経済の浮沈は一企業の努力でどうこうできるものではなく、不況の波にのみ込まれる店もある。しかし、大波をしっかり乗り越える店があるのも事実だ。両者の違いは何だろうか。
長野・小布施町の栗菓子店「竹風堂」から見えてきた不況に勝ち抜く条件は、揺るぎない商いの理念と、現状に満足することのない情熱であった。
創業125年栗菓子の老舗
「皆さん、不況だの、経営が厳しいだの、おっしゃるでしょう。私も考えてみたんですけどね、うちはこれまで好況だったことがないんですよ。そりゃ、時代ごとに波はあります。でも、(大きくもうかるような)好況もなかったもんで、不況だから特別なことをしよう、というふうには思わないですね」
そう語るのは、明治26年創業の栗菓子の老舗、竹風堂を営む竹村猛志会長。物腰の柔らかい優しい語り口だが、話題が商売に及ぶと、その瞳の奥にスッと光が宿る。それは頑固なまでに道を極めた真の商人の厳しさだ。
竹風堂が店を構える長野・小布施町は日本有数の栗の産地で、古くから栗菓子の店が多く軒を連ねる。竹風堂も当地で長年商ってきた菓子店の一つだが、その存在感たるや別格だ。「竹風堂の栗かの子でなければダメなの」というファンも少なくない。
定番のロングセラー商品は、栗かの子、栗ようかん、栗おこわ、そして干菓子の4種類。商品の種類として考えると、どれも竹風堂でなければ食べられないものではない。他の菓子店でも扱っているし、栗ようかんや栗おこわはスーパーマーケットでも当たり前に手に入る。 竹風堂の商品は何が違うのか。
お客のために上質さを追求
竹村会長は全ての商品に一貫するコンセプトを、「同業者と比べて圧倒的に上質であること」と言い切る。例えば、初代が創製した「方寸」という名の干菓子は、原材料に北海道産の赤エンドウと、粉糖と、水を使う。
「当店の方寸は普通の干菓子とは風味が違うんです。何の変哲もないお菓子ですけど、特に未就学の子どもたちに人気があります。素材の良さが分かるんでしょうかね」(竹村会長)
実際に方寸を口に含むと、その圧倒的な魅力を堪能できる。心地よい歯触り、鼻腔を抜ける典雅な香り、舌でさらりと溶ける潔い甘さ。ひとかけらで、こだわりが伝わってくる。それもそのはず、方寸には上記のこだわりの材料以外に余計なものが入っていないのだ。
これは簡単なようで、誰にでもできることではない。もち米の粉末などでかさを増したり、安価な海外産赤エンドウを混ぜ込んだりすれば、原価が下がり、利益率が上がる。市販品の多くはそういう手段を取っている。 しかし、竹風堂はそれを是としない。
「商業界が教える商売十訓の一つに『損得より先に善悪を考えよ』とあります。もちろん、適正利潤を確保しなければ商売は成り立ちませんが、損得だけではだめ。また、善悪はお客さまにとってどうかということ。お客さまにとって良いことを実践していくことが大切です」(竹村会長)
上質さにこだわるのは、お客さまにとって、それが良いことだからだ。他の商品も方寸と同様に徹底したこだわりのもとに製造される。添加物は一切入っていない。
使用する栗は全て小布施産を含む国産だ。竹風堂の命である栗の品質は譲れない。竹風堂では信頼できる国内の生産者との長期的な取引により、貴重な国産栗を安定的に調達している。
それと同時に、1977年から小布施栗の伝統を守るために栗の植樹に尽力。当初10年間は無料で、11年目からは主に生産農家向けに苗木を原価の半額で提供してきた。その数は通算で約6万本に上る。 その根底には、損得勘定ではできない、お客のためになる商売がある。
(商業界・笹井清範)
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