今号は、後継者の入社をきっかけに、業績を向上させている事例をご紹介します。
新たな発想と地道な改革で顧客の心をつかむ
青森県青森市に「マツダアンフィニ青森」というマツダ車を扱う自動車ディーラーがあります。柳谷章二社長の長男・彰成さんは都内のIT企業に勤務していましたが、父の会社を継ぐ決心をし、中小企業大学校にて10カ月の経営後継者研修を修了。平成22年に同社に入社しました。
当時、リーマンショック後の消費冷え込みや商圏内の人口減少などで同社の業績は低迷し、赤字の状態でした。彰成さんに対し、父の柳谷社長は「業績が厳しいときにこそ、社員を〝お客さま〟のごとく大切に接しなさい。会社が存続できたのも、彼らの頑張りがあってのことなのだから」と後継者としての心得を諭します。彰成さんはその言葉を心に刻みつつ、自分なりの改革に着手しました。
それは、「車を販売する」だけではなく、「充実したカーライフを創造する」という視点を持つことでした。その第一歩が、ホームページの刷新です。自動車の性能やスペックの説明は、メーカー(マツダ)のホームページで十分。それならばと、自社ではショールームの賢い活用法や雪道の運転のポイントなど、お客の視点を大切にした情報の発信を心掛けました。また、お客にとって、購入後の納車は大きな楽しみです。同社ではその日を〝納車記念日〟とし、家族での記念撮影をサービスするなど、独自の取り組みを始めました。
ほかにも、人材面では、4年前から女性の営業担当を採用。きめ細やかな対応が顧客から好評です。
社員動かす経営陣の情熱
これらの取り組みが奏功し、直近期では最高益を更新するまで業績は改善。柳谷親子は「何よりも、社員同士、経営陣と社員との結び付きが強まったことが大きな収穫」と、同社の結束力に胸を張ります。
同社の活性化を象徴するエピソードがあります。収益悪化で延期されていた、5年に1度の海外社員旅行を復活させようとしたときのこと。社員たちから、マツダの本拠地である広島行きを提案されたのです。「マツダ車を扱っていながら、まだ本社や工場を見たことがない。どのように生産されているのか、自らの目で確かめたい」という彼らの熱意。自分たちが販売する車を通して、お客に快適なカーライフを提供できる喜びに目覚めている証拠でしょう。
事業承継において、社長と後継者の思いが相乗すると、会社のムードや業績改善の契機となるという好事例です。
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