでも仙台たんすで、モットーは〝仙台たんすの技能を継承し続ける〟です。そのためにもさらに売り上げを伸ばし、雇用する職人の数を増やしていければと思っています」
江戸時代から続く地元の伝統産業を守っていくためにも、同社は家具の販売における新たな展開を模索し続けていく。
会社データ
社名:株式会社門間箪笥店
所在地:宮城県仙台市若林区南鍛冶町143
電話:022-222-7083
代表者:門間友子 代表取締役
従業員:12人(パート含む)
※月刊石垣2017年12月号に掲載された記事です。
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