米、イスラエルによるイラン攻撃に端を発したイラン危機は、エネルギーだけでなく世界経済そのものを揺さぶっており、中でもアジアは最も深刻な影響を受けている。石炭、石油、天然ガス、原子力、再生可能など地球上で消費されるエネルギーの47・1%(2024年)をアジアが消費しているからだ。アジアの高成長を支えているのは今も昔も低コストで、安定供給される石油や天然ガスなのである。
イラン危機は日本では1970年代の2回の石油危機と同列に捉えられているが、構造はかなり異なっている。70年代に日本は原油供給が途絶える「油断」に襲われ、経済が混乱した。73年当時、日本の発電の70%は石油火力で賄われ、工場から自動車まで石油に依存していたからだ。今回も原油供給は細ったものの、発電はほとんど石油に依存せず、現在の自動車は70年代の2倍以上の燃費性能を持ち、EVも普及しつつある。日本経済の“油断耐性”は高まっている。
問題は東南アジア、南アジアであり、多くの国が原油ではなく、ガソリン、軽油、液化石油ガス(LPG)など石油製品の輸入に依存していることにある。マニラやバンコク、ダッカなどのガソリンスタンドに行列ができ、インドのレストランがまき探しに奔走しているのは、サウジアラビア、UAEなどからのガソリンやLPGの輸入が途絶えたためだ。日本、韓国、中国、インドは基本的に原油を輸入し、国内の製油所で精製する「消費地精製」政策を取って来たが、東南アジア、南アジアは投資資金の不足から国内に製油所を建設するよりも石油製品を輸入して対応してきた。
中東産油国も国産原油を精製し、付加価値をつけたガソリン、軽油などで輸出する方が経済的に有利だった。日本のように国内に高い石油精製能力があれば、どこから原油を輸入しても対応でき、原油であれば長期間の備蓄も可能だが、石油製品を供給できる国は限られ、備蓄も困難。東南アジアなどにとっての落とし穴はそこにあった。 また、LPGは簡便な厨房燃料であり、ガソリンの半分以下のコストの自動車、二輪車燃料であるため、東南アジア、南アジアに広く普及したが、調達源が限られるリスクがあった。
かつて日本が莫大(ばくだい)な先行投資で臨海コンビナートに石油精製、製鉄、石油化学を構築した工業化のプロセスや、消費地精製の発想の正しさはイラン危機によって証明された。アジアの途上国は今後、どのような産業政策を取るのかに注目したい。

