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テーマ別企業事例 東日本大震災―あれから9年 女性経営者たちの復興

事例3 災害や時代の変遷を乗り越え地産地消の名店として勝負し続ける

割烹やました(福島県相馬市)

被災地の一つ、福島県相馬市は昨秋、台風19号と10月25日の大雨に相次いで襲われた。復興の石段を一段一段登る中での二重被害。市内の4分の1が浸水し、災害ゴミや泥の処理に翻弄(ほんろう)された。それでも前を向き、店の売り上げ回復に奔走する女将(おかみ)がいる。それが「割烹やました」だ。その暖簾(のれん)をくぐった。

左から息子の妻の朋美さん、親方の明生さん、智子さん、息子の光二さん。男性2人が厨房を、女性2人が客席フロアを担当

東日本大震災時もフル稼働で宿泊、料理を提供する

東日本大震災で、高さ9m近い津波に襲われた福島県相馬市は、9年たった今、一見、穏やかな日常風景を取り戻しつつあるかのように見える。だが、あの日の記憶はいまだに鮮明だ。それを裏付けるように女将の鈴木智子さんはこう語った。

「店の2階の屋根も半壊して、冷蔵庫の中のものも飛び出して、食器やビンの破片が散らばる状況でした。震度は6強ぐらいかしら。ちょうどお店の休憩時間で、揺れが収まってから一度は店から退避したものの、津波の心配もなく電気、ガス、水道全て使えたので一度も避難せずにすみました」

女将の旧姓は山下で、1984年創業の割烹やましたは、鈴木さんの家業だ。東京・築地の日本料理「つきぢ田村」でご主人の明生さんとともに修業し、現在は息子夫婦とともに店を切り盛りしている。

女将は「こうと決めたら早い」と自他ともに認める行動派で、東日本大震災時も、持ち前の明るさと行動力で切り抜けた。得意先の企業にワンコインの仕出し弁当を提供し、福島県警察本部と災害時協定を結んでは、2011年4月から約3カ月間、警官宿泊所として店を開放した。

「料理店の前、私が子どものころは銭湯を営んでいて、簡易宿泊所も併設していました。だから不特定多数の人が出入りする状況は慣れっこ。それに20年以上使っていない浴場の蛇口が2、3個はまだ使える状態でした。こうした条件がそろっていたからできたことです。それに、食事やお弁当をつくれたことで、お店も存続できましたし、お互いさまです」とほほ笑む。

また、相馬商工会議所にいち早く連絡し、グループ補助金(中小企業組合等共同施設等災害復旧事業)の申請手続きなど、資金繰りに関する助言をもらえたことも迅速な対応につながったという。

景気は傾き、客足が止まる中 店のスタイルを変えてしのぐ

しかし、経営は大打撃だった。震災前から冠婚葬祭での利用客は減少傾向にあったが、その流れに震災は追い打ちをかけた。

「冠婚葬祭のスタイルが変わってきて、会席料理を召し上がる方が減ってきています。企業も、忘年会や歓送迎会をやらなくなって……。お客さまを待っているだけでは状況は変わらない、こちらが変わらなきゃと思いました」

鈴木さんは、店の前の物置きにしていた小屋を改装し、11年10月にバリアフリーのレストランを開設する。昼は1日30食限定でランチバイキングにし、肉じゃがや焼き魚、ひじきの煮物など、家庭的なメニューを展開した。カジュアルな内容とはいえ、市内を代表する日本料理店の和食は、一味も二味も違う。それを1500円でいただけるとあって、「割烹は敷居が高い」というイメージを払拭(ふっしょく)し、さらにランチ利用客から会席料理の予約が入るなど、新規顧客の獲得にもつなげていった。

「名前はMadeiniランチ。“までいに”は、この地の方言で丁寧に、心を込めてという意味なんです。このバイキング形式のランチは4年半ほど続けましたね。その頃になるとまちも落ち着きを取り戻しつつあって、私たちも会席料理に力を入れて取り組みたいという思いの方が強くなっていきました」

レストランのランチは「すき焼き御膳」「焼魚御膳」などの定食スタイルにメニューを切り替え、本館2階で提供する会席料理はコース料理のほかに、品質はそのままに廉価な2種類の会席弁当も用意した。最大48人が使える大広間だけではなく、3、4人仕様の個室もあり、日常から特別な日まで使える〝使い勝手のいい店〟として、柔軟に対応できる体制を整えていった。

昨秋の二重被害で学んだ「当たり前」の大切さ

さらに19年には相馬商工会議所からの紹介で復興庁の「令和元年度被災地域企業新事業ハンズオン支援事業」にエントリーし、採択されると7月から支援を受けながら、さらなる経営改善を図っている。同時期に息子夫婦と店を切り盛りするようになり、8、9月とお店の経営は上向きかけたが、その矢先、自然災害が店を襲った。台風19号で床上浸水50㎝、10月25日の大雨では床上20㎝に達した。自動車は水没し、業務用設備機器の多くは処分せざるを得なくなった。約3週間分の予約は全てキャンセルとなり、損失額は約800万円にも上った。

「この時、いの一番に頼ったのも相馬商工会議所です。罹災(りさい)証明や補助金について親身にご対応いただきました。孫を通じてつながりのあった地元のNPO法人の方も安否を気遣ってくださって、震災でのボランティア経験のある方を紹介してくださいました。県外、遠くは広島から駆けつけて手際良く泥かきをしてくださって。私たち4人では何もできなかったと思います」としみじみと語る。

この災害を経て、床上浸水を防ぐための遮水壁と防水シート、土のう、そしてシートを貼る養生テープを常備しているという鈴木さん。整理整頓、後片付けなど、当たり前を当たり前にすることで、有事に対応できる心身の〝備え〟を心掛けている。だが、肝心の経営状況は「今がどん底です」と顔を曇らす。

震災後、激減した県外の観光客を国内旅行ツアーの提携やSNSの発信で誘致するなど、再起を図る真っただ中だ。新たにインスタグラムも始めた。

「相馬市には、地産地消のおいしい食材がたくさんあります。それらをおいしく調理してお客さまにご提供すると同時に、生産者の方たちの思いを伝えられる店として、存在感をもっと出していきたいですね」

朗らかな口調の中に、苦難に屈しない希望と熱意がひしひしと伝わってきた。

会社データ

社名:割烹やました(かっぽうやました)

所在地:福島県相馬市中村字大手先42-1

電話:0244-36-0327

代表者:鈴木智子(女将)

従業員:4人(代表含む)

HP:http://www.soma.or.jp/~yamasita/

※月刊石垣2020年3月号に掲載された記事です。

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