人手不足が深刻な建設業界の中、ここ5年間でフジみらいは社員数も売り上げも約1・5倍増加した。けん引したのは二代目で代表取締役社長の江﨑雅章さん。創業者の父が提唱した「考えろ・やってみろ・みんなのために」の行動指針の下、「人が強み」と明言し、お客さま、社員、社会の三方良しを追求する。
創業の前年に生まれ両親の苦労を見て育つ
1976年、フジみらいは「フジ設計工務」という橋梁設計の下請け会社として誕生した。創業メンバーは、創業者の江﨑郁夫さんを含めてわずか3人。創業から約10年間は業績が振るわなかったものの、脱・下請け、利益を社員に還元する「当たり前経営」に徹し、施工管理業務、システム開発業務などを遂行した。
創業の前年に生まれた二代目で代表取締役社長の江﨑雅章さんは、自身の幼少期をこう振り返る。 「会社が一番大変な時に小学生でした。学校の給食費がまともに払えなかったことや、残業続きで、母と一緒に事務所へ夜食をよく届けに行ったことを覚えています。母も仕事を手伝っていて、懸命に働く親の背中を見て育ちました」
会社は小さいけれど、すごいことをやっている。そう子どもながらに感じたという。実際、同社は技術力、きめ細かなお客さま対応に磨きをかけて発展した。現在は建設コンサルタントとして、主に①発注者支援業務②建設技術支援③建設コンサルタント④システム開発の4事業を柱に展開する。中でも中核事業は①で、一級河川や道路、ダムなど国や自治体などの社会インフラ事業の技術支援、マネジメントを担う。こうして行政(発注者)側に立つ業務を手掛け、四国で第3位のシェアを誇る。
成長著しい家業だが、江﨑さんは学生時代や前職では、継ぐ自覚は強くなかった。それでも建設業界に憧れて、父親と同じ大学に進み、東京の大手総合建設コンサルタント会社に就職。都市トンネル・社会インフラマネジメント部門で、8年間を過ごした。
意気揚々と家業入りするも絶えない先代との衝突
「大学進学時に継ぐかどうかは、具体的に話をしていませんでした。実際に意識したのは、前職で徳島の仕事に関わったとき。地元のインフラを支えること、現場の人に近い仕事に関わることへの何とも言えない喜びが湧いて、故郷の社会インフラに関わりたいと強く思うようになりました」
江﨑さん自身、深夜までの残業が長年続き、将来や家族について考えたこと、行政の大改革で発注者支援業務の民間発注が始まり、同社の転換期だったことも重なった。2007年に家業に入り、先代に同行して役所を回るなどの営業業務とあわせて、連携企業や採用活動の責任者となった。道路巡回業務や可動橋の開閉操作業務の管理のほか、会社の企画運営や人事関係、社外では業界関連の事務局を務めるなど、〝何でも屋〟として精力的に働く。 「前職での経験や深夜まで働いた持久力を還元できたらと、躍起になるあまり空回りもしました」
先代とも衝突した。アイデアマンで思いついたら即実行の先代と、論理的に考えようとする江﨑さんの意見はなかなかかみ合わない。 「11年に東日本大震災が発生し、四国の事業費がさらに減るのではないかと危機感がありました。しかし、社長は『こういう時こそ攻めるぞ』と指示した。当時の売り上げは約4億円で、私は現実的に10億円と考えましたが、先代は『30億円行くぞ!』の大号令をかけた。今思えば、強いリーダーシップを間近で経験し、この人はすごいな、と心から思っています」
〝らしさ〟を継承して300年生きる社会企業へ
だが、12年に起きた笹子トンネル天井板崩落事故を受けて、事前防災や点検業務が急増。先代の大号令と相まって、事業は波に乗った。社員の増員、環境が整った臨海産業団地・マリンピア沖洲への本社移転に伴い、未来を見据えて企業理念の策定を図る。300年を生きる社会企業を追求すべく、先代と2泊3日で泊まり込み、先代の熱い思いにも触れた。仕事への誠実さや信念を貫く姿勢、社員への情の深さなどに理解を深めていく。1年かけて「創業の精神」「経営理念」をまとめ上げ、親子関係にも変化が見られる中、14年より5年連続で国土交通省の「優良業務・技術者表彰」など受賞、四国トップクラスの評価を得る。そして19年、江﨑さんは社長に就任した。 「息子だからではなく、理念や思いを継承する者が継承者という先代の言葉が強く残っています。社員から『みんなの成果が社長の成果です』と声を掛けられて、先代から引き継いだのは思いだけではなく、優れた社員であることにも気づかされました。わが社の強みは『人』。そして、先代が提唱した『考えろ・やってみろ・みんなのために』の行動指針が根づいた『社風』です。売り上げも社員数もこの5年で1・5倍になったのは社員の頑張り、新卒や若手未経験者の採用、社内研修の見直しもありますが、温かい社風があったからこそです」
100年先も同社らしい集団であってほしいと願い、お客さま、社員、社会の三方良しを追求すると語る江﨑さん。22年には未来を見据えて事業を盤石にする「経営の設計図2040」を通し、会社の未来ビジョンを社員に発信。また、24年に国土交通行政関係功労者表彰を受賞した。 「息子も大学を卒業し、県外の同業に就職する道を選んでいます。継ぐかどうかは分かりませんが、理念を継承する人に後継者になってほしいですね」と、先代と同じことを言っていると笑った。
会社データ
社名 : 株式会社フジみらい
所在地 : 徳島県徳島市東沖洲1-6-1
電話 : 088-664-7077
代表者 : 江﨑雅章 代表取締役社長
従業員 : 約200人
【徳島・阿南商工会議所】
※月刊石垣2025年2月号に掲載された記事です。