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テーマ別企業事例 事業継承待ったなし! M&Aか? 後継者マッチングか?

事例1 理容業から未経験の鍵・錠前専門店へ転身して事業承継

水戸ロックセンター(茨城県水戸市)

同店が取り扱う鍵や錠前はおよそ8000種類ある

茨城県水戸市で五十余年の歴史を刻む水戸ロックセンター。鍵や錠前などを扱う同社の後継者として白羽の矢が立ったのは、理容業に従事していた女性だ。承継にあたって技術や知識の伝承とともに、大きなハードルだった資金調達をクリアし、今では“店を切り盛りする女性社長”として地域に変わらぬサービスを提供している。

食事会の席で飛び出した「君が引き継いだらどうだ?」

鍵や錠前が壁面いっぱいに並んだ店内で、水戸ロックセンター社長の萩原なつ子さんは慣れた手つきで合鍵をつくっていた。

「この業種は男性がやっているイメージが強いので、最初のころはお客さまが入ってくるたびに驚かれました」と萩原さんは笑う。

1967年の創業当時、同社は自動車用品販売業を営んでいた。81年に鍵や錠前を扱う現在の事業に転業し、地域密着で地道な経営を行ってきた。ところが、先代社長は後継者がいなかったため、「外部に適任者がいれば事業を譲りたい」と考えていた。

状況が動いたのは、ある食事会の席でのことだ。先代をはじめ、萩原さん夫妻、萩原さんの知人などが集まる中、先代が「誰か会社を継いでくれないかなあ」と切り出すと、萩原さんをよく知る前職場の社長が「長年続いた会社がなくなってしまうのはもったいない。君がやったらどうだ?」と萩原さんを名指ししたのだ。

萩原さんはもともと理容師で、北関東を中心に70店舗ほどある1000円カットの床屋チェーンに勤めていた。最後の5~6年は現場を離れ、ゼネラルマネジャーとして各店舗の店長やエリアマネジャーを統括する仕事を担当し、その仕事ぶりが高く評価されていた。さらに、萩原さんの夫は建築関係の仕事に従事し、手先が器用なことから、夫婦を後継者に推薦したのだ。

「びっくりしました。異業種ですし、事業承継など考えたことがなかったので、夫婦で1カ月くらい話し合いました。でも、私は昔から『いつかは自分の店が持ちたい』という夢があり、マネジメントにも携わってきたので、思い切ってお引き受けすることにしたんです」

事業引継ぎ支援センターのサポートで承継資金を調達

2015年、萩原さんは夫よりひと足先に同社に入社した。最初の仕事は、同社で扱っている8000種類の鍵や錠前、それに関する専門用語を覚えることだった。鍵はまだいいが、錠前は種類やサイズによって仕組みが微妙に異なる上に、日本製か外国製かによっても違うため、思わぬ苦戦を強いられた。

「この業界のことを何も知らないから、合鍵をつくればいいくらいに考えていたんです。とんでもないことでした。各家庭についている錠前を見て、どの仕組みなのかが分からないと仕事になりません。でも、先代は『仕事は見て覚えるもの』という考えの方だったので、先代の奥さんや妹さん、問屋さんなどにも教えてもらいながら覚えていきました」

一方、経営者向けセミナーや経営計画書作成勉強会などにも積極的に参加した。萩原さんから1年遅れて入社した夫とともに、事業承継に向けて取り組むべきことを整理した予定表を作成し、準備を進めた。

ところが、16年7月に予定していた承継が延期になる。ネックとなったのは資金調達だ。当初は先代の取引銀行から萩原さんが融資を受ける予定だったが、法人の株式譲渡で個人に融資する制度がないと断られてしまったのだ。萩原さんも自身の取引銀行に相談したが、答えは同じだった。

「商工会議所に相談したら、茨城県事業引継ぎ支援センターを紹介してくれました。早速話を聞きに行くと、経営承継円滑化法に基づく認定を取得して、日本政策金融公庫(日本公庫)からの融資を受ける方法があると教えてもらい、突破口が見つかりました」

実は、もう一つ難題があった。譲渡金額だ。当初は双方の希望額に隔たりがあり、話し合いでは着地点が見出せなかった。そこで第三者が間に入った方がいいと、先代とともに引継ぎ支援センターを訪れ、客観的なアドバイスを仰いだ。その結果、ようやく折り合いがついて、日本公庫から株式買い取り資金の融資を受けて17年5月に事業を引き継ぎ、萩原さんが社長に就任した。

異業種からでも、未経験でも、やればできる

現在、萩原さんは「地域密着で50年間積み重ねてきた信用と信頼を裏切らない」という先代の考えを踏襲し、顧客ニーズに応える経営を心掛けている。その一方で新たに力を入れているのは、以前は扱っていなかった電気錠や電子錠のラインナップを充実させることだ。どちらも電気を使って開閉操作をする鍵だが、防犯意識の高まりから、通常の鍵以外に追加で取り付ける家庭が増えている。萩原さんはそうした時代のトレンドを巧みに取り入れ、それを夫が現場で施工するというそれぞれの強みを発揮しながら、二人三脚で店を切り盛りしている。

「経営者としてまだ学ぶことばかりです。お金、モノ、顧客情報などの管理能力を上げて、いかに効率よく丁寧な仕事をするかが現在の課題。ただ、異業種からの転身でも、未経験でも何とかやっていけるという自信が少しずつ芽生えてきました。これからも女性目線でいろいろチャレンジしたい」と萩原さんは穏やかにほほ笑んだ。

会社データ

社名:株式会社水戸ロックセンター

所在地:茨城県水戸市石川1-3972

電話:029-251-1849

HP:http://mitolock.com/

代表者:萩原なつ子 代表取締役

従業員:2人

※月刊石垣2018年11月号に掲載された記事です。

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