質には限界はない
市価1万5000円はする高品質なドレスシャツ(ワイシャツ)を5000円均一で提供し、多くのアパレル経営者からも愛用されるメーカーズシャツ鎌倉。1993年に夫婦二人で始めたビジネスがいまや年商33億円、国内に25店舗を展開するが、2012年にニューヨークへの出店を検討したとき、役員、幹部のほぼ全員が反対したという。
しかし、その店がいま大繁盛している。
業界常識を打ち破る革新性、独自性を持って世界市場に飛躍する企業がある。それら企業は決して資本力に秀でているわけではない。そこにあるのは、確かな経営哲学に裏打ちされた〝他に代えがたい価値〟の一点。メーカーズシャツ鎌倉も、そうした企業の一つである。
「量はいずれ限界がくるが、質には限界がない。永遠なる進化が可能であり、商いを続ける以上、商品も経営も進化なくしては成立しない。質を軽視し、売上や儲けに奔走するようでは、いずれ顧客から見放される。シンプルにストレートに顧客志向を追求するなかに明日がある」
同社創業者、貞末良雄会長は同社の商品と商いについてこう語る。「日本人の男性をおしゃれにすること、世界で活躍するビジネスマンを応援すること」
質の高い商品は、この創業以来揺るぎないミッションを通じて磨かれ続けている。
同社のシャツのどこが高品質なのか。シャツに使用される生地の糸の太さ(番手)は通常50番手から100番手くらいまでで、番手が上がるほど高品質になる。同社では100番手を使用し、しかもボタンはプラスチック製の20倍もする貝ボタン。それらを厳格な縫製仕様に従って、国内の高い技術力を持つ縫製工場で仕上げている。
当然、原価率は高くなる。一般アパレルの原価率が20%といわれるなか、同社のそれは59%。しかし、高い商品回転率と99%という消化率がそれを補う。メンズファッションの聖地、ニューヨークの海外一号店がニューヨーカーに愛される理由がここにある。
ただ、おいしいを目指して
山口県岩国市のつぶれかけていた蔵元、旭酒造から生まれた純米大吟醸「獺祭(だっさい)」がいまや日本は無論、世界の食通から注目されている。まもなく食の都・パリにも直営店を開設する。
道のりは平たんではなかった。「旭酒造はつぶれる」と聞きつけた酒造りの担い手、杜氏が同社を去っていくという逆境の中、同社の桜井博志社長はこう決めたという。
「ならば私と社員だけで手本書に従い、データを収集分析することで、『ああ、おいしい!』と言っていただける酒を造ろう」
その言葉どおり社員が全てを行い、さらに酒造りは年に一回、気温が低い冬に仕込んで造るのが一般的だが、同社は四季醸造という方式を採用。最高品質を求めて、業界常識を次々と覆していった。
「私は伝統産業として酒蔵の仕事に誇りを持っていますが、手法にこだわりはありません。常に、より優れた酒を目指して〝変わる〟ことこそ当社の伝統でありたい。70点を目指すのではなく、120点の酒造りにこだわっています」と桜井社長。
世界20カ国以上で販売され、年商はここ5年間、前年比130%以上の驚異的な成長を続ける。同社もまた本物ゆえに世界に通じる企業である。
(笹井清範・『商業界』編集長)
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