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テーマ別企業事例 事業継承待ったなし! M&Aか? 後継者マッチングか?

一般のM&Aに対するイメージは良くない。10年ほど前にはハゲタカと呼ばれる外資系ファンドなどによる日本企業の「敵対的買収」や「乗っ取り」が記憶に残っている。最近でもハゲタカファンドを主人公としたテレビドラマが放送された。では、どうすればwin-winの関係でのM&Aになるのか。専門家の解説を交えながら実例を紹介する。

総論

大山 敬義/&Biz 代表取締役

大山 敬義(おおやま・たかよし) &Biz 代表取締役 神奈川県生まれ。1991年日本M&Aセンターの設立に参画。同社初のM&Aコンサルタントとなり、常務取締役、総合企画本部長を現任。100件以上のM&A案件の成約実績がある。後継者難による中小企業のM&Aによる事業承継の仲介、コンサルティング及びグループ内外の企業再編手続きなどを手掛けた。2018年小規模ビジネス向け専用のM&Aサービスを提供するサイト「バトンズ」の運営会社アンドビスを設立し代表取締役に就任

M&Aを主業務とする独立行政法人中小企業基盤整備機構 事業承継・引継ぎ支援センターによると、2011年度の事業引継ぎ支援事業開始以降、サポートした事業承継の形態の約70%が第三者への事業引継ぎだった(図1)。つまりM&A(企業の合併・買収)を活用した事業承継が増加しつつある。

M&Aには全く異なる三つのタイプがある

M&Aマッチングサイト「Batonz(バトンズ)」を運営する&Biz(アンドビズ)の代表取締役・大山敬義さんによると、M&Aは三つのタイプに分けられるという。

一つ目のタイプは、資本の論理に基づいたM&A。ソフトバンクによるアメリカのロボット開発会社の買収や、武田薬品工業がアイルランドの製薬大手を買収したというようなM&Aを指す。

二つ目のタイプは、息子・娘に継ぐ意思がない(あるいは後継者がいない)ために、第三者に経営を任せるM&Aだ。これが事業引継ぎ支援センターの統計にある第三者への事業引継ぎに該当する。 三つ目は(パパママストアのような)小さな会社の後継ぎ探し。「この三つの世界は、それぞれ全く関係のないものですが、どれもM&Aと呼ぶので誤解が生じてしまうのです」

そして今、喫緊の課題となっているのは、二番目の中小企業の後継者不足問題である。経済産業省の分析(「中小企業・小規模事業者の生産性向上について」)によれば、「今後10年の間に、70歳(平均引退年齢)を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人となり(次頁図2)、うち約半数の127万人(日本企業全体の3分の1)が後継者未定」であり、「現状を放置すると、中小企業の廃業急増により、2025年ごろまでの10年間累計で約650万人の雇用、約22兆円のGDPが失われる可能性」があるという。

家督相続制が崩壊し家業を継ぐ理由が消えた

なぜ後継者がいないのか。大山さんは、戦前の民法(旧民法)に制定されていた家制度の崩壊が影を落としていると指摘する。

「戦前の民法では一般に長男が家督を継ぐことになっていて、財産や家業を継ぐ代わりに、墓も仏壇も守る。家督相続は相続税の優遇を受けることができました。しかし戦後の新民法では均等相続となり、兄弟が平等に遺産を受け継ぐことになり税の優遇もありません。そうなると、長男が会社を継ぐ理由もないのです」

そのため家業である会社の経営にうまみや興味を持たない長男(を含めた子どもたち)が後継者となることを拒否すれば、後継者がいなくなる。

大山さんにも苦い経験がある。

「大山家の家業は大山工務店という建設会社でした。鎌倉市の建設組合長を務め、年商も10億円規模でした。しかし、長男である私が後継者とならなかったため、会社は清算するしかありませんでした」

ならば従業員を後継者に指名すれば良いという案は、現実的ではないという。

「大山工務店は大山家の持ち物(財産)なので従業員に継がせる理由はない。また現実的な問題として、ビジネスのための5億5000万円の借金を抱えており、担保は自宅と一族の連帯保証でした。後継者に従業員を指名しても、この借金を肩代わりすることはできません」

大山工務店は清算して誰にも迷惑をかけずに消滅したのだが、「創業者である祖父の葬式のときに、『あの大山さんですら会社をつぶした』と言われました。清算も廃業も民事再生も全て会社をつぶしたの一言でくくられてしまう。だから、経営者は会社をつぶさないための手段としてM&Aを考えるようになったのです。経営者の意識は進んでいます。息子が継がないので、別の人が継いだ、それだけのことです」

そこにはハゲタカに買収されたなどという意識はまったくない。

会社の弱点を補い成長を加速させる

一方、会社を買う側は誰なのか。一つ目のタイプに登場するファンドや投資銀行ではなく、 「主に若い世代の経営者です。この先の日本が高度成長を遂げるのであれば、他人の会社を買う理由はありません。市場の拡大に合わせて自社を成長させていけばいいのです。現実はそうではありません。人口が減り、市場が縮小し、大企業でさえ国内で生き延びることが難しくなっています。その中で中小企業の経営者は生きていくために新しい製品を開発し、新しいお客さまを獲得しなければなりませんが、中小企業は新たに人を雇うことすら難しい。そこで後継者のいない会社を買収する意味が生まれてくるのです」。

例えばEC(電子商取引)に進出する計画がある場合、社内にインターネットに詳しい人材がいなければ、新たに人を雇い、教育をし、EC担当部署を新設しなければならない。その時間と費用を負担するくらいなら、ECに知見を持つ会社を買収したほうが早く、時代に取り残されずに済む。 「若い経営者と話をすると十中八九はM&Aを考えていますね。自分一人の力では会社を成長させられないという恐怖を抱き、突破口を探しています。かつては売り物がなかったのですが、今は見方を変えれば、127万社(者)もの売り物がある。若い経営者から見れば、こんなにいい時代はありません」

とはいえ、M&Aをされる側には、「うちの会社は売れるのか」という不安があるはずだ。大山さんによれば、どの業種・業態が売れる、売れないということはないという。また技術力がある会社しか対象にならないのかというと、「そんなこともない。地域は多少関係がありますが、地方企業だから対象外というわけでもありません。なぜなら現在のM&Aは局地的に起こっている出来事ではなく、全国で並行して起こっているからです」。

小規模事業者の売買はマッチングサイトを利用する

M&Aの三つ目のタイプはどうなのか。全ての地域、全ての業種で第三者承継(M&A)の波が来ているが、これまで取り残されていたのが小規模事業者の事業承継である。

経済産業省の2017年版中小企業白書によると、国内企業約382万社(者)のうち、中小企業は99・7%に相当する約380・9万社(者)を占め、そのうち小規模事業者は85・1%に当たる約325・2万社(者)にのぼる。小規模事業者のイメージは年商1億円未満、従業員5、6人を雇用している会社だ。

「ここにフォーカスすると、後継者不在は7割に達していて平均よりも高い。業種によっては8割を超えている。小規模事業者の承継で致命的なことは、地方の会社が廃業すると、その地方では二度と同じ会社が生まれないということです。起業が盛んな東京であれば、ある会社が廃業しても、同じような会社が別の人の手で生まれるでしょう。その力が地方にはない。開業するのであれば、誰でも市場が大きく成功するチャンスのある東京を第一に考えます」

それでは東京一極化を加速させることになるため、地域内マッチングを模索する動きもあり、「地方に市場がないから会社が衰えているのに、その中でマッチングする意味がどれほどあるのかという意見もある。

だがやり方はある。

二番目のタイプのような中規模な会社を買う人たちは、会社の中身や業界の動向を分析して、シナジー効果の高い会社を探す。だから年商5000万円のラーメン店はM&Aの対象外だ。「でも引退したのでラーメン店を経営してみたい、チェーン展開はしないがもう一店舗増やしたいという人はいる。新規に起業した場合、年商1000万円をつくるのは大変ですが、年商5000万円のラーメン店を買えば、そこからスタートすることができます。これまではこの規模の会社の売り物は探しようがなく、せいぜい親戚や身内から探す、地域内で口コミで探すくらいしか手段がなかった」

今はインターネットのマッチングサイトを利用すれば、全国の買い手にアピールできるようになった。「Batonz」が代表的なマッチングサイトである。

「とはいえ、マッチングだけではどうしようもありません。インターネットで不動産を探すと仲介会社が手続きをしてくれるように、専門家がM&Aを支援する仕組みが必要です」

そこで「Batonz」では、買い手を全国から探し、地域の専門家が手続きなどの支援を行う仕組みを構築しつつある(図3)。その一例が川崎市と川崎商工会議所、川崎市産業振興財団、川崎信用金庫による中小企業の事業承継支援協力協定への参加だ。

「私たちは地元の専門家の育成までお手伝いします。当社の母体の会社(日本M&Aセンター)は、高度なスキルを持つ専門家がM&Aを支援しています。そのノウハウを移植するのです。政令指定都市では初めての提携になりますね」

売るのが惜しくなるような会社に磨き上げて買い手を待つ

最後にM&Aを決断した場合の注意点を挙げておこう。年商2億円以上の会社を売り物件として登録した場合、マッチングするまでにかかる時間は、業種にもよるが平均半年から10カ月かかる。その期間で売れなくても、1年待つと60%、2年待つと80%が売れる。年商2億円未満の会社では3カ月から半年で見つけることが目標だ。こちらは1年で見つからなければ難しい。

買い手が見つかるまでの間、売り手の経営者は自分の会社に磨きをかけて待つ。自動車を売却するときに洗車をして少しでも見栄えを良くするように、「売ると決めたら最後の力で頑張る。売ると決めるとへなへなとなる経営者がいるが、逆です。大規模の設備投資は不要ですが、一部の機械を入れ替えたり、経理システムを一新したり、建物の補修や清掃でもいい。最後の磨きをかけるのです」。売るのが惜しくなるような会社に生まれ変わらせると、それだけ早く買い手が見つかる。

後継者がいない経営者は「死ぬまで働く」と口にする。だが現実には死ぬまで働くことなどできない。病に倒れれば、そこで会社も倒産する。売り時を見誤らないよう、素早く決断すべきだ。一般にM&Aでは、「資産と負債を両建てにして引き取ってもらう」という。資産が1億円、負債が5000万円なら5000万円が基本価格となり、それに何年か分の利益に相当する「のれん」を上乗せする。株式の売却なら、20%の税金を差し引いた分が手元に残る。このように「もうけ」が手にできるケースばかりではないが、銀行に差し出した自宅の担保が外れ、憂いなく年金で生活ができる。それだけで十分という考え方もできるのではないか。

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