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テーマ別企業事例 〇〇産がブランドになる 「産地名」にこだわるものづくり

ブランド野菜やブランド肉など農業の分野では当たり前になった感のある地域ブランドだが、ものづくりの分野では地域や産地名を前面に出している企業はまだ多くない。そこで、地域に伝わる伝統技術や特産品を見直し、誇りを持って産地名で新たな地域振興や自社の業績を上げている企業の成功例をお届けしたい。

事例1 伝統的絹織物「足利銘仙」を復刻し地元の繊維業者と市場を結び付ける

ガチャマンラボ(栃木県足利市)

ガチャマンラボの高橋仁里社長。「足利に戻ってきたばかりのころは、いつかは東京に戻ろうと思っていましたが、繊維と関わるようになり、やっぱり自分はこのまちの人間だったんだなと思うようになりました」

栃木県足利市は、かつて繊維産業の一大生産地としてその名を知られていた。今も600社近い関連メーカーが残るその地で繊維製品の製造・販売業を営むガチャマンラボは、産直アパレル事業を行うとともに、地域の伝統的な絹織物である「足利銘仙」を復活させ、新たな商品開発に挑んでいる。さらには足利銘仙を海外に服地として販売するなど、グローバルな展開も進めている。

高い技術を持つ繊維産業の厳しい現状を改善したい

織機をガチャンと動かせば、万のお金がもうかる。戦後間もない昭和25年ごろ、日本の繊維産業は朝鮮特需などによる「ガチャマン景気」に沸いていた。平成25年に設立されたガチャマンラボの会社名はそこから付けられたという。

「昔のようにガチャンとやったら万がもうかるようになることを研究するという意味で付けました。最初、銀行でその名前を呼ばれたときにはちょっと恥ずかしかったですが」と、ガチャマンラボ社長の高橋仁里さんは笑う。「でも、今はもう地元でもガチャマンという言葉を知らない人が多いんです」

かつての足利は、繊維産業の一大生産地としてガチャマン景気の恩恵を受けていた。しかしその後、国外から安価な繊維が輸入されるようになり、国内の繊維産業が空洞化していくと、足利の繊維産業も衰退していった。

「私は以前、東京で会社勤めをし、株や為替の運用などをしていたのですが、リーマンショックを機に足利に戻ってきました。親戚が機屋(織物工場)をやっており、臨時的に営業としてパリやミラノの有名ブランドに半ば飛び込みで生地を売り込みに行ったら、うまく売ることができたんです」

誰もが知っているアパレルブランドに持ち込んだのは高品質で織るのが難しい麻の生地だった。日本では高くてなかなか売れない。商社をはさまない無謀な営業だったけれど、、生地表面の表情が独特で面白いということで、その場で購入が決まった。

このことからも足利の繊維産業がまだまだ高い技術力を持っていることが分かる。と同時に、地元の繊維工場を回っていくうちに、足利の繊維産業を取り巻く厳しい現実も見えてきた。

「繊維の会社は収益を上げづらい。販売先の品質要求が高いわりに価格が抑えられている。さらに、時には取引額以上の補償も求められたりする。それでどこの会社も不良在庫を抱えることになり、構造的にもうからないようになっているんです。その状況を改善していきたいと思い、会社をつくり、解決方法を考えていくことにしました」

欧州の高級ブランド業界に新たな商機を見出す

その一つが、各工場の在庫生地を活用した「産直アパレル事業」である。ほとんどが下請け工場であるため自分たちで販売するルートを持っておらず、せっかくの高級生地が倉庫で眠ったままになっていたのだ。「足利周辺地域だけで生地の在庫が50億円分はあるといわれていて、それをどうにかしたいと思いました。足利には繊維関連企業が600社あるといわれ、全事業者の約3割を占めています。ここの産業を復興するには繊維を元気にしないとまちに活気が戻らないですから」と高橋さんは言う。

そこで高橋さんは、工場の在庫の中から高品質の生地を探して買い取り、シャツやストールなどの製品を地元で一貫生産してオリジナル商品として売り出した。平成28年には東京・新宿の百貨店で販売を始めたほか、高級綿を使ったTシャツを3980円でインターネットで販売したところ、生産した250着が1カ月で完売。1万8000円のパーカー30着もすぐに売り切れた。その後もさまざまな商品を生産・販売している。

そして、足利の繊維産業を元気にするためのもう一つの取り組みが、足利の伝統的な絹織物「足利銘仙」の復活である。独特のかすんだ模様が特徴で、大正から昭和初期にかけて足利銘仙の和服が全国的に大流行した。しかしその後、洋服が一般的になるなどの理由で売れなくなり、20年ほど前に生産が途絶えてしまったという。

「以前から足利銘仙の復刻に取り組んでいる市内の機屋さんの教えを受け、その後を継ぐ形でこれに携わっています。伝統工芸品でも売れなければ続けていけない。足利銘仙は生地にさまざまな表現ができる奥行きが深い技術です。幅の狭い着物地ではなく、約3倍に広げた洋服地の規格で製造できれば高級ファッションの世界で大きな需要があると想定しています。今は地元の生地プリント加工業者さん2社と協力し、織りを私のところの工場で担当しています。一度途絶えたものを復刻して商品にするのは簡単なことではないので、今は試行錯誤している最中です」

新たなブランドを立ち上げ伝統に加えて革新を進める

現在、同社は市内の生地プリント加工業者とともに、銘仙の三大産地の一つで今も生産を続けている埼玉県秩父市の繊維業者3社と手を組み、「STYLE*MEISEN(スタイル*メイセン)」という新ブランドを立ち上げている。これは経済産業省による「絹のみち広域連携プロジェクト」の支援を受けて始まったもので、新進気鋭のデザイナーがデザインを担当し、「STYLE*MEISEN」の各社が銘仙の生地を使って現代的なデザインのドレスやワンピースなどをつくっている。昨年は東京と大阪の有名百貨店の特設展示場で販売し、売れ行きもよく好評だったという。

「私たちがつくる銘仙は、昔の銘仙とは比較にならないほど技術的に難しい。ジャカード織で生地に柄を織り込んで立体的な表情も出しています。これができるのは世界でもなかなかない。伝統を維持していくためには革新こそが重要なことだと思っていますから」と、高橋さんは力強く語る。

さらに、伝統産業だからといって商売にならない形でものづくりをしたくないと考えている。そのためにはブランド戦略が重要になると高橋さんは続ける。

「足利銘仙をヨーロッパの高級ブランドに使ってもらうのと、国内の知る人ぞ知るブランドに使ってもらうのとでは、そのあとの訴求力が大きく変わってきます。すでに昨年夏にフランスから高級ブランドのデザインチームが来て、足利銘仙を使った生地をデザインしています。今年、その生地をパリで発表することになっており、現地の高級ブランド向けに販売していく予定です」

同社はこうして地場産業と市場を結び付けることで、ガチャマン時代に栄えた足利の繊維産業の復権を目指している。「足利の繊維企業はそれぞれが自分たちしかできないようなコアなものづくりをしていて、それを市場につなげていく必要がある。そのためにガチャマンラボのビジネスを在庫生地の利活用と足利銘仙の復刻の2つに絞り、産地発のブランドとして展開していけば、必ず足利の産業全体の活性化につながっていくと思っています」

会社データ

社名:ガチャマンラボ株式会社

所在地:栃木県足利市山川町30-2

電話:0284-64-7676

HP:http://gachamanlab.com/

代表者:高橋仁里 代表取締役

従業員:3人

※月刊石垣2018年2月号に掲載された記事です。

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