今号は、勤務先の倒産を機に自ら起業し、独自技術によって大いに業績を伸ばしている中小製造業の事例をご紹介します。
逆転の発想で新技術を開発
鹿児島県霧島市に「キリシマ精工」という金属精密加工業があります。社長の西重保さんは、もとは同業の会社の工場長でしたが、過剰設備などが原因で倒産。その技術力を惜しんだ取引先の経営者から、事業継続を打診されます。得意とする難削材(加工の難しい素材)は、高度な技術が必要とされるもの。また、材料が特殊な合金のためにコストも高く、新規参入の少ない分野でした。西重さんは、かつての同僚たちとこの事業にもう一度挑戦したいと、創業を決意。平成18年に従業員5人で同社をスタートしました。
社長となった西重さんのポリシーは「顧客の技術的な要望には必ず応える」というものでした。しかし、難削材の加工には工程ごとに異なる機械が必要となり、同社の体力では設備投資が追い付きません。
理想と現実のギャップを埋めるべく、西重さんは「保有する〝単軸マシニング機〟(刃物を回転させて金属などを削る工作機械)のみで加工しよう」と新技術の開発を決意。業界でも初の試みでしたが、西重さんは「全員の知恵や経験、ノウハウを結集すれば必ず生み出せる」と社員を励まし続け、ついに独自技術「カーブカット工法」を完成させます。材料を重ねてワイヤーで切断する従来の工法とは異なり、これなら独自の型を使って一度に加工が可能なため、工程数は大幅に減少。薄い材料も加工できるので歩留まりも改善し、材料費の低減も実現しました。
目指すのは世界レベルの「メード・イン・キリシマ」
せっかくの独自技術も広く周知されなければ宝の持ち腐れだと考えた西重さんは、インパクトのある製品で技術力をアピールしようと、ユニークなサンプル品を製作。0.2㎜四方という世界最小のサイコロに、1から6の数を正確に刻印したものや、チェーンとフレームを一体加工した幅0.3㎜のピラミッドなどを展示会に出品しました。その技術力は次第に評判を呼び、顧客層は国外にも拡大しています。事業も順調に伸び、同社の正社員は21人まで増えました。
「社員の頑張りはもちろんのこと、地元の支えがあってここまで成長できた。〝メード・イン・キリシマ〟として世界に通用する仕事をし、恩返しをしたい」と語る西重さん。今後は航空・宇宙や医療など、同社ならではの高度な精密技術を要求される分野に進出したいと、夢は広がっています。
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