昨年のトランプ関税騒動が落ち着いたかと思えば、2月末に始まったイラン攻撃が引き鉄となった石油・石化製品、液化天然ガス(LNG)、肥料はじめ多様な部材の供給不足と価格高騰が世界を揺るがしている。中東地域や産油国の基盤が揺らぐ一方、AIをけん引車とする半導体、データセンター事業の異様な膨張にバブルの懸念が高まっている。世界経済は戦後80年余で最も深い霧の中にある。
昨年3月号の本コラムで、「探索と分散」を提唱した。1990年代からコロナ感染前まで続いたグローバリゼーションの順風期には、企業経営は「選択と集中」を進めれば良かった。当時、人件費が安く、若年労働力も豊富だった中国に、生産拠点を集約することが「選択と集中」となり、多くの企業を成功に導いた。「選択と集中」は右肩上がりの一本道の成長が見通せた時代に適合した戦略だった。
時代は変わった。米中対立による世界の分断が進み、ウクライナ、パレスチナ、ベネズエラなど地政学リスクが世界にまき散らされた環境では「選択」は困難であり、確信なきまま「集中」すれば企業の存続を危うくしかねない。今、経営者が心がけるべきは、どこに生き残りと成長の道があるのかを「探索」し、自社の経営資源を「分散」していくことだろう。「探索」に生きるのは経験であり、情報収集のネットワークの広さである。つまり経営者自身の「来し方」が問われる。自らが力不足と感じれば、メインバンクや信頼できる経営者仲間、専門家から情報と知見を得ることだ。答えを求めるのではなく、良質な判断材料を得ることに専念することが肝要だ。
経営資源の「分散」は投資効率を下げることになり、成長戦略としては愚策だろう。だが、今は成長よりも生存が優先される。不透明な世界で一つに「賭け」てはいけない。ただ、何も動かないまま売り上げ、利益の減少を看過することも危険だ。新技術、新商品、新規顧客、新市場を探索しながら分散投資を“ほふく前進”のように進めることも必要だ。
アジアでは、外国からの資金流入に支えられたIPOブームや高級マンション開発が続く都市や国家を避けなければならない。工場や物流倉庫、庶民向け住宅開発、鉄道(在来線)建設など実質的で、長期に活用されるものに活発な動きがある場所を「探索」し、長期の事業に育つものに「分散」投資して様子を見るのが賢明だ。日々の小さなニュースの中に「探索」のヒントもあるものだ。

