事例9 5市が組むPRプロジェクトの成果が問われる
上越商工会議所(新潟県上越市)
平成25年4月、北陸新幹線「上越妙高駅」を玄関口とする上越市、妙高市、柏崎市、十日町市、佐渡市の新潟県5市がPRプロジェクト「ようこそ。越五の国へ。」をスタートさせた。プロジェクトを推進する新幹線まちづくり推進上越広域連携会議の設立総会が23年4月、上越商工会議所で開催されて以降、商工会議所が積極的に関わっている。
交流人口を増やすことが使命
「越五の国」で最も有名な観光資源は佐渡島の金銀山だろう。しかし観光客入込数は平成3年度の123万人をピークに減少を続けており、23年度はピークの半分以下の53万2000人にとどまった。このことから新潟県と佐渡市は、世界文化遺産登録に向けた積極的な運動を続けている。登録が認められれば観光客の大幅増が見込めるはずだ。
そんな佐渡観光の新しい玄関口となるのが上越市の直江津。佐渡汽船は北陸新幹線開業から1カ月後の4月21日、直江津〜小木航路へ双胴船の高速カーフェリー「あかね」を就航させる。所要時間はこれまでより60分短縮されて100分になるため、増便(現在は1往復)も期待できる。首都圏や北陸・関西圏の観光客が上越妙高駅で下車して在来線で直江津駅へ、そこから高速カーフェリーで佐渡へという新ルートが誕生するわけだ。
「直江津の新しい市立水族博物館が29年度に開業予定です。佐渡観光前後に立ち寄る観光客も増えるのではないかと思います」と上越商工会議所専務理事の東條邦俊さんは期待を寄せる。東條さんが観光に力を入れるのは「交流人口を増やすことが商工会議所の使命」と考えているからだ。「定住人口を増やすことは難しいので、上越市を訪れる観光客誘致に力を入れていきます。商工会議所でも近隣地域の商工会議所と独自の連携を図っています」。
28年のNHK大河ドラマ「真田丸」のロケ地となる長野県上田市の上田商工会議所との連携では、戦国武将の真田幸村と上越市の春日山城を居城とした上杉謙信のゆかりの地を訪れる周遊ルートを検討。今年度に両市の観光地を調査し、来年度にモニターツアーを実施、28年度には旅行商品を旅行会社に売り込む計画だ。また、長野市とは、共同して観光客誘致に力を入れている。それは、今年が7年に一度の善光寺御開帳(700万人の集客を見込む)と、上越市の高田公園で開催される高田城百万人観桜会(例年130万人の集客がある)の時期が重なるためだ。また新幹線開業に合わせて青年部はご当地駅弁として「釜ぶた弁当」を開発、女性会は限定販売の新土産として「お米のお嬢さん」や「上越七景」を売り出す。
効果は観光面にとどまらない
新幹線は観光だけでなく「企業やイベントの誘致にも貢献する」と東條さんは言う。太陽誘電が100億円を投じて生産子会社の新潟太陽誘電の新工場を建設(28年3月本格稼働)するのも「新幹線開業効果と受け止めています。また上越市は新潟、富山、小諸から120㎞の距離にあり交通の便が良いのです。だから、研究所の誘致なども行いたいですね。大規模なスポーツ大会の開催も決まっています」(東條さん)。
直江津港付近には中部電力の火力発電所、国際石油開発帝石のLNG基地がある。さらに、東北電力も火力発電所を建設予定だ。加えて、日本海の上越沖には国産の天然ガスとして期待がかかるメタンハイドレートが分布しており「エネルギー関連企業の誘致」(東條さん)も視野に入れているという。
攻めの姿勢を見せる企業も
24年に上越商工会議所が会員企業にアンケート調査をした北陸3県と取引のない99社のうち、新幹線開業により取引が増えると答えた企業は5社にとどまった。「当時は開業効果を具体的にイメージができなかった面もあると思います。しかし、われわれとしては危機感を持っています」と東條さんは気を引き締める。
もちろん開業を好機と捉えて攻めの姿勢を見せる企業もある。市内に老舗料亭「やすね」を経営する株式会社やすねは、東京・恵比寿に26年4月、板前割烹「上越やすだ」を開店した。地元産の食材はもちろん、人材も上越から派遣している。やすねの総支配人・中山与津夫さんは東京進出には二つの目的があると説明する。
「まず市内だけでは企業としての成長が限られるので大消費地で売上を拡大したいこと。もう一つは人材の確保と育成です」
上越は深刻な職人不足に見舞われている。しかし、東京に店舗を展開することで注目が集まり求人に有利に働くという。加えて上越で採用した人材を競争が激しい東京へ派遣することで、職人の技術とサービスが磨かれる。
「いずれは『やすだ』で育てた人材を上越へ戻して『やすね』の料理やサービスに反映させるという循環をつくりたいのです」と中山さん。それはもちろん新幹線の開業により首都圏や関西圏から来る舌の肥えたお客が増えると予想しているからだ。すでに東京で得たノウハウを元に接客方法を修正し、上越と東京の店舗間で情報共有を徹底してサービスの向上に役立てているという。
では新幹線開業により、どの程度の集客効果が見込めるのだろう。やすねの年商は11億円規模。27年度は103%程度の増収(東京のグループ会社まで含めると110%程度)を見込んでいる。2年後、3年後と年月を経るほど東京で磨かれた人材が増えるので、「新潟に料亭やすねあり」という認知度の高まりに比例して年商も増えていくだろう。
一方で自社だけ繁栄してもパイは広がらないという思いもある。そこで26年3月、「高田おもてなしの会」を発足させた。信越本線高田駅周辺の料理店、寿司店を中心に酒蔵や酒店、ホテルなどが参加し、観光客にマップやクーポンを配布、市内の回遊を促した。今後も四季折々に企画していく計画だ。
開業を好機と捉える会員を商工会議所がさまざまな施策で支援する。そんな双方の努力が北陸新幹線の開通後、大きく実を結ぶはずだ。
会社データ
社名:株式会社やすね
所在地:新潟県上越市仲町2-2-3
電話:025-524-7125
代表者:安田浩 代表取締役社長
従業員:グループ社員数111人
※月刊石垣2015年2月号に掲載された記事です。
最新号を紙面で読める!