事例2 自分たちが宮古の漁火になって地域の水産業を明るくともしたい
共和水産(岩手県宮古市)
岩手県中部の三陸海岸沿いにある宮古市で、共和水産は主にスルメイカの加工・販売を行っている。震災後、地元の水産加工会社の若手次期経営者3人とともに「宮古チーム漁火(いさりび)」を結成。宮古の海産物のブランド化を図るために、互いに業務の連携を取り合いながら、新製品の開発や海外への展開などを積極的に進めている。
震災で気付いた地元の魅力
「弊社は今年で創業31年、私は11年前に入社しました。実は私は宮古というまちにも水産業にも魅力を感じていませんでした。だから後を継ぐつもりは全くなく、仙台で働いていたのですが、社長である父親に言われて戻ってくることにしました」と、現在は共和水産で代表取締役専務を務める鈴木良太さんは言う。そんな鈴木さんの考えを改めさせたのが、東日本大震災だったという。
「工場は無事でしたが、出荷前の製品や原材料を冷凍保存していた貸し倉庫が流され、1億3千万円ほどの損害が出ました。補助金をいただきながら、なんとか会社の状態を元に戻そうとやっていく中で、宮古の人や水産業の人たちとのつながりができ、海産物が豊富な宮古の魅力、そして水産業の大切さに気付いたんです」
震災当時、鈴木さんは会社の専務として経営全体を任されるようになったばかりだった。30歳で会社の中で責任ある立場となり、震災前とは違う自立した大人になりたかったこともあるという。
「震災前は自分の会社が良ければそれで良いという考え方でした。ただ、震災前から水産業の停滞は進んでいて、後継者が不足し、水揚げも落ち込んでいた。そこに震災が起こりました。それでも自分たちはここで食品をつくり、従業員を養って生きていかなければならない。そのためには商品の付加価値を上げる必要がある。宮古の海産物をブランド化して、宮古そのものを認知してもらうしかないと思うようになりました」
そこで鈴木さんが始めたのが、会社のホームページをつくりブログを書いていくことだった。そのブログでは「イカ王子」と名乗ってメッセージを発信していった。
「〝鈴木専務のブログ〟では面白くない。宮古のことを知らない人にも見てもらうためには『イカ王子』のほうがインパクトがありますから」と鈴木さんは笑う。
そうすると、インターネットの販売サイトから声が掛かった。そこで「イカ王子の作る真いかぶっかけ丼」という名でいかそうめんを販売し、そのサイトで売り上げ3位となるヒット商品となった。
震災後だったからこそ築き上げられた信頼関係
その一方で鈴木さんは、地元のほかの水産加工会社の若手次期経営者3人と意気投合。ひんぱんに会うようになっていった。
「うち以外の3社は工場が全壊したり家がなくなったりして操業できない状態が続いていました。時間をつくって、補助金の案件などで震災の年の夏から4人で会って話す機会が増えていきました。それぞれ父親には話せない後継ぎとしての悩みがあり、同世代で腹を割って話すようになっていったんです。私たち4人の関係は、震災後のあの時期だったからこそ築き上げられたものだと思います」
その4人とは、鈴木さん、かくりき商店の小堀内将文さん、佐々京商店の佐々木大介さん、佐幸商店の佐々木博基さん。それぞれの会社は扱う魚や販売先など得意分野が異なる。そこで互いの強みを生かし弱点を補っていくために製造ノウハウや仕入れ、販路を共有し合い、会社の仕事を融通するようになっていった。
そんな中、平成26年に宮古市産業支援センターと宮古商工会議所が中心となり、〝オール宮古〟で水産業の復活を目指す「宮古市水産加工ブランディングプロジェクト」が始まった。これは水産加工業者数社で一つのグループをつくり、新商品を開発していくという取り組み。キリン株式会社による東日本大震災復興支援「キリン絆プロジェクト」で支援を受けるためのものだった。そこに鈴木さんら4人の会社も一つのグループをつくって手を挙げ、最終的に4つのグループが参加することになった。
「その際に自分たちのグループに『宮古 チーム漁火』と名付けました。自分たちが漁火という光になって、宮古の水産業の人たちと一緒に温かく明るいまちにしたいという思いを込めました」と鈴木さんは語る。それから4人はチーム漁火として共同で新商品開発を進め、26年11月には「うにいか」を発売した。後にはそれに「味付けいくら」「潮うに」「いかごろ醤油漬け」を加えた「漁火小瓶4種詰合せ」を開発、販売している。
「チーム漁火」として新商品開発や海外進出も
「私が漁火の代表を務めていますが、4人はそれぞれ得意な分野が違います。一人は財務会計、一人は買い付けの目利き、一人は生産管理、そして私は商品開発が得意。各業務を得意な人に任せています。漁火はシェアハウスのようなもの。大きな屋根の下に4つの部屋があり、何かあったら真ん中のリビングに集まってくる。各社とも工場や事務所があり、それぞれ本業があるからこそ、この漁火が生きるのだと思っています」と鈴木さんは力を込めて言う。
チーム漁火は海外進出も共同で行っている。26年6月には台湾で開催された国際食品展示会「フード台北」に出展し、その場で生ウニを出荷する商談をまとめている。新商品「うにいか」も初出荷先はベトナムだった。共和水産単体では、昨年3月にアメリカ・ボストンで開かれた水産食品の国際展示会「シーフード・エキスポ」に出展し、一緒に行ったチーム漁火のメンバーとともに世界各国から来たシェフやバイヤーとイカそうめんの商談を行った。
「漁火4社が協力してきたおかげで、売り上げは震災前に比べて4社全体で約3倍になりました。これからは漁火以外の水産加工業者とも連携して、宮古の水産業全体の底上げを図っていきたい。共和水産としては、売り上げを増やしていきながら地元に根付いた商品をつくっていき、宮古の水産といえば共和水産だといわれるくらいにインパクトのある水産加工会社になりたいと思っています」
彼らそれぞれの漁火が、宮古の水産業の未来を明るくともす炎となっていくことに期待したい。
会社データ
社名:共和水産株式会社
所在地:岩手県宮古市藤原2-3-7
電話:0193-77-4625
HP:http://www.kyowa-suisan.co.jp/
代表者:鈴木良太 代表取締役専務
従業員:48人
※月刊石垣2017年3月号に掲載された記事です。
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