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テーマ別企業事例 〝第二創業"が成功する 親族承継の強みを生かせ!

親族による事業承継の割合が下がり続けている。しかし、家業の強みや伝統を誰よりも知っている親族が事業を承継するメリットは計り知れない。とはいえ、承継後の家業をさらに発展させるために何が必要なのか。親族承継を第二創業と捉え、業績拡大に成功した企業の“承継戦略”に迫る。

総論 子どもの意欲を高めるベンチャー型事業承継

山野 千枝/一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事

やまの・ちえ 一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事 1969年岡山県生まれ。91年関西学院大学文学部卒業。2000年から大阪産業創造館に参画。18年に一般社団法人ベンチャー型事業承継を設立し、代表理事に就任。中小企業のブランディングなどを手掛ける株式会社千年治商店(せんねんじしょうてん)代表取締役

事業承継は、子どもや兄弟のような親族への親族内承継と、親族以外への親族外承継に分けられる。最近はM&Aなどを活用した親族外承継が増えているが、経営者の本音は「息子・娘に継いでもらいたい」だろう。そこで、子どもを後継者にする場合の注意点を、子どもと親の双方の立場から探っていく。

子どもに承継の意思を聞けないまま廃業へ向かう

「なんとなく廃業」。中小企業の若手後継者を支援する一般社団法人ベンチャー型事業承継の代表理事を務める山野千枝さんは、今、地方で起こっている会社の廃業をこう表現する。

「親が子どもに遠慮をして事業承継の話ができないのです。事業承継を考え始める50代、60代の社長は、息子が家業を継ぐのが当たり前という環境の中で育ってきました。ところが、いざ社長になるとバブル崩壊やリーマン・ショックといった逆風に見舞われ、厳しい経営環境の中で家業を守ることに苦労してきた。だから息子・娘には、同じ思いをさせたくないという気持ちが強いのです。もちろん息子・娘の側から家業を継ぎたいと言ってくれればうれしいけれど、自分からは継いでほしいと言うことができず、徐々に家業を縮小して廃業へ向かっていく」

経営者が廃業を決断すると、従業員の新規採用をせず、投資を控え、事業拡張をあきらめる。すっかり古びた商売になると競争力を失い、もう元に戻れなくなる。

一方、子どもの方も「家業を継がなくていいのだろうか」と思いながら、都会の大企業に勤めたり、大学で学んだりしている。会社で重要な仕事を任されるようになると、家業を守るという思いはどんどん薄らいでいく。

しかし、地方の経済の要は中小企業である。地方を守るためには、経営者の息子・娘という後継者候補に、魅力ある事業承継の形を示し、会社の事業承継を進めていかなければならない。それなのに「自治体などは、ベンチャー支援では起業の夢を魅力的に語るのに、事業承継支援では税金や相続対策、株式の承継、廃業問題といった夢のない話になりがち」と山野さんは憤る。

「これでは後継者の継ぎたいという思いに応えられません。そこで『アトツギU34(34歳未満の同族後継者)』をキーワードにしたオンラインサロン(インターネット上に開設しているコミュニティ)で、ベンチャー型事業承継を提案しているのです」

オンラインサロンの参加者は200人ほどおり、女性が3割を占める。参加者はオンライン上やオフ会で新事業を検討したり、悩みを打ち明けたりしている。

業界の常識にとらわれない34歳未満だから失敗ができる

34歳未満に限った理由はこうだ(図1)。経営者70歳、大企業で経験を積んだ後継者40歳前後という組み合わせを対象とした支援機関やセミナーなどは世の中にたくさんある。40歳前後の後継者に対して周囲はできて当たり前と見ているから、失敗の可能性のある挑戦はできない。また経営者の年齢面でも承継を急ぐ必要がある。

ところが34歳未満は、業界の常識にとらわれることなく新しい発想を持ち込むことができるだけではなく、失敗が許されるタイミングでもある。

「家業をまるごと継ぐだけでは面白くない、やりたいことがあるというのなら、親を投資家と思い、家業の経営資源を活用して新規事業を始めればいいのです。とはいえ、資金も手足となる人材もないでしょうから、本業から大きく離れない範囲の“しょぼい挑戦”でいい。野球に例えればホームランではなく、バントで出塁することを狙う。就業時間中にやれないのなら、体力に任せて終業後にやる。一歩踏み出すことが重要なのです。関西を代表するベンチャー型事業承継の社長たちは、20代で新しい挑戦を始めて、徐々に家業を自分がやりたい領域に寄せていき成功しています。ただし、親や周囲のベテラン社員からは、家業も分からないのに新規事業とは何事だと批判され、衝突することは覚悟しなければなりません」

若い世代は業界、業種、業態の境界線がなくなっている時代に育っているので、「靴屋の息子がIoTの勉強をしたり、金属加工会社の息子がVR(仮想現実)の展示会に行ったりすることを当たり前と思っているし、フットワークが軽いから業界の人脈で固まらず、異業種の人脈を広げることにも熱心です」。

社長に就任してしまうと、いや応なく「経営」をしなければならなくなるので既存事業の売り上げ拡大や業務改善に忙しくなる。親が元気で経営に携わっているうちに、「20年後の飯の種をまいておく」ことが重要なのだ。

また、山野さんが同族後継者に限ったのは「息子・娘には覚悟ができている」ためだ。

「経営者である親の背中を見て育っているので、独特のセンス、経営感覚が身に付いています。それにビジネスのために個人保証で何千万円もの借り入れをするのは当たり前と思っている。サラリーマン家庭の子どもでは考えられないことであり、社員承継が進まない一因でもあります」

意外にうまくいく父から娘への事業承継

2019年版「中小企業白書」(中小企業庁)によると、親族内承継の割合は過半(55・4%)を占めており、その大半(42・8%)は息子への承継で、娘への承継は2・3%にとどまる(図2)。父親と息子の組み合わせは周囲には理想的に映るが、山野さんは「息子が力を付けてくるとジェラシーを感じるのか、立ちはだかって邪魔をしがちです。その意味では父と娘の組み合わせの方が、父が徹底してサポートに回るのでうまくいくようです」と指摘する。

また娘の場合、結婚して子どもが生まれても母親に子育てを手伝ってもらいながら家業を続けられるので、「大企業に入って育児休業制度や保育園を活用して仕事を続けるよりも楽なケースもありますね」。

親の立場では、子どもの挑戦を否定しないことが重要だ。後継者は息子・娘のどちらでもいいが、より「存続への意志の強い方」を選ぶべきだと言う。

「会社は自分のものではなく、前の世代から預かって次の世代へ引き継ぐものだと思います。学歴とか表面的なスキルの有無よりも、次の世代に引き継ぐことに執着できるかを重視すべき。知識や経験は後からついてきます」

後継者に決めたら、大学を卒業後すぐに入社させるのではなく、「いったん家業とは全く関係のない業界に就職させた方がいい。業界仲間の会社に修業という名目で入社させるケースがありますが、お客さん扱いされるだけなので修業になりません。それに今は業界の常識が通用しない時代なので、業界の情報や習わし、コネクションだけに頼っていては勝ち残れません」。

親子で話し合うことで家業のすごさを再認識

山野さんは関西大学で、親が商売をしている学生を対象とした「ガチンコ後継者ゼミ」という講座を持っている。

「“なんとなく廃業”を防ぐためには、第三者が介入してでも親子で話し合う機会をつくるべきです。私の授業では、創業の経緯や家業の存在意義、これまでの歴史などを親に聞く宿題を出しています。今どきの学生は、親と直接話さずにLINEを送るのですが、すると翌日、長文の答えが返ってくる。親は家業について話したいのです。そして子どもは斜陽産業だと思っていた家業の素晴らしさやここまで生き残ったことのすごさを知ることになり、親子のコミュニケーションが生まれます」

年頃の息子・娘の承継には、もう一つ大きな障害がある。それは、結婚だ。都会の大企業に就職して彼女・彼氏ができた。家業を継ぐため故郷へ帰ると決まったとき、彼女・彼氏の反対にあう。このまま大企業に勤めて安定した生活をしてほしい、故郷へ帰ると自分のキャリア形成ができなくなる。もっともな言い分ではある。

「やむなく別れたケースを多く見てきました。都会で結婚してしまうと、もっと深刻な事態に陥るでしょうね」

親族による事業承継は、親世代だけでなく、事業欲の旺盛な子世代にも会社内起業ができるというメリットがある。まずは折を見て話し合ってみると、お互いの意外な本音が聞けるだろう。直接話すのが照れくさい、遠方にいてなかなか会えないのなら、SNSで連絡を取ってみよう。きっと本音が聞けるはずだ。

山野さんが代表を務める「一般社団法人ベンチャー型事業承継」ホームページはこちらhttps://take-over.jp/

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