事例3 遊休機械のマッチング成功の裏に被災地に密着した機械の〝目利き人〟あり
仙台商工会議所(宮城県仙台市)
仙台商工会議所に応援派遣された一人の経営指導員と被災地の経営指導員の「失った工作機械さえ手に入れば、新たな一歩が踏み出せるかもしれない」という思いから始まった「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」。これは津波の被害を受けた沿岸部の事業者を支援するため、全国の事業者から無償で遊休機械を提供してもらい、必要とする被災事業者に届けるというものだ。平成23年9月から昨年12月の休止までに3200件を超えるマッチングを実現。被災地の復興に多大な貢献を果たしたプロジェクト成功の裏には「機械の目利き人」の活躍があった。
商工会議所ネットワークで全国から機械を収集
仙台商工会議所は「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」が本格稼働する前から動き出していた。独自に被災事業者から要望を集め、東京、名古屋、大分の各商工会議所会員企業21社から提供された機械・工具などを引き渡す支援をしていたのだ。
この支援が被災事業者の再建に役立つことが実証できたことから、東北六県商工会議所連合会はこれを全国展開することを決断。事務局には、震災対応相談員という〝機械の目利き〟ができる専門家を配置し、被災事業者の要望を収集、全国の商工会議所に協力を求めて無償で提供できる機械・工具の情報を発掘していった。そして日本商工会議所は双方の情報を集約したデータベースを設置。全国的にマッチングができる体制を整えた。
ミスマッチを解消するため実際に現場に赴く
ところが、初年度は試行錯誤の連続だったと、目利き人の一人・竹沢和彦さんは振り返る。「例えば被災事業者が金属加工に欠かせないボール盤が欲しいという要望を出していたとします。当初は一刻も早く機械を届けたいという思いがあったので、ボール盤の提供があればマッチングさせていました。ところが、実際にそれを持っていってみると、スペックが合わないといった不満が出ることも多かったですね」
というのも、被災事業者が提出した申請書には具体的な要望(仕様)が書かれていないことが多く、また提供された遊休機械に仕様書がなかったからだ。機械商社の出身で機械知識が豊富な竹沢さんであっても、書類上のマッチングには限界を感じていた。そこで、ミスマッチを少しでも減らすため、2年目からは被災地の事業者を巡回して、具体的な要望を聞きとることにした。
「被災した皆さんは再建のためにやるべきことがたくさんある。欲しい機械をリストにして提出する『要望機械情報登録用紙』(要望書)に詳しく書いている余裕がないのです。だから要望書には3品目しか書いてなくても、会って話を聞くと『実はあれも欲しいこれも欲しい』という要望が出ることが多かった。逆に『こんな提供機械があるので使いませんか』と提案することもありました」
不安を和らげるために改善を続ける
被災事業者からは「無償提供はありがたいが、どんな機械が来るのだろう」という不安の声もあった。そこで竹沢さんら目利き人は提供された機械の画像付きカタログを作成。具体的に機械の画像を見せて不安を取り除いていった。
それでも「私の認識不足で残念な対応をしてしまったケースがありました」と竹沢さんは悔やむ。国で建設した仮設工場で再開を果たした事業者に卓上ボール盤、両頭グラインダー、旋盤、コンプレッサーの4点を引き渡した。これらは200Vの電源が必要な機械だったのだが、この工場には100Vの電源しか使えなかったのである。一般的に工場の電源は100Vと200Vの両方が完備されている。竹沢さんは200V電源を必要とする機械であることを相手側に確認したものの、実際に200V電源が引かれているかどうかまではチェックしなかった。幸い宙に浮いた機械類は同業者などに譲渡されることになり、無駄にはならなかったが、常識にとらわれずに細心の注意を払わなければならないとあらためて感じたという。「200V電源は許可申請認可後、借用者の自己負担で工事しなければならないことが分かりました。事業者の皆さんは資金的に余裕がなく、大変な思いをされていることを再認識させられた出来事でした」
プロジェクトの経験は次のステージにつながる
復興初期段階において、全国から提供された遊休機械はさまざまな業種の事業者の役に立った。ある水産加工業者は高品質な溶接ができるTIG溶接機を譲り受けて水産加工機械のメンテナンスができるようになったし、機械製造業者は待望の旋盤が手に入りセメント加工機械の部品の製造・補修が再開できるようになったという。また建設業者はフォークリフトを同業者と融通し合って使うことで効率よく仕事ができるようになったと喜ぶ。竹沢さんは「たくさんの事業者から心からの感謝の声をいただいたことを、機械の提供事業者の皆さんに知っていただきたい」と笑顔を見せる。
27年12月9日、仙台商工会議所で行われた最後の贈呈式。プロジェクトに尽力した仙台商工会議所の鎌田宏会頭、全国で最多の支援を行った刈谷商工会議所の太田宗一郎会頭らが出席。その後一行は石巻商工会議所へ移動し、商用バンやフォークリフトを引き渡した。
今後の商工会議所の被災地支援は、失った販路の開拓・売上向上など販売面の支援策へ移っていく。しかし、竹沢さんら目利き人が蓄積したマッチングのノウハウは、平時でも会員企業支援の役に立つはずだ。その意味でもプロジェクトの意義は大きかったといえるだろう。
※月刊石垣2016年3月号に掲載された記事です。
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