今年4月、トラックドライバーなどの労働時間の上限規制が本格的に開始された。それによって、年間960時間(休日労働は含まない)の残業上限規制が適用され、終業から始業までの休息時間を、これまでの8時間以上から最低でも9時間以上にする措置も必要になった。この規制により、運送業界をはじめわが国の産業全体で、ドライバーの人手不足や配送遅延などの懸念が高まっている。いわゆる“物流の2024年問題”だ。30年には、国内の輸送能力は34・1%不足するとの見方もある。
世界的に、ネット通販の利用増加などデジタル化の加速に伴い、物流の重要性は大きく上昇している。経済専門家の中には「物流を制する者は世界を制する」との指摘もある。その意味でも、2024年問題がわが国経済にもたらす影響は大きい。運送業をはじめとする企業への影響も重要だ。人手不足の問題に対応すべく、物流サービスの供給体制を整備するため、さまざまな取り組みが進行している。
最近、物流業界では、いくつかの企業が一緒になって“共同配送”に取り組むケースが増加している。それに伴い、複数の食品メーカーが食品包装規格を統一する例も増えそうだ。IT先端企業と提携して、共同配送向けのソフトウエア開発に取り組む企業も目立っている。今後、そうした変化をいかにして収益獲得の機会につなげるか、経営者の意思決定の重要性は高まるだろう。
また近年、ドライバー不足やコロナ禍、ウクライナ紛争などで世界的に物価は上昇し、企業のコストは増加した。今年3月、トラック運送のコスト増に対する価格転嫁率は28・1%で27業種中の最低だった。それに伴い、企業同士の提携や買収などを実施し、2024年問題に対応した物流サービス供給体制を整備しようとする企業は増加している。その上で、物流各社は顧客企業(荷主)と価格交渉を行い、値上げの浸透を図っている例もある。
コストの増加に対応するため、個社独自の規格に基づいた物流体制ではなく、共同での配送体制の確立に取り組む企業も増えた。一部の物流大手は国内の長距離輸送拠点を整備し、中小の事業者にも開放する方針と報じられた。これまでにも共同配送を実施するケースはあったが、それを安定的に続けることは必ずしも容易ではなかったようだ。その背景の一つに、荷物の大きさやクール便の温度管理、伝票の書式、決済方法など個社が定めた物流の規格があったと見られる。複数の企業が共同で荷物を運ぶためには、個社独自の規格を共通化しなければならない。輸送の需給の偏りが生じないよう、輸送能力と物流ニーズの円滑なマッチングの必要性も高まる。
2024年問題は、ある意味、わが国の企業が物流業務のムダ、ムリ、ムラを取り除く変化を促進したともいえるかもしれない。共同で物流管理システムを構築して、複数の企業で共通のルールに基づいた運送体制を整備する動きは活発化している。今後、そうした流れが本格化すると、運送業だけではなく製造元や倉庫など、サプライチェーン全体に影響が及ぶことになりそうだ。製造過程から倉庫での在庫管理、荷卸しや梱包、運搬などを行うロボットの導入も増えることだろう。
実際に共同配送の増加により、物流デジタル化も加速している。食品大手8社と食品卸業者は、物流データを共有し、効率的な運送体制の整備に着手した。日本食品包装協会の会員企業も参画している。メーカーと卸業者が使う共通のITシステムを開発し、国内1000カ所を超える各社の物流拠点をデータベース化する。2024年問題をきっかけに、物流、関連システムなどの分野で国内企業の連携は加速するだろう。共同配送体制の整備を追い風に、食品包装資材などの製造分野でイノベーションが進む可能性も高まっている。それは、さらに重要なイノベーションにつながる可能性がある。(10月12日執筆)
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