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テーマ別企業事例 東日本大震災から7年 今、手を携えて販路拡大へ

事例3 "東北産"が売れる!同情で購入していただくのではなくおいしいから買っていただくために

山形屋商店(福島県相馬市)

創業は文久3(1863)年。当初は繭をつくっており、その後、米こうじをつくり始め、それを原料としたみそ、しょうゆ、甘酒の製造へと転換していった

震災で大きな被害を受けた福島県の沿岸部にある相馬市で、みそ・しょうゆの製造・販売を行っている山形屋商店は、創業150年以上の歴史を持つ老舗である。震災後の風評被害を払拭(ふっしょく)するために、しょうゆの品評会で「日本一」となることを目指して品質改善を続け、見事その目標を果たした。そして今、3年連続日本一を目指し、さらなる努力を続けている。

より良い商品をつくり風評被害を打破

震災の日、山形屋商店では貯蔵タンクのしょうゆが半分以上こぼれ、蔵にあった瓶詰め1500本はすべて割れてしまった。だが、建物に大きな被害はなかったという。「店の中は落ちたり倒れたりしてガチャガチャでしたが、翌日には整理しながらも店を開けていました。他の店はどこも閉まっていたので、うちは大丈夫ですよと近所にお知らせし、何かお役に立てることがあれば言ってくださいという気持ちでした」と五代目店主の渡辺和夫さんは言う。

店内の片付けや小売店からの注文に応じて在庫の商品を販売しているうちに最初の1カ月はあっという間に過ぎ、それから製造を再開した。「その後の1カ月も忙しかったのですが、それから地元の飲食店や旅館といったお得意さんからの注文が途絶えるようになりました。放射能汚染の状況が分からない中、地元の食材は使えないというのです。県外のお客さまからは以前と同様に注文をいただいていたので、風評被害が地元から始まったのは意外なことでした」

ところがその後、東京電力福島第一原子力発電所の汚染水問題が発生すると、県外からの取引もすべて失い、震災翌年には年商が震災前の4割減にまで落ちてしまった。逆にこのころには、県内の顧客がやはり同店のみそやしょうゆでないといつもの味が出ないと言って、注文してくるようになっていた。

「今でも続けていますが、震災直後からチラシに放射性物質の検査データを入れています。それでも売り上げは落ちていく。福島県産のものはなんとなく不安という気持ちが強く、科学的に安全でもそれが安心に結びつかないんです。そこで、品質を向上してより良い商品をつくることで信頼を回復し、それを安心につなげていく必要があることを痛感しました」

福島の蔵元が協力し合いしょうゆ日本一を目指す

福島県のしょうゆ業界では、震災後の10月から福島県醤油醸造協同組合が中心となり、品質向上を目指して勉強会を始めていた。そこでは、全国醤油品評会で入賞した製品や有名メーカーの製品、そして自分たちの製品を集め、参加者がしょうゆの「利(き)き味(み)」をして意見を出し合い、色、香り、味、風味などを研究していった。

「私も品質向上を図りたいという思いで参加しました。しょうゆ製造の中でも〝火入れ〟は蔵元ごとにやり方が違い、門外不出の技術です。しかし勉強会ではそれを互いに公開して情報を共有し、全体の底上げを図っていきました」と渡辺さん。火入れとは、大豆や小麦などで仕込んだ諸味(もろみ)を絞ってつくる「生揚(きあ)げ」と呼ばれるしょうゆのベースを加熱殺菌する作業で、加熱する温度や時間、冷却時間などにより、味や香り、風味が大きく変わるのだという。福島県では全国に先駆けて昭和39年から、県の醤油醸造協同組合が生揚げを集中生産し、各蔵元がそれに火入れをして独自の商品に仕上げている。これは「福島方式」と呼ばれ、現在では他の多くの地域でも取り入れられている。

「県全体でもしょうゆの出荷量が4割減となり、私たちは風評を払拭するための武器は何かと考えました。そのとき出てきたのが、年1回行われる全国醤油品評会に出品することでした。そこで日本一のしょうゆに選ばれれば、消費者の安心につながると考えたのです」

渡辺さんは勉強会で学んだ方法を試すなどしながら品質の向上を図っていった。実は渡辺さんは元銀行マンで、同店の跡取り娘である奥さんとの結婚を機に退職して店に入ったのだという。それから11年間、丁稚(でっち)奉公で先代の義父にみそ・しょうゆづくりを一から教わり、6年前に跡を継いで店主となった。

「うちの家訓は〝店主自らつくるべし〟で、だから製品の味や質がぶれないのだと思います。震災前にも品評会への出品を勧められたことがありますが、うちのような小さな蔵元が出るのはおこがましいと思っていました。でも、震災が出品を決意させてくれました」

そして平成25年、品評会に初めて『ヤマブン本醸造特選醤油』を出品すると、最高位の農林水産大臣賞(受賞4点)を受賞し、日本一の座を獲得した。その他にも福島の2社が優秀賞を獲得しており、これはまさに県の蔵元が一丸となった結果の受賞といえる。

3年連続日本一を目指し挑戦はまだまだ続く

そこで満足することなく勉強会は続き、同店は他の蔵元とともにさらなる品質向上を目指して努力を続けていった。その結果、翌26年の品評会では2年連続で農林水産大臣賞を受賞。その翌年は入賞を逃したものの、28年には農林水産大臣賞に返り咲き、翌29年には4度目の栄冠に輝いた。

「これは醸造組合がつくる生揚げのおかげでもあります。その証拠に28年と29年は、福島からはうちも含めて5社が入賞していますから」と渡辺さんは控えめに言うが、5年で4回の日本一は、自身の努力のたまものといえる。そしてこの成果は、その後の業績回復につながっているのだろうか。

「4割減で止まったままです。“日本一”に効果がなかったのか、それとも受賞が安心につながって4割減で下げ止まったのか、その判断は難しく、これから巻き返していくためには挑戦を続けていくしかない。福島県の日本酒が全国の品評会で金賞受賞銘柄数5年連続1位となり、今年は6連覇に挑戦しているところです。福島県のしょうゆも同じように3年連続日本一を目指していきたいと思っています」と渡辺さんは決意も新たにする。

さらに近年は海外で日本食レストランが増えており、みそとしょうゆの輸出量も急激に伸びていることから、国外への販路拡大にも期待している。「福島産に輸入規制をかけている国がまだ多いのですが、最近は規制緩和の動きが出てきており、そこに期待したい。挑戦はまだまだ続きます。同情されて買ってもらうのではなく、品質の優れた福島産だから欲しいと思っていただけるようにレベルを上げていかないといけない。海外の輸入緩和も含め、チャンスがあればすぐに乗っかれるよう準備していきます」

そして最後に、福島にこれから必要な支援は何かという問いに対して、渡辺さんはこう即答した。「福島に来て、見て触れて食べて飲んで福島の魅力を堪能して笑って帰っていただきたい。風評払拭にはみなさんに福島に触れていただくのが一番だと思っています」

会社データ

社名:合資会社山形屋商店

所在地:福島県相馬市中村字上町31

電話:0244-35-2966

HP:http://somayamabun.com/

代表者:渡辺和夫 代表社員

従業員:7人(家族、パート含む)

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