商店街独自の魅力づくり
昨年12月、日本最大の小売業グループ、イオンが岡山に西日本最大級のショッピングセンター(SC)を開業した。従来の郊外立地ではなく駅前・中心市街地への出店であったため、その土地の商業者たちは無関心ではいられなかった。 全国3100店超、総売上高約29兆円の存在となったSCと、いかに同じ商圏で生きていくか。彼らにできない商いを磨いて競争するか、互いを補完しあう共生の道を求めるか。「イオンモール岡山」が出店した岡山と、同じくイオンモールが出店を計画する長野・松本を取材した。
「商店街の南北エリアで特に人出や売上の落ち込みが目立つようだが、天満屋周辺はほとんど影響がない。お客の年齢層や商品の価格がイオンモールとは違う」と話すのは、岡山市表町商店街連盟の大開理事長。売場面積4万6000㎡、356店舗を擁するイオンモール岡山が、岡山駅徒歩4分の立地に開業した影響をこう語った。
岡山表町商店街は岡山駅から約1㎞、地元百貨店の天満屋周辺にある8つの商店街、およそ300店舗からなる商業エリアだ。同商店街は、イオンモールが開業に際して周辺商店街に提携を呼び掛けた地域連携協定(イオンの電子マネー「WAON」導入や共同イベントの開催)の提案を見送り、独自の商店街の魅力づくりに取り組んでいる。
昨年9月に第1回目が行われた「まちゼミ表町」もその一つだ。まちゼミ(得する街のゼミナール)は、長年の店舗運営で培ってきた専門知識や技術を生かし、少人数を対象に開催する無料講座。商店街活性化の切り札として、全国150あまりの商店街・地域などに広がっている。
「パート・アルバイトが多いモールにはできない、商店街の強みだ。何でも相談でき、頼りになり、必要な店。そんな店が集まる表町商店街は市民の自慢になる。頑張りたい」と語るのは、まちゼミを企画運営する同商店推進事業部の矢部久智部長。2月からは前回を上回る40店舗、50講座の規模で第2回を開催、さらに地域の市民の生活に寄り添う活動を進めている。
交通渋滞の懸念
一方、「まちが壊される。あのような巨大な施設は絶対につくってはいけない」と語るのは、長野県の松本商店街連盟の木内基裕会長だ。同市には、平成28年秋、松本駅から1・5㎞の中心市街地隣接エリアに、県内最大規模の商業施設となる「イオンモール東松本」の開業が計画されている。店舗面積4万1000㎡は、既存の大型店4店の合計面積に匹敵する。また、松本商工会議所によると年商は200億円と予想され、同市の中心市街地周辺の年商700億円の3割に当たる。
こうした競争激化よりも懸念されるのが、交通渋滞だ。同所では、イオンモール東松本への来客数は年間1000万人以上と推計、この数は平日なら2万人、土日なら5万人の集客となる計算だ。「松本は戦災に遭わなかったこともあって狭い道路、一方通行の道路も数多くあります。そこに広域から集客するイオンモールができれば中心市街地全体が車で埋まってしまいます」(胡桃澤宏行専務理事)。
岡山と松本、さらにはそれぞれのまちでは状況は異なるが、商業とは店を置く地域に依拠した存在であり、地域社会に貢献する使命を持つ地域産業であることは変わらない。商業者として、まちづくりにどう貢献していくべきかという課題は、事業規模の大小にかかわらず、その地で商う商業者すべてに向けられている。(笹井清範・『商業界』編集長)
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