中国政府は、飲食店で大量に料理を注文し、食べ切れずに残したり、大食い競争の動画を配信したりする行為を禁止する「反食品浪費法」を施行した。会食での割り勘を嫌い、客のために食べ切れないほどの料理を注文することを美風としてきた中国人にとっては革命的な変化となるが、どこまで実効性を持つのか疑問を持つ人も少なくない。
「反食品浪費法」は違反者に10万元(約16万円)の罰金を科す厳しい内容で、習近平政権の本気度がうかがえる。習政権が食べ残し解消に取り組むのはこれが2回目だ。最初は就任間もなくの2013年に「光盤行動」と呼ばれる運動が起きた。料理を皿をなめるように食べ切り、ピカピカに光らせる、という意味だ。当時は反汚職、反腐敗闘争が進められており、高級料理店での食事と茅台(マオタイ)酒などによる豪華接待が汚職の温床になると見なされ、禁止されたこととも関係する。
反腐敗は実績を上げ規律となったが、食べ残しはやめようという運動は数年もすると忘れ去られ、元通りになった。大盤振る舞いの背景にはやはり4000年の歴史があったのだ。ただ今回、やや趣が違うのは米中冷戦と関係がある。中国はコメ、小麦の主食は基本的に自給自足が確立されているが、食用油の原料となる大豆、豚など家畜の飼料となるトウモロコシは大きく輸入に依存している。主に食用油の原料となる大豆は86%前後が輸入で、ブラジル、米国、アルゼンチンに依存している。
習政権は米中冷戦の激化とともに米国からの大豆輸入を削減、17年の3286万トンから18年には1664万トンへと半減させた。代わってブラジルが大豆輸入の60%以上を占めるようになり、昨年は6207万トンに達した。中華料理に欠かせない豚肉の養豚飼料となるトウモロコシも米国からウクライナに調達先を大きくシフトさせた。
「大食い禁止」の背景には、食糧調達における米国依存の引き下げという冷戦の現実がある。一方、建国の父、毛沢東主席を敬愛し、共産党の原点である質素な暮らしを信奉する習主席には「反食品浪費法」は信条にも沿ったものでもある。とすれば、「大食い禁止」は中国に定着するだろう。
日本企業が真剣に取り組むSDGsでも「フードロス」は大きな分野となっており、中国に背中を押されるようにテレビが頻繁に流す大食い選手権といった「大食い礼賛文化」も終わりに向かうだろう。
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