経済産業省資源エネルギー庁はこのほど、公式サイトのスペシャルコンテンツのコーナーで、「2021―日本が抱えているエネルギー問題」と題したレポートを前編、後編の2回にわたり、公表した。レポートでは、日本のエネルギーに関する現状と課題について最新データとともに紹介。具体的には、「自給率と安定供給」「電気料金の動向」「環境問題への対応」「安全性の確保」「エネルギー政策の基本方針」「野心的なイノベーションへの挑戦」「再生可能エネルギー(再エネ)の拡大」「原子力発電の状況」「徹底した省エネ」などの項目に沿って解説している。
「自給率と安定供給」では、日本のエネルギー自給率について、2019年度で12・1%とOECD(経済協力開発機構)諸国36カ国中35位と低水準であることを示すとともに、ほとんどが海外からの輸入である石油・石炭・LNG(液化天然ガス)などの化石燃料に大きく依存している点を強調。19年度の化石燃料への依存度は84・8%と東日本大震災以降、高まっていることを指摘している。
日本では、原油を中東地域に約90%依存し、LNGや石炭をアジア・オセアニア地域に大きく依存。「こうした地域に何か問題があると、日本はエネルギー確保の面で大きな影響を受ける」として、非常時に備えて、約230日分の石油を備蓄していることや、輸入先の地域を分散することで安定的な供給を目指していることなどを解説している。
また、自然条件に左右され、安定供給することが難しい再エネを活用するために必要な蓄電技術に欠かせない電池に使われるレアメタル(リチウム、コバルト、ニッケル)のほぼ100%を輸入に頼っていることを強調。化石燃料と共に「レアメタルなどの鉱物資源についても、安定的な供給を確保していく必要がある」との見方を示している。
電気料金の動向については、現在、10年度と比べて家庭向けで約14%、産業向けで約15%上昇していることを示し、原油やLNGなどの燃料価格の推移と連動していることを紹介。また、20~21年にかけての燃料価格の上昇に加え、12年に固定価格買取制度(FIT)が導入されて以降、拡大を続けているFITに基づく再エネの買い取り費用が年間約3・8兆円に達していることに触れ、その費用は広く利用者が「賦課金」として負担していることから、「再エネを最大限導入しながら、国民の負担を抑制するためには、効率的な導入拡大が求められる」と指摘している。
環境問題への対応については、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」について、2050年までの表明国は、日本を含めて144カ国・地域となっている点に触れ、世界全体のCO2排出量に占める割合は42・2%(18年実績)と指摘。わが国の「2050年カーボンニュートラル」への挑戦を、経済と環境の好循環につなげるための施策として打ち出した「グリーン成長戦略」の推進の必要性を強調している。
安全性の確保については、近年、日本を襲う自然災害が激甚化していることから、災害に強いインフラの整備に向け、早期に復旧できるシステムや体制、災害時の連携強化、送配電網の強靭(きょうじん)化、災害に強い分散型電力システムの導入などの必要性を指摘。北海道~東北間の送電線の複線化、首都圏のバックアップ機能強化などの対応、また、原子力発電所については、「安全性の確保を大前提に、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合には、その判断を尊重し、地元の理解を得ながら再稼働を進める」との考えを示している。
日本のエネルギー政策については、「安全性(Safety)を大前提とし、安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、環境適合(Environment)を同時に達成する取り組み「S+3E」の基本方針を提示。「徹底した省エネルギーや非化石エネルギーの拡大を進め、安定的で安価なエネルギー供給の確保を大前提に、CO2排出量を減らしていくことが重要」との考えを示している(図1、図2)。
また、2050年までに「カーボンニュートラル」を実現するためには、多様な分野でイノベーションを起こし、革新的技術の確立に向けた野心的な取り組みが不可欠と指摘。具体的な分野として、「水素・アンモニア」の活用、「カーボンリサイクル」「CCUS(分離・貯留したCO2の利用)」などCO2を削減する技術の開発、「燃料電池」「蓄電システム」など革新的技術の実用化の3点を示している。
再生可能エネルギーの拡大については、再エネ発電設備の導入容量は世界6位、太陽光発電に限って見ると導入量は世界3位に拡大したものの、発電電力量に占める再エネ比率では、主要国と比べると低い割合になっていると指摘。また、再エネの安定供給のためには、火力発電などの出力(発電量)が調整できる電源と一緒に使う、あるいは蓄電池などのエネルギーを蓄積する手段と組み合わせて使うことが必要であることから、導入を最大化するために、風力発電の導入拡大や新築住宅の「ZEH」(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)化の進展のほか、「電力系統」の問題解決の必要性も強調している。
原子力発電については、「電力の安定供給やコストの引き下げ、温室効果ガスの排出抑制を実現するために、欠かすことのできない電源」であると指摘。再稼働に当たっては、「安全性の確保を大前提に、原子力規制委員会が新規制基準に適合すると認めた場合には、その判断を尊重し、地元の理解を得ながら再稼働を進める」という政府方針を改めて示している。
徹底した省エネについては、30年の省エネによる削減目標量を定め、目標達成のために、30年のエネルギー消費効率について、40%程度の改善を目指すことを明記。あらゆる分野の「産業」「業務・家庭」「運輸」などそれぞれの部門で実行可能な省エネの取り組みを進めていくことを強調している。
レポート前編はこちら ▶ https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2021_1.html
レポート後編はこちら ▶ https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/energyissue2021_2.html
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