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テーマ別企業事例 東日本大震災―あれから9年 女性経営者たちの復興

事例1 2度の被災を機に帰郷した娘と二人三脚で新たな販路を開拓

宮古マルエイ(岩手県宮古市)

「一夜干しカレイ」の製造に特化して、1994年に設立した宮古マルエイ。東日本大震災と2016年の台風10号の2度の大きな災害に見舞われるも、東京から戻ってきた娘とともに自社HPやネットショップを開設し、会社や商品のブランディングに力を入れたことで、新たな販路開拓が進んでいる。

北海道産と三陸産を中心に8種類のカレイを扱っている

被災で物流がストップし売り上げが低迷

四方を海に囲まれた日本では、魚を干して保存性を高めた干物の文化が古くからあり、発展を遂げてきた。魚種や製法の違いで多種多様な干物が存在する中、「一夜干しカレイ」に特化して製造してきたのが宮古マルエイだ。同社は、カレイの干物の生産量日本一を誇る島根県浜田市で水産加工業を営むマルエイと、長年宮古でイカの加工を行ってきた大濱正商店の共同出資により設立された。

「正直なところ、他社との差別化を狙ってカレイに着目したわけではありませんが、10年、20年と一夜干しだけをつくり続けるうちに、カレイ専門店と自負するようになりました」と、同社社長の大濱晴美さんは説明する。

北海道産や三陸産を中心に多種類のカレイを取り扱い、市場でも高評価を得て、安定した経営を続けていた同社を襲ったのが東日本大震災だ。幸い海辺から離れていたため津波被害を免れ、電気も3日ほどで復旧して工場は再稼働したが、物流がストップして1カ月近く商品を出荷できなかった。

「一度失った売り場に再び商品を置いてもらうのは難しい上に、放射能の影響を気にする消費者の声がネックでした。放射能検査を行って数値に問題がないことを証明しても、売り上げはなかなか伸びませんでした」(晴美さん)

風評被害は長く続く。販路縮小で売り上げが低迷しても、津波被害に遭っていないため公的支援を受けにくく、業績は日に日に悪化していった。

家業継続のために東京で働いていた娘が戻る

震災当時、娘の千佐喜さんは東京・調布市にあるメッキ工場に勤めていた。被災地の惨状や家業の苦境に心を痛めていたものの、故郷に戻る考えはなかったという。

「当時、両親から『たぶん、私たちの代で会社を閉めると思う』と言われていました。仮に会社を続けることになっても、私は5人きょうだいの4番目で兄もいるので、継ぐなら兄だろうと思っていました」(千佐喜さん)

ところが2015年暮れに転機が訪れる。両親から「話がある」と言われて、正月にきょうだいが顔をそろえた際、公的支援によって事業を継続するよう背中を押してもらったので、何人でもいいから帰って一緒にやらないかと声掛けされたのだ。「それなら帰って来てもいいかな」と、千佐喜さんの心は動いた。

「前職場と事業内容こそ違いますが、同じ製造業です。前職で品質管理や品質保証を行う部署に長くいたので、その経験を家業でも生かせるのではと」

意を決したのは16年夏だ。気象庁が統計を取るようになって初めて東北地方の太平洋側に上陸した台風10号が岩手県に大雨をもたらし、同社工場は1・3mも床上浸水して大打撃を受けた。事業継続を決めて社内が前向きになっていた矢先だけに、両親の精神的ダメージは大きかった。これを機に千佐喜さんは帰郷し、営業担当として入社した。

“一夜干しカレイ専門店”であることを積極アピール

入社後に取り組んだのは、受注管理システムの整備だ。当時、東京オリンピック・パラリンピックに向けて、国がHACCP(食品衛生管理の国際基準)に沿った衛生管理を推奨していた時期だったので、前職での経験が役に立った。また、事業規模の観点からISOの認証を取るのは困難なため、対外的な体制を整える意味でマニュアルや記録用紙などを作成し、現場に落とし込む体制づくりなども進めた。

それと並行して力を入れたのが、ブランディングだ。それまで国産のカレイを中心に、品質にこだわったものづくりを続けてきたが、“どんな会社がつくったか”は発信できていなかった。そこで千佐喜さんは自社HPとネットショップを開設したのを機に、「東日本で唯一のカレイ専門店」というキャッチフレーズを前面に出した営業を展開した。

「魚の干物を扱う店はほかにたくさんありますが、カレイに特化している店は少なくとも東日本にはありません。三陸にある会社がつくった一夜干しであることを広く認識してもらうのが狙いでした」

千佐喜さんは美大を卒業したスキルを生かして、手描きの販促チラシやパンフレットをつくり、展示商談会などで積極的にアピールを展開した。“東日本唯一”で“カレイ専門”という希少性を売りに、新たな販路開拓に力を入れた結果、最近では有名百貨店の売り場を獲得したほか、共同購入の仕事が増えてきている。さらに、SNSの利用率が高い飲食店など、個人客への直接販売も重視したことで、徐々に口コミでも広がっているという。

千佐喜さんは今後の展望をこう語る。

「水産品は持ち帰りにくいのが難点ですし、いざ持ち帰っても調理するのが面倒だという人も多い。ですから今後は、一夜干しカレイを買ったらその場で焼いて食べられるようにしたり、干物づくり体験ができるような企画を考えてみたりするのもいいかなと思っています。地元の人たちとも連携して、多くの人に足を運んでいただき、干物のおいしさを味わってもらいたいですね」 長く故郷を離れていた“よそ者”の視点が、2度の災害に見舞われた家業の立て直しに着実に貢献している。

会社データ

社名:有限会社宮古マルエイ

所在地:岩手県宮古市上花2-1-33

電話:0193-64-4130

代表者:大濱晴美 取締役

従業員:2人

HP:https://miyakomaruei.net/

※月刊石垣2020年3月号に掲載された記事です。

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