事例4 遊休機械を活用して津波で失った修理工場を再建
ファクトリーシリウス(宮城県石巻市)
宮城県石巻市にある自動車修理工場「ファクトリーシリウス」。創業して1年半、ようやく経営が軌道に乗り始めた頃だったが、東日本大震災によって発生した津波に一瞬で工場も機械ものみ込まれて消えてしまった。なんとか2カ月後に再起したものの、業務に必要な機械を買う余裕は無い。そんな手詰まりの状況を救ったのは「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」だった。
泥の中から掘り出した工具とトラック1台で事業を再開
山内淳さんは、平成21年11月、石巻市の旧北上川河口近くで念願だった自動車修理・板金・塗装を主な業務とする修理工場ファクトリーシリウスをオープンさせた。その後、従業員も一人雇い、これからという23年3月11日、東日本大震災が襲った。
「あの日、従業員は仙台に出ていたので工場にいたのは私一人でした。津波警報が発令されたのでトラックで高台に避難しました。山の上から、津波に自分の工場や預かった車がのみ込まれていく様子をなすすべもなく見ていました」
心が折れる光景である。しかし山内さんは負けなかった。
「私も家族も従業員も、とにかく命は助かった。だからこそ、ここで負けてはいけない、負けるわけにはいかないと心に決めました」
被災から2カ月後の5月には再建に向けて動き出した。浸水の被害を免れた自宅を拠点にして出張修理を始めたのだ。
「工場の跡地で使えるものを探したのですが、機械類は全て壊れていて、故障診断機も使えなかった。創業に合わせてそろえた機械類を失ったことは痛かったけれど、工具類は泥の中から掘り出すことができた。トラックにこれらの工具類を積んで、お客さまの電話があると、すぐに修理へ向かいました」
当時、最も多かった依頼はパンクの修理。津波が引いた道路上にはがれきや釘などが残っていたため、タイヤが頻繁にパンクしたのだ。「修理に向かう途中で自分のトラックがパンクすることも何度もありました。それくらい道路の状態は悪かったのです。そんな中でも石巻では生活を再建するために自動車を必要とする人は少なくありません。しばらくすると、車が使えなくなったり、流されたりしてしまったお客さまから中古車が欲しいという相談を受けるようになりました。そこで、すぐに中古車の売買に必要な古物商の免許などを取り、依頼を受けた車を探す仕事も始めました。古物商の免許を取得したことで下取りや買取業務ができるようになり事業の幅が広がりました」
プロジェクトを活用して本格的に業務を開始
徐々に仕事が増えて先が見えてきたことから、父親が市内に保有していた土地を借りて、修理工場を再建することにした。ただ建物を建てたり、新たな機械を導入したりする余裕はない。書類の作成や在庫品の管理するために使うプレハブの事務所を用意するのが精いっぱいだった。
「そんなとき、商工会議所が『遊休機械無償マッチング支援プロジェクト』を行っていることを人づてに聞きました。早速必要になる油圧プレス機や半自動溶接機などを申し込みました」
仙台商工会議所の震災対応相談員(機械の目利き人)が「被災地支援機械情報データベース」の要望機械情報と提供機械情報からマッチング候補を厳選。24年12月7日、石巻商工会議所で定盤、電気ドリル、グラインダー、半自動溶接機、ボール盤、油圧プレスなど8台が引き渡された。これにより、基本的な修理はできるようになった。しかし、当時はまだ天井のない〝青空工場〟で作業していたため、受け取った機械はコンテナに仮置きしていた。
そして26年4月、工場の建物が完成する。ついに提供された機械が据え付けられてファクトリーシリウスの業務も本格的に動き出した。
「その後も合わせて6回ほど無償提供していただきました。そのおかげで、ここから先は自分の力でやっていけるという見通しを持つことができました。何よりもうれしかったことは機械がそろったことで『あそこへ行けばすぐに修理してくれる』という口コミが広がって、お客さまが増えたことです。運送会社のお客さまが推薦してくれたようで、個人のお客さまだけでなくトラックのディーラーさんからも外注の仕事が来るようになりました」
仕事はできる限り断らず、すぐに直せるものは即座に直す。震災直後から決して諦めずに業務を続けていたそんな山内さんの熱心な姿勢が評価されたのだ。
「今後は修理だけでなく、トラックの作業効率を高める架装にも力を入れていきたい。例えば漁師さんのトラックならさびないようにバンパー類をステンレスでつくるとか、使いやすくて長持ちするような改善作業をしていきたいですね」と山内さんは目を輝かせる。実は山内さんは車体に絵を描くエアブラシの達人でもある。被災地を走り回った同社の修理トラックの荷台には、出版社の許可を得てアニメの絵がエアブラシで描かれている。それがどれほど子どもたちを喜ばせたことだろうか。
これからは実用的な架装だけでなく、車に乗ることが楽しくなる架装もしたいと山内さんの夢は広がる。また「修理技術を学びたいという後輩たちを育てたい」という願いもある。山内さんは「機械を提供してくれた皆さまのためにも自らの夢をかなえたい」と笑顔を見せてくれた。
会社データ
社名:ファクトリーシリウス
住所:宮城県石巻市門脇字捨喰48-1
電話:0225-95-0208
代表者:山内淳 代表
従業員:2人
※月刊石垣2016年3月号に掲載された記事です。
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