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テーマ別企業事例 コロナ廃業、黒字廃業を防げ! 危機を回避する事業承継の極意

事例1 先代が急逝し従業員が承継 債務超過の会社を2期で黒字転換

イーグルメンテナンス(東京都中野区)

創業社長が急逝し、後継者がいないため、親族でもない一社員が後継者にならざるを得なかった。創業社長は親方気質で社員から慕われていたが、経営についてはどんぶり勘定。そのため会社は債務超過に陥っていた。‶外様〟の二代目社長の無我夢中の再建が始まった。

需要が高まっている抗菌作業。顧客の事業分野を分散し、感染症などの影響を受けにくいシステム

雇う代わりに自分の食い扶持(ぶち)は自分で稼げ

イーグルメンテナンスは、オフィスビルや分譲マンション共用部、商業施設、病院などの清掃を中心としたメンテナンスを手掛ける。

同社は1988年7月、エヌ・イー・エヌという社名で先代社長が創業。まだバブルの余熱が残っていた頃で、営業をしなくても仕事は十分にあった。二代目社長の佐藤健一さんは創業早々、学生アルバイトとして働いていた。

「その後、私は大学を中退して就職先を探したのですが、就職氷河期に入ってしまってどうにもならず、先代に働かせてくださいとお願いしました。その時に先代に言われたことは、『自分の食い扶持は自分で稼いでね』でした」

当時はまだ創業5年目の小さな会社で、従業員は先代、正社員の佐藤さん、アルバイトを含めて数人という規模だった。そのため会社には佐藤さんを終身雇用する体力がなかったし、佐藤さん自身も自分で取引先を開拓しなければ給料が上がることはないと覚悟を決めていた。とはいえ、新人研修制度があるわけでも、営業マニュアルがあるわけでもなく、新規顧客を開拓する方法が分からなかった。

「当時は先代が懇意にしている同業の取引先に仕事をもらっていました。向こうの社長さんたちから見れば、友だちの会社の小僧がやってきて仕事をくださいと頭を下げているものの名刺の出し方一つ分かっていない。発注した仕事をミスしてクレームが発生しても対処の仕方がなってない。取引先の社長さんたちには叱られながら、いろいろ教えていただきました。私に何も教えてくれなかったのは先代だけですよ(笑)」

年商を10倍に増やしたが会社は債務超過状態に

周囲の人たちに育てられた佐藤さんは、会社を成長させるために奮闘努力し、新規取引先の開拓、人材の獲得に力を入れ、組織の体裁を整えた。年商が佐藤さんが入社した頃の約10倍、2億3000万円に達した16年2月、先代が入院した。本人は検査入院のつもりだったのだが、なかなか退院の許可が下りない。現場の指揮を執れるのは共同経営者に近いポジションにいた佐藤さんしかいなかった。

「この時、初めて会社の預金通帳を見て、残高がほとんどないことを知りました。給与の支払いや借金の返済をどうすればいいのか。あわてて取引のある金融機関に相談に行きました」

幸いなことに、佐藤さんはビル清掃に使う洗剤などを輸入するグループ会社「イーグルケミカル」の設立に関わっていたため、支店長や担当者とは顔なじみだった。支店長は「佐藤さんが後継者になるのなら応援する」と励ましてくれた上、東京商工会議所の経営相談窓口「ビジネスサポートデスク」(BSD、小規模事業者の事業承継や成長・発展への支援、創業予定者への相談を行う拠点)を紹介してくれた。経営相談窓口の課長は、金融機関との付き合い方や経営改善の考え方といった経営者の基本を教えてくれた。

当時、先代夫人も闘病中で、二人の娘さんは看病で手一杯、経営に関わることはできなかった。ほかの親族に後継者候補はいない。先代は佐藤さんにバトンを渡したかったはずだが、「財務状況が悪化していたので、後継者になってほしいとは言えなかったようです」。息子や娘が後継者候補であれば、財務状況が良くない会社だが継いでくれるか? と言えるのだろうが、他人の佐藤さんには頼めなかった。

「そこが血縁者と従業員の違いなのでしょうね」

佐藤さんは後継者となる覚悟を決めて、先代が亡くなる少し前に、本人、家族と話し合いをした。

「その時、『全ての株を私に売ってください』という条件を出しました。自由に経営ができなければ従業員や取引先に対して責任が取れないからです。その代わり、会社の借金も全て引き継ぐことになりました」

会社の財務状況を詳しく調べてみると、やはり債務超過だった。株の評価額は1株1円とした。

2016年4月、先代が亡くなった。借金を背負っての新社長の船出だったが、勝算はあった。

「私が営業を統括していたので、赤字の現場が無いことは分かっていました。赤字の原因を調べてみると経費の無駄遣いがたくさん見つかりました。そこで経費削減の徹底を宣言するとともに、月次決算を導入して従業員に毎月経営状況を開示し、会社が立ち直れば給料に還元することを約束しました」

金融機関やBSDの支援を受けながら2期で再建

経費削減に反発して辞めた従業員はいたが、BSDの支援を受けながら財務管理や労務管理などを学び会社再建に突き進んだ結果、社長就任2期目で黒字に転換した。

いつか佐藤さんも誰かに会社を託すことになる。そのためにやるべきことは、会社を組織化すること、後継者を育てることだ。組織化は徐々に進んでいる。後継者は現時点では育っていないため、万が一に備えて経営に対する考え方が一致している改修工事専門の建設会社で自社の事業と相互補完できる関係でもあるプロスペース社長の坂上由里さんに取締役就任を依頼。一方で、相互に株式を持ち合い企業グループ化した。

佐藤さんは自身が体験した第三者承継に照らして、経営者としてやっておくべき4点を挙げる。

①後継者候補と共に金融機関に顔を出して関係をつくる。②BSDのような第三者機関とのパイプをつくる。③事業承継に備えて十分な額の生命保険に入っておく。④経営に必要な書類は整理しておく。

「先代が加入していた生命保険は1000万円でしたし、書類整理は全くしていなかった。お金は足らず、必要な書類は見つからない。大変な思いをしました。だから年末に先代の墓参りに行くといつも『やらないにも程がありますよ』と文句を言うのです(笑)」

佐藤さんは苦笑いするが、先代は、安心して後を託せる後継者を育てていた。

会社データ

社名:株式会社イーグルメンテナンス

所在地:東京都中野区沼袋1丁目19-9

電話:03-3386-7994

HP:https://eagle-gr.co.jp/

代表者:代表取締役 佐藤健一

従業員:150人(パート・アルバイト含む)

※月刊石垣2020年11月号に掲載された記事です。

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