世界の自動車産業が転換期にさしかかった気配がある。昨年の世界の自動車販売台数は2009年以来の前年比マイナスになり、今年も前年割れの可能性が高まっているからだ。最大の要因は中国の需要飽和化。中国の自動車販売台数は昨年、28年ぶりに前年割れとなり、今年はさらに激しい落ち込み。米中経済戦争の余波による買い控えも起きてはいるが、今後の需要減にははっきりした構造要因がある。
中国における自動車の主な購入層の25~34歳の10歳幅の人口が現在は合計2億3917万人であり、米国を上回る世界最大の自動車市場に押し上げた。だが、今後10年間にその年齢層に達する自動車購入層の15~24歳の層は1億5934万人と8000万人も少ない。しかも中国では燃料費、税金、駐車場など自動車保有コストは拡大する一方、地下鉄や郊外線など公共交通機関の整備が急速に進み、今や38都市に地下鉄が走っている。日本の若者と同じように「車離れ」が加速する素地は十分にある。
昨年、ドイツを抜いて世界第4位の自動車市場になったインドは自動車販売台数がこれから伸びるのは間違いないが、中国ほどの需要規模には到達しそうにない。では、アジアの自動車産業は今後、どこに向かうのか? 技術的な方向性は「電動」「自動運転」に向かうのは当然として、注目すべきはどの国が自動車産業を伸ばすかだ。
今年6月、ベトナムの地元の自動車メーカーが初の本格的な国産車生産を開始した。不動産開発などを手掛ける大手複合企業のビン・グループのビン・ファスト(Vin Fast)社で、ドイツメーカーの技術支援を受け、ハイフォン近くの工場を稼働させた。東南アジアではマレーシア政府の肝いりで80年代にスタートした国策自動車メーカー、プロトンがあるが、今は厳しい経営状況にある。
ビン・ファスト社は民間企業という点や、ASEANの貿易自由化に伴う自動車市場の開放といった市場環境でプロトンとは大きな違いがある。2025年に50万台という目標は野心的ではあるが、厳しい競争を糧にできれば、アジアの自動車産業の新しい潮流になる可能性がある。
アジアの自動車産業は需要面ばかりが注目されてきたが、今後は完成車メーカーや部品産業の台頭に目を向けるべきだろう。電動化やシェアリングという技術展開も新興メーカーの成長には追い風になる。アジアの自動車産業は興味深い時代に入った。
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