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テーマ別企業事例 震災から6年、進む連携 復興・共創へ 被災地域の決断

事例1 「あまちゃん」の経済効果でまちに自信と活気を呼び込む

久慈商工会議所(岩手県久慈市)

NHKの朝の連続テレビ小説で平成25年度上半期に放映された「あまちゃん」。その人気は、本作で驚くときに口にする「じぇじぇじぇ」がユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞に輝くなど話題が尽きず、多くの人の記憶に残る大ヒットとなった。そのメインロケ地となった岩手県久慈市に、「あまちゃん」はどんな影響をもたらしたのか。放映から3年たった今、まちの変遷を追った。

27年3月まであまちゃん関連34事業に関わった中野康宏さん(右)と、それを引き継ぐ石渡範さん(左)。石渡さんは久慈市が日本ジオパークに認定されたことを受け、東北の太平洋沿岸700㎞を結ぶ『みちのく潮風トレイル』にも参画している

観光客激減のまちを救ったロケ地決定

2時間ドラマかドキュメンタリー番組の撮影があるかもしれない。そんなうわさが久慈市内に流れたのは平成23年のことだった。

「それが翌年6月、NHKから朝の連続テレビ小説のロケ地になると正式に発表されて……。それはもう誰もが驚きました」

当時を振り返り笑うのは、久慈商工会議所 地域振興課の中野康宏さんだ。久慈市は大掛かりなドラマなどのロケの受け入れ実績など皆無で、全くの手探り状態から急ピッチで態勢を整えていったという。

「東日本大震災の影響で、観光入込客数はピーク時より18%も落ちていました。ロケ地決定は願ってもないビッグチャンスです。反対意見よりも、力を合わせて何とか成功させようという考えが圧倒的多数でした」

そこで官民が一体となって発足させたのが「朝の連続テレビ小説『あまちゃん』支援推進協議会」だ。久慈市商工観光課がロケ支援部会を、誘客宣伝部会を久慈市観光物産協会が担当し、久慈商工会議所は受け入れ態勢整備部会を取りまとめた。土産品の開発や販売促進と、観光客へのおもてなしを2大テーマとし、NHKの発表から半年後の12月には本格始動する。だが、放映前までは観光客が本当に来るか半信半疑だったという。

「ドラマは25年4月から放映されたのですが、最初の1カ月は市内も静かなものでした。やっぱり北三陸までわざわざ人は来ないと落胆していたんです。それがゴールデンウイークを境に一変しました」

ヒロインとその家族が暮らす袖が浜海岸のモデルであり、「北限の海女」が活躍する小袖海岸には連日多くの観光客が押し寄せた。そして、小袖海岸を訪れたその年の観光客数は前年の約4000%増という驚きの数値を記録した。

「あまちゃん」ブームを民一丸でバックアップ

「久慈駅から小袖海岸まではマイカー規制をしてバスで往復するようにしました。30分から1時間に1本ペースで発車し、それでも足りず臨時便を2、3台出したこともあります。私は久慈市出身ですが、バスの中に人が立って乗っているのを初めて見ました」と中野さんは目を細める。

ドラマの人気だけではなく、地元の人々が一丸となった取り組みも功を奏した。例えば、おもてなしムードを盛り上げるべく、海女の衣装である絣半纏(かすりはんてん)を着た「ちびっこあまちゃん隊」やコンテストで選出された「ミス北リアス娘」が地域PR活動を行い、久慈商工会議所女性会会員が、三陸鉄道の乗客に観光パンフレットや粗品を配布して出迎えた。店舗や観光施設、宿泊関連業者を対象に接客・接遇研修を行うなど、〝おもてなし〟の向上にも努め、年10回も訪れた人も現れるほど、リピート率を上げていく。

「あまちゃんは他の作品よりもロケが多く、ロケ地巡りをすることで作品の世界を疑似体験できました。作中にマニアックな要素が数多く散りばめられていて、それを見つける楽しさもあったようです」

観光客数は前年比の1・65倍となり、久慈市へは約32億8400万円、岩手県へは約44億6600万円(ともに岩手県経済研究所調べ)の経済波及効果をもたらした。だが、放送が終了すれば観光客は減少するのは明らかだ。放送前の水準を下回ったロケ地も少なくなく、久慈商工会議所は入念な対策を取っていった。

住民に自信が芽生え被災地から観光地へシフト

「あまちゃん等ロケツーリズムの推進と北三陸の魅力発信事業」と題し、①モニターツアー、②北三陸観光マップの作成、③効果的な情報発信、④観光人材育成を柱にロケツーリズムを全国展開する。

「モニターツアーは、放映終了の1年後と2年後の2回ともに好評を博しました。また、全国のあまちゃんファンが集う『あまちゃんサミット』は25年に盛岡で開催されたものの、それ以降は毎年久慈市内に会場に移し、毎回約300人の来場者数を記録しています」

そう語るのは久慈商工会議所 経営支援課の石渡範さん。官民が連携して次世代の観光産業を担う人材育成ワークショップも開いた。そこに集ったメンバーで「あまロスなげき隊」を結成し、あまちゃんを忘れられない全国のファンと分かち合おうと、自主的に事業を展開した。そのなげき隊隊長を務めた中野さんは言う。

「放映中から、あまちゃん関連のイラストが『あま絵』としてプロ・アマチュア問わずネットで公開されていました。これを観光に役立ててみてはどうかと中心メンバーから提案があって、シャッターアート事業が始まったんです。地元の看板屋さんや高校の美術部の学生たち、そして原画を提供してくださった作家さんたちの協力があって実現しました」

「あま絵」のシャッターアートは3年かけて全17作品にのぼった。今ではロケ地の看板やポスター、ポストカードにも活用されている。

「食でも物品でもなく、あまちゃんというコンテンツでまちが活気づきました。被災地から観光地へ。その最大の成果は地域住民の自信です。昨年の台風10号では商店が1カ月も営業ができないほどの打撃を受けましたが、今はほぼ復旧し、あまちゃん効果もまだ持続しています。しかし、それ以外の観光資源の掘り起こしは必須で、ロケツーリズムによる地域振興はこれからが正念場です」(中野さん)

次のビッグチャンスをつかみとる。あまちゃんを機に受動から能動へ、国内外へ視野を広げて新たな受け入れ態勢のシフトが進む。

※月刊石垣2017年3月号に掲載された記事です。

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