事例2 高付加価値商品をつくり全国の林業を元気にしたい
磐城高箸(福島県いわき市)
復興庁の「『新しい東北』復興ビジネスコンテスト2014」で大賞を受賞した、福島県いわき市川部町にある「磐城高箸」。同社は、首都圏からIターンでこの地に赴いた髙橋正行社長の手によって5年前に創業された、割り箸製造・販売の会社である。髙橋さんは、なぜこの地を選んだのか。そして、震災を乗り越え、どのように「復興ビジネス」を推し進めてきたのだろうか。
間伐材の有効活用は森林の再生にもつながる
髙橋さんがいわき市に移ったのは、今から6年前の平成20年のこと。それまでは、神奈川県の横須賀市で司法試験を目指して、勉強していた。しかし、髙橋さんにとって、このいわきの地は縁も由縁(ゆかり)も無かったわけではない。幼いころから慣れ親しんだ土地だった。
「祖父が勿来(なこそ)の駅近くにある磐城造林という会社の専務をやっていたんです。祖父名義の1haの山林もありました。小さいころから、そこで夏休みを過ごしたり、祖父から林業のことを聞かされたりと、この地と林業にはなじみがあったんです」
祖父の遺(のこ)した山林は、管理する人が誰もいない状態だった。「なんとかしたい」。そう考えた髙橋さんは、法律家への道を諦め、林業で生きる決意を固め、いわきに職を求めた。しかし、直面したのは、日本の林業を取り巻く現実だった。間伐材の丸太には値が付かず、山主が管理しなくなり、森林は荒廃を待つばかりだった。山を維持するには、間伐材の価格付けが最も大事で、それには付加価値の高い製品をつくることが近道だと髙橋さんは考えた。
「この辺りは、スギの植林も盛んな地でした。そこで、スギの間伐材の有効活用ができないだろうかと考えたのです」
そんなとき、書店で髙橋さんは1冊の本と出合う。『割り箸はもったいない? ―食卓からみた森林問題』(筑摩書房)という、森林ジャーナリストの田中淳夫さんが書いた本だった。そこには、一般的にはヒノキはスギよりも高級とされているが、割り箸としてはスギの方が評価が高いこと、1㎥あたりの単価が、住建材用の製材に比べ、割り箸用にすると、5倍以上にもなることなどが記されていた。しかも、間伐材の有効利用は森林の再生へとつながるという。
髙橋さんは早速田中さんにコンタクトを取り、スギを使った割り箸が事業として成り立つ自信を深めた。その後、各地の割り箸工場を見学。北海道にある割り箸製造機のメーカーにも足を運んだ。約2年間の準備期間を経て、いわきへ移住。22年8月に会社を立ち上げた。
「祖父が専務を務めていたときに、その会社で働いていた方が退職して近所にいらっしゃったので、相談役として手伝ってもらいながらの起業でした」
大規模な余震でくじけそうに
11月中旬、ようやく製造機器も整い、スギ割り箸の試験製造を開始。翌23年2月末、満足のいく製品が出来上がった。高級割り箸の製造・販売「磐城高箸」の船出が目前に迫った3月11日、東日本大震災が発生。福島第一原発事故の影響により、卸売業者への契約はすべて解除されてしまった。
10日間ほど髙橋さんは横須賀の実家へ避難していたが、すぐにいわきへ戻る。まず手掛けたのは、製品の放射線表面線量の検査だった。県が行った検査で全く問題ないとの結論を得たのが4月5日。すぐに製造再開の準備にとりかかった。しかし、4月11、12日、いわき南部を震源とする大規模な余震が起こり、製造設備の一部が損壊するという事態が襲う。材料となるスギが生えた山林も崩れた。
「本震のときは、もともとマイナスからのスタートでしたし、むしろ逆境をバネにしてやろうという意気込みもありました。しかし、この余震で、もう駄目だという思いばかりが募りました」
「もう横須賀に戻ってこい」という家族の声を振り切った髙橋さんだが、この余震では廃業を本気で考えたという。そんなとき、東京と福岡を中心に活動するデザイナー有志による震災復興支援団体「Eat East!」から声が掛かった。日帰りで東京と福岡から来てくれた彼らは、すぐさま3000膳の箸を買い取ってくれた。そして、それらをオリジナルデザインでパッケージ化し、チャリティーイベントで販売。売上を全額、日本赤十字社に寄付したのだ。「僕がうなだれていても仕方ない。事業を再開し、高付加価値化のためのデザインを彼らとともに考え一緒にやっていこうという気持ちになりました」。
被災地産のスギにこだわる
髙橋さん自身には、被害の大きかった東北三県の間伐材を使って割り箸をつくり、三膳をセットにするというアイデアがあった。「Eat East!」のデザインによりパッケージが完成した製品は、「三県復興 希望のかけ箸」と名付けられた。そして、1週間後に締め切りが迫っていた「全国間伐・間伐材利用コンクール」に応募。見事に間伐推進中央協議会会長賞を受賞し、商品化が進められることになった。
「三県復興 希望のかけ箸」には、津波の被害が甚大だった岩手県陸前高田市の「気仙杉」、本震で最大震度7を記録した宮城県栗原市の「栗駒杉」、風評と余震の被害が顕著な福島県いわき市の「磐城杉」の三つの被災地のスギが使われている。それぞれの銘が焼印で刻まれ、三県の県鳥であるキジ、ガン、キビタキのイラストが配された。11月に三膳セット500円(税別)で売り出されたが、そのうち150円を義援金として、50円ずつが各市役所に届けられる仕組みだ。これまでに、それぞれ30万円ずつ、合計90万円が髙橋さんの手で直接届けられている。
磐城高箸は仕入れから製品販売まで一貫して自社で行い、地域産木材を直接高値(落札価格の3割増し)で仕入れ、被災地の林業再生にも貢献している。また、石油系の燃料を使わず、端材(はざい)などをボイラーの薪(まき)として再利用。さらには地域の雇用創出や障がい者の自立支援への取り組みも積極的に行っている。「端材から抽出するアロマ用のスギ精油、端材活用のスギ枕……もっともっと付加価値の高いものを生み出していきたい。それが、いわきだけでなく全国の林業を元気にする手助けになればと考えています」。
会社データ
社 名:株式会社磐城高箸
住 所:福島県いわき市川部町川原2番地
電 話:0246-65-0848
代表者:髙橋正行 代表取締役
従業員:7人
※月刊石垣2015年3月号に掲載された記事です。
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