減り続けている小さな書店
まちから書店が消えている。
出版科学研究所の調べによると、2014年の書籍売り上げは、ピークだった1996年と比較すると約31%減少の7544億円。書店数は1万3943店と、2002年に2万店を割り込んでからというもの、年を追うごとにその数を減らしている。
都心部への大型店出店ラッシュ、アマゾンをはじめとするインターネット通販の台頭など、地方の小さな書店をめぐる環境は悪化する一方だ。しかも、こうした現象は書店に限ったことではない。統計を見れば、仕入れを主体とする物販店は総じて同じ傾向にあることが分かる。だから、そうした地方の中小店に希望はない―否、そんな推測を覆す繁盛店を取材した。
町のよろずやとしての価値
JR福山駅から車で約1時間20分。岡山県との県境にある人口8700人の小さなまち、広島県庄原市東城町にその書店はあった。
開業16年の「ウィー東城店」には、平日の午前中でもひっきりなしにお客が訪れる。中学校を卒業したばかりの学生から年配男性、写真のプリントをしにきた女性、小さな女の子を連れた若い母親まで客層はかなり幅広い。休日ともなると1日200人近い来店があるという。
店内では、お客が入店するたびにスタッフが「いらっしゃいませ」と大きな声であいさつする。その中に、お客一人ひとりの動きを目で追いかけ、タイミングよく声を掛ける男性がいる。その人こそ、地方書店に新風を吹き込む総商さとうの4代目、佐藤友則社長だ。
同店は書店でありながら文具やCD、玩具のほか、タバコ、菓子、化粧品まで取り扱っている。店内にはおいしいコーヒーが飲めるカフェコーナーがあり、化粧品売場の奥には本格的なエステルーム、さらには夫人の恵さんが手掛ける美容室まで併設している。まさに、書店を核とした複合小売店、言い換えれば「まちのよろずや」として地元民から厚い支持を得ている。
驚くのはそれだけではない。年賀状などの宛名書きや印刷の代行、印鑑の製作まで引き受ける。顧客の困りごとを解決するビジネスとして、パソコンやラジカセの修理、家系図の作成といった類いまで対応する。「最初は無料でしたが、過分なお礼をいただくわけにはいかないのでワンコインサービスに変えました。家族に頼めないお年寄りにとってはここが最後の砦。単なる便利屋とは違い、使命感で請け負っています
地域のお客さまと共に生きていく
過疎化が加速する地方のまちでは多くの店が廃業に追い込まれ、コミュニティーの崩壊が始まっている。だからこそ、買物難民となりつつある住民のニーズに応える受け皿が必要だ。佐藤さんは「厳しい業界ではありますが、本を核とした複合化こそが、まちを再生できる鍵になる」と、書店の可能性を強く訴える。新たに手掛ける事業はいずれも、地域にとって付加価値が高く、利益率の高いものばかりだ。本の粗利は22%とタバコに次いで低いが、カフェは70%、印刷業は70%、美容室は80%、エステは90%にもなる。自社内で対応すれば、高い粗利を確保できるビジネスといえる。「複合化で利益率や付加価値の高いものを足していけば、書店は強くなれる」
実行に移すのは容易ではないが、佐藤さんが逆境から導き出した経営戦略はある意味、的を射ている。地元の信頼回復に全力で取り組み、顧客の声を拾い続けたからこそ、たどり着いた答えでもある。「地域で暮らすお客さまのために、そしてお客さまと共に生きていきます」という決意が彼の行動を支えている。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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