事例10 新駅を広域観光のハブ駅とし 開業効果を最大限に生かす
飯山商工会議所(長野県飯山市)
JRが停車タイプと呼ぶ北陸新幹線「はくたか」が長野を出発した後、最初に停車する駅が飯山だ。人口およそ2万2000人を擁する長野県飯山市は、新しい飯山駅を広域観光のハブ駅として活用することで、観光を中心とした産業の振興を目指している。
憧憬の地〝信越自然郷〟
平成24年1月、足立正則飯山市長を会長とした信越9市町村広域観光連携会議(事務局・飯山市経済部広域観光推進室)が設立された。特徴は市町村の枠を取り払い、飯山駅を中心とした、半径20㎞圏域を「信越自然郷」という一つのエリアと捉え、観光素材を共有するということだ。
信越自然郷を訪れる観光客は年間約1200万人(平成25年度長野県観光統計調査および新潟県観光統計調査)にのぼる。JR東日本の試算では新幹線の金沢延伸により首都圏と北陸三県(福井・石川・富山)を行き来する1日の利用客数は長野新幹線時代の1・7倍(平成20年度の高崎-軽井沢間比)に増える。単純に計算すれば信越自然郷には2000万人を超える観光客が訪れることになる。
飯山商工会議所専務理事の上野和則さんは「駅周辺の飲食店や店舗はもちろん、斑尾高原スキー場や戸狩温泉スキー場のペンション、民宿といった会員施設を利用する観光客が増えることで、地元産の商品や農作物の消費が増えることを期待しています」と話す。例えばお米。ミネラルを多く含んだ雪解け水で育った最上級の特A米コシヒカリ「幻の米」は昼夜の寒暖差で甘みが凝縮し、もちもちして冷めてもおいしく、ふるさと納税の目玉商品でもある。また飯山米の酢飯に山の幸をのせた「謙信笹ずし」は戦国時代、富倉地区を通った上杉謙信に野戦食として村人が献上したと伝えられている伝統食。小麦ではなくオオヤマボクチ(ヤマゴボウの一種)の繊維をつなぎに使った郷土料理「富倉そば」、寺の町でもある飯山の伝統精進料理「いもなます」などが観光客の舌を喜ばせる。
また観光客には出発時間まで飯山駅周辺を回遊してもらおうと、古刹を結ぶ石畳風の小路「寺めぐり遊歩道」を整備している。途中には雪よけの屋根である雁木を再現した愛宕町雁木通り(仏具店が軒を連ねるので通称仏壇通り)や飯山市在住の人形作家高橋まゆみさんの人形を展示した「高橋まゆみ人形館」なども見学できる。
季節ごとのイベントを目的とした観光客も3月14日以降、大きく増えそうだ。「北陸新幹線開業後に観光客の皆さんに楽しんでいただける当所主催のイベントとしては、4月中旬から5月上旬に開催される飯山城址桜まつり、5月3〜5日の菜の花まつり(協賛)、8月14日の千曲川河畔納涼花火大会、冬のいいやま雪まつり(青年部)などがあります」と上野さんは説明する。
とはいえ現段階では新幹線開業による動員効果や人の流れの変化が予想できないため「会員の皆さんの対応は、実際の人の動きが見えてからになると思います」。また新幹線の飯山駅が在来線の駅とほぼ同じ場所につくられたため住民には便利なのだが「駅前が住宅地のため大規模な商業開発は難しい」(上野さん)と話す。
飯山駅を観光の起点に
そこで、「信越自然郷」の玄関となる飯山駅の存在・役割が重要となる。そのためには飯山駅をハブ化する必要がある。広域観光推進室長の石田一彦さんは「飯山駅には二つのハブ機能を持たせる計画です」と説明する。
まず交通のハブ機能。駅から各観光地へ向かう二次交通を充実させネットワーク化することで、観光客はスムーズに目的地行きのバスに乗り換えられるようになる。
もう一つは広域観光情報のハブ機能。「私たちは飯山駅に降りる人を来訪者や旅人ではなく、お客さまと捉えています」(石田さん)。快適なサービスを提供するため構内に観光案内所を整備し、「信越自然郷」の情報を集約して、最新情報に基づいた観光案内ができるようにする。市内の各施設を運営する第三セクターと観光協会を統合して、平成22年に設立した一般社団法人信州いいやま観光局は旅行業2種登録をしている。そのため、旅行目的地側の主導で旅行商品を企画する「着地型商品」が提供できる。そこで、構内の観光案内所では観光案内にとどまらず、宿泊の手配や各種チケットの発券までできるのだ。エリア内のスキー場には年々オーストラリアからの来訪者が増えており、オーストラリアを中心に海外観光客が多く訪れることが見込まれる。
「まずは英語による通訳やアテンドができる人材を配置し、いずれは多言語対応を行います。そのほかにも通貨の両替所など国際空港のような設備が整った駅を目指します」(石田さん)と意欲的だ。
さらに「山岳高原アクティビティセンター」(仮称)を整備し、サイクリングやトレッキングで信越自然郷を移動できるよう自転車などをレンタルしたり、講習やさまざまな手続きができるようにする計画だ。
しかし、これは飯山駅の完成形ではない。あくまでも今回の金沢延伸に対応するためのものだ。2022年ごろには敦賀延伸が控える。そうなると、東海道新幹線との接続が楽になり、中部日本を中心とする環状新幹線網が完成する。京都を観光し富士山を眺めてディズニーランドで遊び、信越自然郷の温泉で疲れを癒やし、北陸の海の幸を味わうという周遊旅行も夢ではない。そうなれば成田空港や羽田空港だけでなく、富山空港や小松空港を経由したインバウンドも期待できるだろう。そんな将来を見据えて「今ある素材を最大限活用しながら、新幹線開業を一つのインパクトとして、新たなお客さまを開拓していきたい」と石田さんは言う。
北陸新幹線が開業する3月14日を機に、飯山市は大きく変わろうとしている。その一翼を、商工会議所が担っている。
※月刊石垣2015年2月号に掲載された記事です。
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