事例8 名産や特色を全国へアピール 新規事業にも意欲
糸魚川商工会議所(新潟県糸魚川市)
新潟県の糸魚川商工会議所が新幹線「糸魚川駅」開業を見据えて取り組んできた「ヒスイの聖地いといがわプロジェクト」が日本商工会議所の「平成26年度きらり輝き観光振興大賞」で「振興賞」を受賞した。糸魚川の主要な観光資源は宝石のヒスイと「糸魚川世界ジオパーク」。その魅力を観光客にアピールするために、知恵を絞る。
ヒスイとジオパークを積極的に活用する
糸魚川市は日本でも数少ないヒスイの産地である。糸魚川商工会議所は平成26年2月、「地域力活用新事業∞全国展開プロジェクト」を活用して商品化した「ヒスイネイル」の販売を始めた。ヒスイネイルはヒスイ加工時に廃棄していた切り粉「ヒスイパウダー」にジェルを混ぜてつくった落ちにくいジェルネイル。勾玉のデザインと鮮やかな発色が特徴で美容室など市内の参加店で体験できる。
「このヒスイネイル体験と美術館見学、勾玉づくりなどをセットにしたツアーを26年に実施しました。地酒をベースにした6色のヒスイカクテルも市内レストランやバーなどで提供しています。これらの活動により観光振興賞をいただきました」と専務理事の田鹿茂樹さんは受賞を喜ぶ。
ジオパークとは地球(ジオ)の上に存在する山や川といった自然を観察し、その成り立ちと仕組みに気付き、そこにある生態系や人間の生活・文化との関わりを考える場所のこと。糸魚川世界ジオパークは21年8月、ユネスコが支援する「世界ジオパークネットワーク」から日本で初めて認定された。効率よく回れるモデルコースやツアーも用意しており受け入れ態勢は万全だ。
チャンスは逃さない
「商工会議所は独自に『新幹線開業賑わいづくりイベント助成事業』を実施しました」と田鹿さん。これはイベント1件当たり10万円を助成するというもので26年度は前期4件、後期2件が採用された。これにより、スイーツの引き替えチケットを買って、まちを散歩する「いといがわ街なかスイーツ巡り」などのイベントが実現した。
糸魚川の知名度が上がれば通信販売事業が手掛けやすくなる。そこで同所は会員支援策としてインターネットによる受注、納品を行う通販事業の準備を進めている。
「当所のホームページ内に会員向けインターネット通販サイトを設置することで、小規模事業者でも低コストでインターネット通販が可能になるはずです」(田鹿さん)
また、地酒を活用した知名度アップ事業も形になった。市内の飲食店では、昼に新鮮な魚料理と地酒がセットされた「おみちょうランチ」(お道良う。道中気をつけての意)を、夜は5種類の地酒が飲み比べられる「味わいセット」を提供している。開業に合わせて無電柱化やアーケードの再構築工事が行われた駅前通りなども交流人口の増加に効果がありそうだ。
建設会社がわさびを生産
会員の中には新幹線開業を機に、販路を広げようと作戦を練る企業もある。株式会社渋谷建設は子会社の農業生産法人・有限会社SKフロンティアでわさびを生産している。両社の社長を兼務する渋谷一正さんは、新規事業を模索していたとき、ほとんど利用されていない良質な湧水を見て「わさび栽培を思いついた」という。同時になぜ農家が手を出さないのかと不思議に思った。調べてみると、その理由はわさびの成長を阻害する豪雪であることが分かった。
雪害はビニールハウス栽培で回避できる。しかし、夏場は水温が高くなるためわさびが根腐れしてしまう。そこで、水温を15℃以下に保つために湧水ではなく、水温が一定な地下水に切り替えた。
地下水はハウスに縦横に這わせたビニールパイプ内を流れ小穴から飛び出てわさびの根に当たる。建設会社が持つノウハウを生かし、ビニールハウスに段差をつけることで上段で使った水を下段に導き再利用できるように工夫した。この仕組みで水を節約でき、動力も使わない低コストな「省エネわさび栽培プラント」ができた。この方式を使えば、わさびは冬場も成長を続ける。そのため、通常3年かかるところ2年で収穫できるそうだ。
新ブランド確立を目指す
SKフロンティアは現在、4棟のハウスを保有し500万円程度を売り上げている。ただ、これでは事業として成り立たないので、農水省の「平成25年度第1回六次産業化・地産地消法事業計画」に申請したところ認定された。そこで約1億6000万円を投じて12棟のハウスを新設(計16棟)。これにより、2〜3年後をめどに生産能力を7倍(4t)、年間売り上げを8倍の4000万円に引き上げる計画だ。
「現在は生産量が少ないため、東京の築地市場や県内だけに卸していますが、量産体制が整えば新幹線開業により観光客増が見込める北陸3県(石川・富山・福井)の旅館や飲食店にまで販路を広げたいと考えています」と渋谷さんは意気込む。またプラントを県内の農業者に販売して生産量を増やし、糸魚川ブランドや新潟ブランドを確立することも目指す。糸魚川は近い将来、ヒスイ、ジオパークだけでなく、わさびの産地としても認知されるかもしれない。
会社データ
社名:有限会社SKフロンティア
所在地:新潟県糸魚川市日光寺228
電話:025-555-3940
代表者:渋谷一正 代表取締役
従業員:5人
※月刊石垣2015年2月号に掲載された記事です。
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