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「共存共栄」で強固な経済形成を 2020年度中小企業・地域活性化施策に関する意見・要望(概要) 地域の好循環、民主導で

日本商工会議所は7月18日、「2020年度中小企業・地域活性化施策に関する意見・要望」を取りまとめ、内閣総理大臣、経済産業大臣をはじめ政府・政党など関係各方面に要望した。本意見・要望では、生産性向上により構造的な人手不足や賃上げなどの課題克服を図る中小企業への支援や、規模が異なるそれぞれの企業が「共存共栄」の関係を構築し、より強固な経済を形成すべきであると訴えている。特集では、本意見・要望の概要を紹介する。

Ⅰ.構造的人手不足の克服に向けた中小企業の付加価値・生産性向上支援

基本的な考え方

●中小企業の生産性向上には、同質的なコスト競争から付加価値の獲得競争への転換が欠かせない。付加価値増大、収益力拡大、成長力強化を通じて、中長期的な企業価値向上の観点に立った経営の持続性確保を目指す中小企業・小規模事業者に、既成概念にとらわれない支援策を講じるべき。

●地方の中小企業は、構造的な人手不足や賃上げなどの課題に直面。これらの克服には付加価値創出による生産性向上が不可避。その切り札となるのはIT・IoT・AIなどの活用拡大、働き方改革への対応、海外展開、取引関係の適正化である。生産性向上に向け、大中小それぞれの企業が新たな付加価値共創を目指して「共存共栄」関係を構築し、大企業も中小企業との適切なコストアップ負担や、中小企業のデジタル技術実装などの取り組みに協調・連携しやすい環境を整備して、より強固な経済を形づくるべき。

●新たな令和時代の幕開けに当たり、経営者の円滑な世代交代や経済・社会構造の変化に合わせた取り組みを加速すべき。

●地域では人口減・中小企業数減少や地方の疲弊と一極集中など構造的な地域課題への対応が待ったなし。地域へのヒトと所得の流れを創出し、地域経済の好循環をつくり出すべき。

重点要望

1.自発的に賃上げできる環境整備、人手不足対策、働き方改革関連法への対応

■わが国経済の最大の課題である人手不足は地方の中小企業にとって今後ますます深刻化。政府は生産性向上への支援や取引適正化対策の徹底などにより、中小企業が自発的に賃上げできる環境を整備すべき。

⑴納得感ある最低賃金の設定

○最低賃金については中小企業の経営実態や地域の実情を十分に考慮した納得感ある水準の設定(数字ありきの最低賃金引き上げには反対)

○事業場内最低賃金の引き上げに対応する中小企業への支援の拡充・強化(業務改善助成金の事業場内最賃引き上げ基準額見直しなど)

○地域別最低賃金改定後における給与規定などの改定やシステム改修などにかかる十分な準備期間の確保

⑵人手不足の解消に向けた支援策の拡充

○UIJターン促進に向け、都市部のOB人材・早期離職者などと地方の中小企業をマッチングさせる施策の拡充・強化

○高度な技術や知識・経験・ノウハウを有する現役の大企業人材の橋渡しにより中小企業の人材不足解消支援

○特定技能外国人材の受け入れ推進と採用する中小企業への支援策の強化(コラム1)

⑶働き方改革に取り組む中小企業への支援

○働き方改革推進支援センターでの相談/企業環境整備に関する助成/中小企業に対する助言・指導に際しての配慮措置の徹底

○「同一労働・同一賃金」への対応に向けた具体的な導入事例の収集・情報提供

2.IT・IoT・AI・ロボットなどの導入・活用の〝発火点〟に向けた支援強化

○中小企業へのクラウドサービス(販路拡大・顧客管理・売上会計管理など)の普及・浸透/「IT導入補助金」の継続・拡充/クラウド活用事例の横展開・顕彰/大企業などが先導する中小企業へのクラウドサービス導入支援

○身の丈IoT・AIなどの導入支援を行うインストラクターを養成・派遣する「生産性向上応援隊」の継続・拡充(コラム2)

○「ものづくり等補助金」の継続・拡充と複数年度での対応/「サポイン事業」「SBIR制度」の継続・拡充

○QRコードなどによる「キャッシュレス決済」に取り組む中小企業に対する支援の継続/特に意欲ある地方への支援/インバウンド需要を取り込むため関係省庁内(観光庁、国交省、経産省など)での連携・協力の推進

3.「海外需要の取り込み支援」と「海外展開支援」の強化

○訪日外国人ニーズに応じた商品・サービスを提供するなどインバウンド需要の獲得などに挑戦する中小企業への支援

○海外展開の第一歩になり得る越境EC(サイトの設置、流通手続きなど)への支援など

4.「取引適正化」による売り上げ増・収益力の強化

○中小企業の設備投資や賃上げを可能にする取引価格適正化に向けた取り組みの推進

○下請振興基準改正や世耕プランに基づく業種ごとの自主行動計画を踏まえた大企業と中小企業との適切なコストアップ負担、高度な知識・経験・ノウハウを有する大企業の人材提供(マッチングスキーム構築)やデジタル技術の実装などによる中小企業の生産性向上支援のための環境整備/共存共栄関係の構築に努める好事例の横展開

○発注企業の働き方改革に伴い、下請中小企業にしわ寄せを生じさせないよう下請Gメンによる実態把握や取引適正化対策の徹底・監視強化

○世耕プランのフォローアップを踏まえ、サプライチェーン全体の好循環実現に向けた中小企業の取引条件改善の促進

○公正な知財取引を実現するため、優越的地位にある取引先からの知的財産権・ノウハウの提供要請等の防止に向けた独占禁止法(優越的地位の乱用)のガイドラインの拡充

要望項目

1.創業や事業承継時における経営者の円滑な世代交代への支援強化

○「創業スクール事業」「創業補助金」などの再予算化/「創業支援等事業者補助金」の継続・拡充/創業者と既存企業とのマッチング支援(人材や設備など経営資源の譲り受け)/創業後に黒字転換・産業化するまでの期間を継続して複数年度支援できる新たな補助制度創設(新たな創業支援基金の創設、専門家やコーディネーターの派遣など)(コラム3)

○「事業承継ネットワーク」「事業承継補助金」の継続・拡充/「後継者人材バンク」の全国設置・拡大/後継者教育の予算拡充/事業承継時の「経営者保証」取り扱い見直し(新旧経営者に保証を求める二重徴求の原則禁止)

2.中小企業の挑戦を後押しする「事業性評価融資」の推進

○経営者保証なし融資の実績(KPI)公表と新たな信用保証制度創設

○専門家による中小企業の磨き上げ支援(経理の透明性確保など)

3.「小規模事業者」のチャレンジを後押しする支援の拡充・強化

○地方交付税(商工行政費)拡充/「伴走型補助金」継続・拡充

○「持続化補助金」「全国展開プロジェクト」継続

○マル経融資の予算拡充/「情報サービス業」小規模事業者定義拡大(5↓20人)

4.消費税率引き上げに伴う価格転嫁対応への支援強化

○商工会議所などの相談窓口予算の継続・拡充/レジ補助金の速やかな補助金交付

5.全国各地で頻発する大規模自然災害への対応力強化に向けた支援拡充

○中小企業の意識向上に向けたインセンティブ措置(補助金優遇、BCP策定費用補助など)

○被災事業者への支援体制強化

Ⅱ.民間主導による地域活性化への後押し

重点要望

1.地域の自立に向けた民間主導の「まちづくり支援」

○まちづくり会社などがまちづくりに専念できる環境整備/商業放棄地の利活用に多様な主体が参画できる機会創出(コラム4)

○PPP/PFIやクラウドファンディングの活用

○リノベーションによる空き家・空き店舗など既存ストックの有効活用

2.地域経済の中核となる「中堅・中小企業」の経営力強化

○「地域経済牽引事業計画」(地域未来投資促進法)を策定した中堅・中小企業への支援措置のさらなる充実

○「地域未来牽引企業」に対する地域経済牽引事業計画の策定支援・推進

○中堅企業向けSBIRの創設

要望項目

1.民間の創意工夫による「地域資源磨き上げ」の取り組みに対する支援

○地域資源を活用した新商品・新サービスの開発から販路開拓・地域ブランド化までの一貫支援

○地域団体商標制度の活用促進/地理的表示保護制度の拡充/商標出願審査体制の強化(コラム5)

2.地域の成長を喚起するストック効果の高い「社会資本整備」の推進

○防災・減災対策のためストック効果の高いインフラ整備の加速化・強靭化

○バス事業再編など競争政策見直し

○地方銀行の経営統合容認

3.地方創生に向けた「観光」を巡る諸課題への対応

○外国人旅行者の分散・拡大(タクシー相乗り導入、自家用有償旅客運送制度見直し、MaaS(マース)の推進など)

○観光産業の競争力向上(IoT・AI活用)

4.国際的ビッグイベント(東京2020大会など)を地域の経済効果につなげる事業などへの支援

Ⅲ.震災復興、福島再生への支援継続、大規模災害からの復旧・復興

○復興・創生期間後の一元的な東日本大震災被災地支援の継続および福島の再生支援など

○災害への備えと速やかな復旧・復興のためのBCP対策など地域の災害対応力の強化

本要望・意見の全文などは、こちらを参照。https://www.jcci.or.jp/news/2019/0718143000.html

コラム1

人手不足の解消

津久見商工会議所(大分県)

・市内人口減少と人手不足に対応するため、2017年に厚生労働大臣の許可を得て所内に「無料職業紹介所」を設置。職員が「職業紹介責任者」の資格を取得して、会員事業者の人手不足解消を支援している。

・無料職業紹介事業の取り組みとして、大分県UIJターン希望者面接支援補助金を活用して、全戸配布する市報に「Uターン希望人材調査票」を折り込み、近い将来にUターン希望または津久見での創業を希望する市外に就職(在住)している家族・親戚を募集。UIJターン希望者の情報を商工会議所の会報誌に掲載して、会員事業者とのマッチングを支援している。

・UIJターン希望者は17年2人、18年12人で、このうち数人が会員事業所で勤務を始めている。

コラム2

中小製造業のIoT導入支援

大阪商工会議所(大阪府)

・経済産業省「スマートものづくり応援隊」事業を2017年度から3年連続で受託。IoT・ロボット導入、カイゼンなどの支援人材延べ37人を育成(19年2月現在)するとともに、その支援人材を中小製造業に派遣し、伴走型で課題に応じた改善策やIoT・ロボットの導入などの提案を行っている。

・延べ35社から相談を受け、金属部品加工業の生産管理板のIoT化、食品製造業の品質検査の自動化など、19社への提案実績がある(19年2月現在)

コラム3

創業支援による地域経済の担い手創出

前橋ほか群馬県内商工会議所

・群馬から、次代を担う起業家や起業家精神を持った人材を発掘し、県内国内のイノベーション機運を高めるため、民間主導の起業家コンテスト「群馬イノベーションアワード」を2013年から開催。

・発起人は、創業・第二創業で成功した「ジンズ」「コシダカホールディングス」「相模屋食料」など群馬県を代表する企業の社長。エントリー数は年々増加し、17年は高校生などから185件。

・上位入賞者は、米国シリコンバレー研修などに参加できるほか、企業経営者による事業計画のブラッシュアップ講座などが受けられる。

コラム4

まちづくりビジョンの策定

伊勢商工会議所(三重県)

・外宮を訪れる観光客は増加傾向も、外宮周辺エリアの人口は減少していることに危機感を持ち、未来に向けた新たなまちづくりを展開する必要があるとの認識を共有し、2019年2月にまちづくりビジョンを策定。

・空き家・空き店舗を若者が集う空間などにリノベーションすることを具体的に検討中。

・資金調達スキームの確立、観光客と地域住民の交流などを通じ、本取り組みを「点」から「面」へと広げ、具体的にまちの姿が変わっていくよう外宮周辺のポテンシャルを引き出していく計画。

コラム5

地域資源を活用した新商品の開発

福山商工会議所(広島県)

・市の花であるバラ由来の酵母と地域特産品のブドウ“マスカット・ベーリーA”を使ったワインづくりと、ワインに合う食感のパンづくりを目指す「ばらの酵母菌で瀬戸内・福山の六次産業を醸すプロジェクト」をスタートさせ、ワインとパンの商品化を推進。

・特にバラの酵母を活用した赤ワイン『さんぞうの赤』は初回600本を完売。同プロジェクトは2018年5月に「備後福山ワイン振興協議会」へと発展し、“福山をワインの街に!”を合言葉に広報活動を展開するなど、ワイン振興事業に取り組んでいる。