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テーマ別企業事例 東日本大震災―あれから9年 女性経営者たちの復興

事例2 手づくりニットに全国から注文殺到気仙沼発の世界ブランドを目指す

気仙沼ニッティング(宮城県気仙沼市)

「気仙沼ニッティング」はその名の通り、手編みのカーディガンやセーターを編む会社だ。だが、趣味の延長上の手づくりとはまるで次元が違う。質、デザインに妥協のない高付加価値のニットは、今や予約が300人以上、1年半から2年は待つほどの人気だ。世界で通用する〝ハイエンド・ブランド〟に向け、一目一目糸をたぐる。

気仙沼港を見下す高台にある直販店「メモリーズ」は土日営業。東京・北参道にも店舗を構えるほか、全国で展示販売会を開催 ©️志鎌康平

「ほぼ日刊イトイ新聞」の1プロジェクトから法人化

2011年3月11日、その日、御手洗瑞子(みたらいたまこ)さんは南アジアに位置するブータンにいた。米国系コンサルティング会社を経て、ブータンで初めての首相フェロー(特別研究員)として観光産業の発展に奔走していた。だが、東日本大震災の報道から「東北の震災復興の役に立ちたい」と任期終了後の9月に帰国、コンサルタントとして東北の自治体の産業復興に携わった。

そんな矢先、御手洗さんが気仙沼ニッティングの代表取締役社長になるという、新たな道筋をつけるキーマンが現れた。糸井重里さんだ。糸井さんとのブータンにまつわる対談から話は始まった。

「ブータン時代から交流があったのですが、対談の時に突然『たまちゃん、気仙沼の編み物会社の社長にならない?』と言われました。突然のことで、そのときは困ってしまいました」と笑う。だが、一人になってもう一度、冷静に考えてみたと話を続ける。

「当時の気仙沼で暮らす人の多くが支援を受けて『すみません』『ありがとうございます』と頭を下げ続ける毎日です。職場も家も流され、仮設住宅にいてもやることがない。お金を殖やせる一縷(いちる)の望みをかけてパチンコ店などで過ごす人も少なくなかった。インフラだけでなく、暮らしのサイクルも壊れていると感じました。でも、編み物なら毛糸と編み針さえあれば、どこでもできます。そこに可能性を感じました」

御手洗さんは覚悟を決めた。12年6月、糸井さんが主宰するwebサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」(以下、ほぼ日)の一プロジェクトとして、後に独立することを前提に気仙沼ニッティングが動き出した。東京出身の御手洗さんの、地縁血縁のない気仙沼への先行き不透明な船出だった。

1着15万円のカーディガンに全国から100件の応募が来る

そもそも、なぜ気仙沼で編み物の会社なのか。糸井さんが、震災復興の活動をしていたこと、人気ニットデザイナーの三國万里子さんと交流があったことが発端だが、気仙沼という土地のポテンシャルも背景にある。気仙沼は港町として発展し、漁師の多くが手編みのセーターを着用する文化があった。家族が編み、漁網の修繕やロープワークをこなす漁師らもまた、遠洋漁業の船上でセーターを繕った。編む文化が他の地域よりも高く、フィッシャーマンズセーターの代名詞、アランセーターで知られるアイルランドのアラン諸島の暮らしとも重なる。アラン諸島の視察や、気仙沼のとある家への下宿、編み手集めのワークショップ、プロジェクトの進行は「ほぼ日」にも掲載され、関心を集めた。

そして、商品となるセーターが誕生する前から、「世界に誇れるオーダーメードのフィッシャーマンズセーター、一作目は代表作になり得るガーディガンをつくろう」と勢いづく。毛糸もオリジナルで産地、掛け合わせ、撚(よ)りを研究し納得のいく〝質〟を求めた。編み手の報酬も〝適正〟に算出した結果、はじき出された1着の手編みのカーディガンの価格は15万円だ。

「1着編むのに50時間以上はかかります。でも時間がかかるから高いのではありません。それに復興支援が購入の動機では事業として続きません。着てみたい、着続けたくなる、着物のように親から子へ受け継げるほど丈夫で上質な1着を目指しました」

そのクオリティーを形にできた編み手は、当時わずか4人。12年12月、4着のオーダーメードのカーディガンの注文を受けることを発表すると、応募は100件近くも集まった。

「仕事=誇り」の好循環で新たな社会参画の形を創出

セカンドモデルの製作を進めると同時に13年に法人化し、編み手も15人に増えた。そして、御手洗さんが経営者として自身に課し、貫いたのが初年度の黒字化だ。

「赤字スタートが悪いとは思いません。でも、編み手さんにとっての仕事を、誇りになり得るものにしたかったんです。編み手さんに初年度黒字になったこと、気仙沼市に納税できたことを報告した時、『これで、肩で風を切ってまちを歩ける』と大歓声が上がりました。結果を示す。それが震災間もない気仙沼では必須でした」

そして、カーディガンやセーター、帽子、マフラーなど種類も少しずつ増え、編み手も20年現在では約70人を数える。だが、人手が増えて仕上がりにばらつきがあっては、ブランドとして成立しない。

「編み手さんたちは、週に一度、「編み会」に通います。編み会で、技術習得と商品の出来上がりの確認をします。いまは、担当商品別にクラスが四つ。編み手希望者は、まずは基礎練習から始めます。きつくもなく、ゆるくもなく、ちょうどいい手加減で編めるようになるまでシンプルな編み地を編んで練習します。それができるようになると、セーターやカーディガンなどの商品を担当するようになります」

簡単なものをたくさん編むだけでなく、難しい一着を仕上げて経験値を上げる。さらにアドバイスや評価ができる〝伴奏者〟がプロ意識を育てる。地方では人材確保が難題といわれるが、同社は子育てや介護、家業の手伝いなど〝家〟を離れらない人でも、自宅で、自分のペースで、好きな量だけできる。それにスキルトレーニングを組み合わせて人材確保に成功している。また、被災地ではなく憧れの地として気仙沼に足を運んでもらいたいと、19年には1週間30万円の編み物サマースクールを開催。気仙沼の新たな観光策にも貢献する新事業化を進めている。

「誇れるものづくり、よろこびが循環する事業を気仙沼に根付かせたい。地道に地に足をつけて続けていこうと思います」。その先にある100年企業、世界ブランドへと、歩みは止めない。

会社データ

社名:気仙沼ニッティング(けせんぬまにってぃんぐ)

所在地:宮城県気仙沼市神山5-19

電話:0226-25-7745

代表者:御手洗瑞子 代表取締役社長

編み手・スタッフ:約70人

HP:https://www.knitting.co.jp/

※月刊石垣2020年3月号に掲載された記事です。

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