総合スーパーの低迷が止まらない。ユニーが約230店舗中最大50店舗の閉鎖を検討し、セブン&アイ・ホールディングス傘下のイトーヨーカ堂も約180店舗中40店舗を閉鎖するという。その原因はどこにあるのだろうか。
日常生活に必要な物を総合的に扱う大衆向けの大規模な小売業態として、高度経済成長期に誕生した総合スーパーは、衣食住の幅広い商品を大量に仕入れ、大量販売することで当時の消費者ニーズに応えてきた。しかし、消費者ニーズが多様化するにつれて、その総合性が逆にあだとなった。消費者が「何でもあるけれど欲しいものがない店」と捉えるようになったのだ。
高い専門性で好業績を維持
時代のニーズは、総合から離れて専門へと向いている。商業の世界においてもユニクロ(ファーストリテイリング)、ニトリ、ABCマートといった専門店チェーンが好業績を維持している。いずれも、それぞれの商品カテゴリーで強い専門性を打ち出している。
ほかにも業績が好調な小売業はある。例えば、セブン―イレブン、無印良品(良品計画)、100円ショップダイソー(大創産業)。これら衣食住にわたるカテゴリーの商品をそろえる企業は、モノ軸で見れば専門性があるとはいえない。
しかし、コト軸で見れば高い専門性を持つことが理解できる。セブン―イレブンは「近くて便利」というコンセプトに基づき、そのニーズにかなう商品以外は一切置いていない。無印良品は「感じの良いくらし」の実現を追求し、ダイソーは「100円」という一つの価格で日常生活ニーズを満たそうとしている。そこには商品開発に対する不断の取り組みがある。
時代のニーズは、量から質へ、機能から情緒へ、効率から感性へと動いている。これらに応えるために必要なことは絞り込むことにある。決して広げることではない。特に事業規模・資本力の限られた企業では必須だ。
地元の客が誇りに思う店
事業を絞り込むことで業績を伸ばす企業を取材した。
静岡県の西部エリア、遠州最大の市、浜松市にある居酒屋「遠州男唄 たんと」は周囲の飲食店が苦戦する中、7年連続で売り上げを伸ばしている。
「青果市場で働いていたとき、遠州にはおいしい食材がたくさんあるのに、地元ではあまり知られていないことが残念でした。それで、そうした食材を生かしたくて飲食店を始めたのです」
こう語るのは同店を運営するJACKカンパニーの山田拓司社長。鉄板焼き店として創業し、好調な業績を追い風に、焼き肉店、カフェなどへと事業を拡大していった。
しかし、なぜか人材が定着しなかった。山田社長は「自分は何のために創業したんだろう」と考えたという。そこから事業の絞り込みが始まった。原点である〝地元食材へのこだわり〟である。
コンセプトは「地元の人たち、遠州人が誇りにしたくなる店」。鉄板焼き店をリニューアルし、求められるままに無秩序に増やしていた総花的なメニューを絞り込み、地元市民に愛されるギョーザとホルモンを店の看板メニューに据えた。今では、ギョーザとホルモン焼きなどの上位6品目でフードメニューの8割を占める、専門性の高い店となっている。
結果、前述のように好業績を続け、課題だった人材も定着し、成長するようになった。「地元客が誇りに思う店となったことで、働く者の誇りも高まったことが要因」と山田社長。広げるのではなく絞り込むこと、足すのではなく引くことが、いま求められている。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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