プロのスポーツ選手が、自身の移籍先を決める。どこのチームやクラブを選ぼうが、それは優秀な選手の極めて恵まれた選択であることは間違いない。しかし、契約金の有る無しや、年俸のスケールこそ違えども、その選択をどんな価値観で、何を最優先するかは、一般の人々にとっても、同じことなのだと思う。
FC東京からドイツ・ブンデスリーガ、マインツへの移籍を決断したサッカー日本代表・武藤嘉紀の選択が注目を浴びた。武藤選手をめぐっては、この春から欧州のビッグクラブが次々と名乗りを上げて、獲得合戦を繰り広げてきた。中でもイギリス・プレミアリーグの雄、チェルシーが早々と獲得の意思を表明したのは、日本でも驚きを持って報道されていた。
チェルシーといえば、プレミアリーグだけでなく、世界のサッカークラブの中でも、五指に入るビッグクラブだからだ。監督は、かつてレアル・マドリードを率いたジョゼ・モウリーニョ氏。驚くことに彼の年俸だけでも1000万ポンドと言われている。1ポンド190円換算で19億円だ。選手も各国の代表で溢れている。日本でもおなじみのエデン・アザール(ベルギー)やセスク・ファブレガス(スペイン)……。しかし、そんな誰もが憧れるビッグクラブであるチェルシーからの誘いを断り、武藤選手は、マインツを選んだ。
彼は言った。「最初から高望みして自分の実力に合っていないチームに行くより、現実的な方がいい」。
そしてもう一つの理由は、両チームの監督の違いだった。
「(マインツのマルティン・シュミット)監督が欲しいと言ってくれた。自分自身を欲しいと言って呼んでくれたから(マインツに決めた)」
一方、モウリーニョ監督はメディアに武藤の存在を聞かれ、「実際には見たことがない」と答えていた。選手からすれば厳しい発言だが、それが紛れもない武藤選手の評価と言えるのかもしれない。そして彼は賢明なことにマインツを選んだ。
こうした選択を大企業と地元の中小企業に置き換えるのは、あまりにも乱暴だ。武藤選手のマインツでの年俸は4億円と言われている。一般の人からすると夢のような話だが、金額がいくらであっても間違ってはいけないことがある。それは選手でも社員でも、幸せなことは望まれて飛び込んでいくことだろう。
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