原油価格の不安定な展開が続いている。その背景には、中国経済の減速などで世界的に需要が落ち込んでいる一方で、サウジアラビアなど主要産油国の増産が続いていることがある。原油以外の銅や鉄鋼石などの資源価格も、同じように不安定な動向になっている。そうした不安定な資源価格の展開は、2014年年央まで続いた主要資源価格の上昇(資源バブル)が終焉(えん)を迎えたとの見方もある。
問題は、〝資源バブル〟崩壊が世界経済に与える影響だ。わが国やインドなど資源輸入が多い諸国にとって、資源価格の下落はそれなりのメリットがある。しかし、資源産出国にとって、資源価格の下落は大きなマイナス要因だ。シェールオイルの主要産出国である米国は、エネルギー関連企業の収益の低下傾向が鮮明化しており、景気の先行きに不透明感が出る懸念もある。世界経済のけん引役である米国経済が減速すると、世界経済の回復が腰砕けすることになりかねない。
1990年代中盤から2000年まで、米国の株式市場を中心に〝ITバブル〟が顕在化した。IT関連企業の株が、その内容の如何を問わず一様に急騰したのである。IT株の急騰は米国だけに限らず、わが国や欧州諸国にも波及した。00年に〝ITバブル〟が弾けると、世界的に景気は後退期を迎え経済の低迷する時期が続いた。そして03年以降、米国を中心に〝不動産バブル〟へとバトンタッチすることになる。〝不動産バブル〟は最終的にサブプライム問題を引き起こす。住宅ローン担保債券が欧州投資家にまで広がっていたこともあり、欧州諸国に被害が拡散した。結果としてリーマンショックにつながり、世界経済は崖から突き落とされるように急落した。
それに対して世界の主要国は、積極的に金融緩和策を実施し景気の下支えに走る一方、中国は4兆元の経済対策を実施して景気拡大の維持策を取った。その政策で中国は二桁成長を維持することができた。しかし、中国が高成長を続けた結果、世界的に資源に対する需要が大きく盛り上がった。原油や鉄鋼石、銅などの価格が軒並み上昇傾向をたどった。大手投資家はそうした資源価格の上昇に目をつけ、商品市場への投資を活発化させた。金融緩和策で供給された巨額の流動性の一部が資源の市場に流れ込み、買うから上がる、上がるから買うというサイクルが醸成された。いわゆる〝資源バブル〟が発生したのである。
しかし、バブルは永久には続かない。中国経済の減速鮮明化などで需要が縮小したことによって14年の年央以降崩壊の局面を迎えた。そうした状況の中で、最も重要な影響を与えるのが原油価格の動向だ。原油価格の下落が、米国経済に無視できない痛手を与えるからだ。もともと、米国にはエネルギー関連企業は少なくない。ロックフェラー財閥の大元は石油関連にたどり着く。また、米国には大手石油会社や資源開発企業などが多い。さらに、シェールオイル事業が大きく盛り上がったこともあり、原油価格の変動が米国経済に与える影響は高まっている。
もう一つの懸念事項は、今までバブルを支えてきた米国の金融緩和策が変わることだ。金融政策の引き締めへの変更は資源価格の動向に影響を与えると同時に、株式や為替などの金融市場にも不安定要因として作用する可能性が高い。また、政策金利の引き上げは住宅ローンや自動車ローンの金利上昇につながり、中期的に見ると、景気にブレーキを掛ける可能性が高い。さらに、基軸通貨国である米国で金融政策が引き締められると、新興国から投資資金が流出し、当該国の景気の足を引っ張ることも考えられる。それらが現実味を帯びてくると、世界経済は再び低迷期を迎える可能性が高まる。
そうした懸念が現実のものとなると主要国にそれに対する手立てがほとんど残されていない。主要国の財政状況はかなり悪化しており、大規模な財政出動は難しい。また、わが国をはじめ先進主要国はゼロ金利や量的緩和策を実施済みで、金融政策にはほとんど政策の余地が残っていない。手足を縛られた状況で、いかにして景気低迷 を打ち破るか。難しい課題だ。
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