東日本大震災から4年目を迎え、復旧から本格的な復興への途上にある東北の被災地。全国各地の商工会議所との連携を核に、着実に復興への歩を進める戦略と、その現状をリポートする。
総論 全国514会議所との絆を大切にして、復興へ突き進む
鎌田 宏氏(かまた・ひろし)/東北六県商工会議所連合会 会長 仙台商工会議所 会頭(宮城県仙台市)
「ようやく復興が目に見えてきたものの、人手不足や資材高騰による遅れが生じている」と東北六県商工会議所連合会で会長を務める仙台商工会議所の鎌田会頭は先行きに懸念を示す。こうした中で、被災地が置かれている現状と課題、そして東北と仙台が目指す未来を聞いた。
―東北の被災地は震災から4年目を迎えました。復興に向かう現状をどのようにお考えですか。
鎌田 震災直後約47万人だった避難者数は、ほぼ半数の約23万人まで減りました。内訳を見ますと、岩手、宮城、福島の3県で仮設住宅などに暮らす避難者は約18万人、3県の県外避難者数は5万4197人に上ります。そのうち福島県の方々が4万5934人と約85%を占めており、福島県からの人口流出が懸念されています。
復興状況は、ようやく土木から建築へと進んだところです。防災集団移転や災害公営住宅への入居も一部で始まるなど、生活再建に向け「目に見える復興」の段階に入ったと感じています。しかしながら、人手不足をはじめ、建設資材・人件費の高騰など、工場などを再建しようとする事業者の足かせとなっており、復興への遅れが懸念されています。土地のかさ上げや防潮堤の高さに関する問題の決着が長引いているほか、権利関係が複雑で用地取得が難航している地域もあり、まちづくりや産業の再生に格差も生まれています。
コミュニティーの核となる商店街については、震災以前から空洞化が問題となっていました。この状況に震災による人口流出が拍車を掛けており、対策を講じることが急務といえます。
産業面では、被災した中小企業などの施設・設備の復旧を後押しするグループ補助金の活用や、日本商工会議所のご協力により全国への働き掛けで実施している「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」により、建物や設備の復旧は進んでいるものの、売上の回復が遅れています。沿岸部の主要産業である水産・食品加工業では、震災前水準以上に売上が回復している割合は約20%(グループ補助金交付先へのアンケート結果より)にとどまっているほか、中国や韓国などによる水産物に対する輸入規制の影響も深刻です。
―仙台商工会議所として、被災企業などに対して特に力を入れている支援策、対策はどのようなものでしょうか。また東北六県の各商工会議所との復興に対する連携と成果、今後の目標などについて、お聞かせください。
鎌田 遊休機械などを無償でご提供いただき、被災地事業者の要望とのマッチングを行う「遊休機械無償マッチング支援プロジェクト」のマッチング機械件数はこれまで2892件(27年2月17日現在)を数えています。提供いただいた商工会議所は79会議所、提供いただいた企業数425社、受け取った商工会議所は10会議所、受け取った企業数305社、となっており、全国各地からの支援にただただ感謝申しあげる次第です。中でも愛知県内からは、提供件数の3割に当たる800件超の提供をいただいています。
26年度は、仙台商工会議所の工業部会が被災地域のニーズ把握を行いながら、ものづくりの盛んな各地域の商工会議所を訪問。被災地の現状をお伝えしながら機械の提供をお願いしました。こうした取り組みの成果として、京都、新潟、埼玉などからも新たに機械を提供いただくことができました。
販路回復・拡大支援事業としては「伊達な商談会」を実施しています。当日の成約率は、一般的な商談会では通常5%程度といわれていますが、当商談会では約16%と高い成約率となっています。専属のコーディネーターによるきめ細かな対応や、複数回にわたる事前のセミナーなどにより半年後の推定成約率は30%と見込まれています。これに加え、全国のバイヤーを集めて塩釜、石巻、気仙沼といった宮城県の沿岸被災地の状況視察と商談会を兼ねた集団移動型商談会を実施しました。さらに岩手県(釜石市・宮古市・大船渡市)や福島県(いわき市)の沿岸被災地においても実施しており、この取り組みを東北全体にも行き渡らせ、個々の事業所の人材育成と販売力強化につなげていきたいと考えています。
韓国をはじめとしたインバウンド観光客誘致の促進では、仙台商工会議所として、一昨年友好協定を締結した韓国の光州商工会議所との継続的な交流や、ソウルにおいて財界や観光関係者を対象に、「東北観光の夕べ」を開催するなど風評被害の払拭(ふっしょく)を図ってきました。本年は日韓国交正常化50周年という節目の年でもあり、昨年以上に交流強化を進めます。
福島県でも、一昨年県内商工会議所会頭を主なメンバーとして「福台友好交流の翼経済ミッション団」を編成し、200億円にのぼる支援をいただいた台湾を訪れ、支援に対する感謝とインバウンド促進のため経済団体や観光団体と交流を図りました。その成果が実り、昨年台湾の経済団体で構成する40人規模の経済ミッション団に福島を訪問いただきました。
また、東北六県商工会議所連合会としては、福島県の再生に力を入れています。昨年は、福島県いわき市で日本商工会議所の移動常議員会を開催していただくなど、全国からの支援にあらためて感謝申しあげます。東北六県連としても、福島応援ツアーを実施しており、宮城県連では、福島県の南相馬市原町区・相馬市などを訪問し、それぞれが抱える課題を伺い、解決に向けた支援を行っています。東北六県下の各地商工会議所においても、沿岸部はもとより内陸部も含め広く訪問するなど、東北六県が一丸となって福島県を応援しています。今後も販路回復事業などと併せて福島支援を強化していきます。
―「復興からさらなる成長へ」。実現するために仙台商工会議所が取り組んでいること、今後取り組むべきことについて、お聞かせください。
鎌田 宮城県仙台市においては、平成27年度は復興の先を見据えた取り組みに向けた重要な年です。仙台圏では3月に「国連防災世界会議」が開かれ、7月に仙台に新たな観光スポット「仙台うみの杜水族館」がオープンします。8月には仙台空港民営化における運営権者が決定し、28年3月より民営化。そして12月には「仙台市営地下鉄東西線」が開業します。
さらに、創造的な復興の核として位置づけられているのが、宮城県が中心となり、東北大学や東北各地の国立大学などとの連携のもと、東北地方における新技術の研究開発・産業の振興に寄与する「放射光施設」(強力な光を使った巨大な顕微鏡を有する最先端の研究施設)です。東北一体となった誘致活動を展開し、東北の復興、地方創生につなげていきます。
今年で発災から20年を迎える阪神・淡路大震災では、震災から3〜5年で倒産・廃業が相次いだと伺っています。当地域では被害地域が広大だったこともあり、復興需要は今後数年は続くといわれています。しかし、復興需要が途切れたときの倒産・廃業が心配です。当所としても、そうしたリスクに備え、経営のフォローアップ強化とともに、連鎖倒産に対するセーフティネットの構築を図らなければならないと考えています。
―復興の段階が進むにつれて、必要な支援も変わってきます。今後、被災地において必要とされる支援はどのようなものだとお考えですか?
鎌田 風評被害の払拭と震災の記憶の風化防止が喫緊の課題です。昨年、訪日外国人旅行者数が日本全体として1300万人を超える中、東北の訪日外国人旅行者の状況は延べ宿泊者数ベースでは、震災前の6割程度までしか回復しておりません。全国の宿泊者数に占める東北の割合はわずか1%です。原発事故による風評被害の根深さを痛感しています。昨年に引き続き、われわれ東北六県連の正副会長による韓国訪問や、イタリア・ミラノで開催される国際博覧会への参画・出展、東北六市が連携してアメリカにおいて物産品を販売したり東北の祭りを展示する事業などを通じ、世界に向けて東北の現状と正しい情報を発信していきます。
海外における風評被害を払拭するには、3月14〜18日にかけて仙台市において開催される「第3回国連防災世界会議」が絶好の機会になると捉えています。公式関連行事であるパブリック・フォーラム・イベントの一環として仙台商工会議所は3月16日に講演会を開催します。日商の岡村正名誉会頭、みやぎ工業会の竹渕裕樹理事長とともに私も講演します。併せてパネル展示なども行い、震災で得た経済・産業界の教訓を世界各国の参加者と共有していきたいと考えています。
そのほか冒頭でお話ししたように、人手不足が課題となるなか、一部の被災地では商談会などで関西圏の商談相手と案件が成立しても、トラック運転手が手配できないため、配送手段が確保できないという事態が起こっており、早急な対策が求められております。このように復興の状況は地域によって全く異なり、それぞれに課題を抱えているというのが現状です。東北六県連としましては、そうした課題を細かく聞き取りながら、日商との協力のもと、要望をはじめとした活動を実施してまいります。
復興はいよいよこれから本格化します。被災地が復興を果たすには長い年月を要するでしょうが、被災地のわれわれは、全国514商工会議所の皆さまとのネットワークを何よりも大切にしながら、復興に向けまい進してまいります。引き続きのご理解とご支援をお願い申しあげます。
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