地域経済循環
航海に正確な地図と羅針盤が必要なように、地域づくりに客観的なデータは欠かせない。地域活性化や地方創生の重要性は言をまたないが、具体的な施策は、個人的なエピソードや経験に基づいて議論されることが多い。このため、効果的な施策の立案・実行・検証に寄与するよう、国は2015年に地域経済分析システム(RESAS)の提供を始めた。ここにはさまざまなデータがあるが、本連載では、地域経済循環図を中心に分析を行ってきた。それは、地域経済循環の視点が、中心市街地活性化や商店街振興なども含めて、あらゆる地域施策を検討する根幹となるからである。
あらゆる課題に対応
日本の人口は減少を続けており、少子化対策は待ったなしであるが、異次元の対策が実施されたとしても、当面の人口減少は避けられず、地域経済は存亡の危機にあり続ける。かかる現状を克服するためには、「生産→分配→支出」と流れる所得の循環を強く太くすることが不可欠だ。人口減少下で所得の循環規模を維持することができれば、1人当たりGRP(域内総生産)は拡大し、所得水準が向上する可能性もあり、少子化対策と同様に、地域経済循環の再構築にも力を入れるべきであろう。
2050年カーボンニュートラルの取り組みも、気候変動対策・温室効果ガス排出削減といった観点のみならず、地域経済循環の視点が求められる。太陽光や風力、地熱、森林といった地域資源を有効に活用することで、域外に流出していたエネルギー代金を域内に取り込み、地域住民の所得向上に寄与することもできるからである。
このように、地域経済循環は、さまざまな課題への対応策を検討する共通のフレームワークとなり、その視点も、①所得の流入を増やす、②所得の流出を減らす、③内発的発展を創出するの3点で、非常にシンプルである。ただ、現段階では施策の検討に活用する取り組みが広がっているとは言い難い。これは、地域経済循環図を他のRESAS搭載データと関連付けて読み解くためには一定の経験が必要であること、豊富なデータが搭載されており対象分野の統計データだけで充分なボリュームがあることなどが、その背景にある。
ローカルファーストをエンジンに
また、地域経済循環を強く太くする視点がシンプルであることから、具体的な政策に昇華するためには相応のプロセスが必要であることも理由の一つであろう。このため、日本商工会議所(日商)では、各地の地域経済循環を「政治経済中心都 市」「製造業都市」「観光都市」「ベッドタウン」の四つのモデルに分け、それぞれの特徴と一般的な取り組み施策をまとめようとしている。国もRESASサイトにさまざまな活用事例を掲載したり、経済産業省が無料でRESAS操作の講師を派遣したり、日商が読み解き方の専門家を派遣する事業を行ったりしている。
しかしながら、地域経済循環を再構築するためには、息の長い取り組みが必要であり、また、状況によっては当該地域で先例がないことに挑戦する必要も生じるであろう。そうした中で大事なことはモチベーションの維持であり、伴走支援者の 存在である。
各地で伴走支援を担う商工会議所の中には、地域経済循環の視点から活動を見直す取り組みも生まれつつある。また日商が事業計画に掲げたこともあり、地域経済循環の再構築につながるローカルファーストを取り組み方針に盛り込む商工会議所も出てきている。地方創生や中心市街地活性化なども、個別の政策体系というよりは、ローカルファーストと同様に、地域経済循環再構築を推進するためのモチベーションドライバーであろう。
日商のサポートを得て各地商工会議所がローカルファーストの精神で地域経済循環の再構築を伴走支援すること、それによって生まれる持続可能な地域経済が石垣のように日本経済を支えるようにすること、これがわが国の羅針盤である。
(株式会社日本経済研究所地域・産業本部上席研究主幹・鵜殿裕)
最新号を紙面で読める!