事例5 訪日外国人の誘客による地域活性化に「RESAS」を活用
一関商工会議所(岩手県一関市)
平成23年に世界文化遺産に登録された文化や遺跡を擁する一関市と平泉町。同地域には、古くから「もち食文化」が伝わる。一関商工会議所では、そうした地域資源と食文化を生かして地域活性化を目指す中、地域経済分析システム「RESAS(リーサス)」に着目。地域の現状や課題を客観的にとらえながら、訪日外国人の誘客や交流人口の増加に取り組んでいる。
「食と農の景勝地」認定で東北復興へ弾みをつける
「RESAS」(以下リーサス)という言葉を耳にしたことはあるだろうか。これは地方創生の実現に向けて、平成27年4月から内閣府が供用しているもので、地域経済に関する官民のビッグデータを「見える化」したシステムだ。産業、農林業、人口動態といった国のデータと、流動人口、経路検索、カード利用などの民間のデータを自由に閲覧できる。地方自治体が策定する地方版総合戦略の実施を、情報面から支援するツールとして注目されるとともに、現在では企業や住民など民間ベースでの利活用も進んでいる。
これにいち早く着目し、地域活性化に向けた取り組みに活用しているのが一関商工会議所である。その第1弾となったのが、「食と農の景勝地」の認定を目指すプロジェクト。「食と農の景勝地」とは、農林水産省が28年に創設した認定制度だ。2020年開催の東京オリンピック・パラリンピックを見据えて、訪日外国人を中心に日本食や食文化を体験してもらい、農山漁村への交流人口を増やして、地域活性化や特産品の輸出促進を図ろうというものである。一関市と平泉町には、古くから伝わる「もち食文化」があり、住民にも定着している。また、その背景にある農業、農村景観、世界文化遺産などの地域資源にも恵まれている。同制度の認定を受けて、それらを広く世界に発信し、観光客を呼び込んで、地域経済や雇用の拡大、さらには東北復興に結び付けようと考えたのだ。
データ分析で現状と課題が明確に
「訪日外国人を中心とする多くの観光客に足を運んでもらうには、まず地域の現状や課題を客観的に把握する必要があります。そこで着目したのがリーサスです。ちょうど私がリーサスの普及、活用支援のために東北経済産業局に出向していることもあり、当所職員が観光や農業に関するデータ収集、傾向分析に取り組みました」と同所経営支援課主事の菅原恒さんは説明する。
その結果、同市と平泉町の間で滞在する人たちの移動が多いこと、来訪者が最も多い時期は紅葉のころではなく8月だったことなど、一関市が平泉町への観光需要の好影響を取り込めていないといった傾向が新たに分析された。そうした現状を踏まえながら、もち食をPRするイベントの開催やメディアを通じたプロモーション活動、来訪ルートの整備、魅力ある観光プランの開発と提案、訪日外国人の受け入れ体制の強化などを重点課題とした。また、新商品の開発、もち食を提供する飲食店の整備、次世代に食文化を継承する人材の育成なども掲げた。そして5年後には、輸出拡大に向けて農産物を安定的に供給すること、訪日外国人を現在の約3万人から6万人に倍増することを目標とした。
「昨年11月に第1回の認定地域に選定され、よりビジョンが明確になりました。これまでに訪日外国人向けの田植え体験や、多彩なレシピのもちを味わう試食会などを開催してきましたが、そこから得た貴重な意見やデータをもとに、今後もさまざまな活動を展開していきたい」と同所業務課課長の佐藤裕一さんは抱負を語る。
農業の現状分析で農商工連携事業も推進
また商工会議所では26年より、農商工連携による新事業の創出にも力を入れてきた。例えば、農業生産者と食品加工業者とのマッチング、特産品を使った新商品の開発、それらを販売するショップや飲食店の開業支援などである。それにおいてもリーサスは大いに役に立っている。
「地元でも知らない人が多いんですが、一関にはおいしい農産物がたくさんあるんです。ナス、ピーマン、キュウリ、トマトなど一般的な野菜のほか、糖度が17%もある『南部一郎かぼちゃ』という特産品もあります。また稲作も盛んで、米の収穫量も多い。実は岩手県の全市町村の中で、一関の農産物販売金額が最も多いことが、リーサスのデータから明らかになっています。それらをもとに、企業を訪問して農商工連携を呼びかけたり、農家を訪問して農産物の活用法について話したりしてきました。それが実を結び、すでに農産加工品を販売する店や古民家カフェのオープンや、本格フレンチレストランにおける地元農産物の活用などにつながっています」と佐藤さんは言う。
こうして商工会議所が力を入れてきた農商工連携事業が次々と形になり、「食と農の景勝地」認定で訪日外国人の誘客にも弾みをつけた。地域の活性化、ひいては東北復興に向けた活動の裏で、リーサスが果たした役割も大きい。
※RESASの詳細は、「RESASポータル」(https://resas-portal.go.jp)をご参照ください。
※月刊石垣2017年3月号に掲載された記事です。
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