事例4 再生に向けた官民連携による「まちづくり会社」の挑戦
キャッセン大船渡(岩手県大船渡市)
津波被害からの中心市街地再生を目指し、商業集積や全体的運営などを担う中核会社として、平成27年12月に設立されたキャッセン大船渡。大船渡商工会議所や市、地元商業者や住民などと密に連携し、「100年先を見据えた持続的まちづくり」をコンセプトに、新たなまちが形成されようとしている。
復興にはエリア全体のマネジメントが不可欠
三陸復興国立公園のほぼ中央に位置する大船渡市。この辺りは典型的なリアス式海岸になっており、大小の岩が点在する海の景観はひときわ美しい。しかし、その入り組んだ地形ゆえに、東日本大震災では津波の水かさが増し、市の中心部は壊滅した。特に被害が大きかったのは、大船渡港周辺の地区と大船渡駅周辺の商業地域だ。
まちの再生に向けた取り組みが始まったのは平成23年。復興計画策定委員会が発足し、復興計画が検討された。翌24年には、商工会議所、市、各種団体や住民などが集まり、まちづくりワーキンググループが発足する。そこでさまざまな課題を検討する中、将来に向けて魅力とにぎわいのあるまちづくりを進める上で、エリア全体のマネジメントを行う民間会社が不可欠という結論に至る。そこで商工会議所や市が中心となって、26年に官民連携まちづくり協議会をつくる。まちづくり会社を設立する準備を進め、27年12月に大船渡駅周辺地区の商業集積や全体の運営を行う「キャッセン大船渡」が誕生した。ちなみに「キャッセン」とは、この地域で「いらっしゃい」を意味する方言である。
「キャッセンのスタッフは公募で決めました。もともと私は、まちづくりに関する計画づくりや技術的アドバイスを行う建設コンサルタントとして、大槌町の復興に関わっていました。大船渡の旧知の友人から、『お前にうってつけの仕事がある』と声が掛かったんです。聞けば、自分のスキルが生かせるし、よそ者の方が率直な意見が言いやすいメリットがあると思い、自ら手を挙げてキャッセン大船渡の一員になりました」と、同社取締役で大船渡駅周辺地区タウンマネージャーを務める臂(ひじ)徹さんは当時を振り返る。
100年先を見据えた集客の仕組みづくり
同社の特徴は、デベロッパーとして建物を建てるだけでなく、補助金の受け皿となって商業街区に共同店舗型商業施設を整備し、テナントの運営も行うことだ。そして、周辺の街区と連携しながら、まち全体の事業をマネジメントする役割も担っている。具体的には、大船渡駅周辺の8つの街区のうち、飲食店や小売・サービス業が出店する2つの街区と、現在新しい機能の誘致を図っている2つの街区を合わせた4つの街区の整備と運営を同社が担当している。
「まず取り組んだのが、商店が集まる2つの街区です。例えば、テナントの顔ぶれを調整したり、各商店主に店の再建の意向を聞いて配置計画をつくったり、出店合意を取りながら坪数を決めたり、被災前の売り上げに鑑みて賃料を決めたり……。昨年は怒濤(どとう)のような1年でした。ただ、街区を整備するに当たっては、住民が買い物をする場所というだけでなく、恒常的に人が集まる仕組みをつくることが重要です。まちは100年先も続くわけですから、それを見据えたまちづくりを常に念頭に置いています」
同社は、ほかにも地区内の景観デザインの統一、イベントの企画・運営、住民のコミュニティーづくり、広報や各種プロモーションなども担う。それらは着々と進行し、今年のゴールデンウイークごろにオープンを予定している。
にぎわい創出に向けて商業者の発想の転換も必要
順調に見えるが、すべてがスムーズに進んだわけではない。例えば、独自の再建を目指しているほかの商業街区との連携である。開発当初はキャッセンへの誤解や不信感があり、別々に開発の道をたどったが、住民や来街者にとっては同じまちである。そこで同社は、まちの活性化という共通の目的の下に、丹念な話し合いを重ねた結果、同時期に足並みをそろえてオープンするところまでこぎつけた。
また、同社が運営・管理する街区の商業者の不安を払拭(ふっしょく)するのも重要な課題だ。震災前までは自分の家や店舗で商売をしてきた人たちが、これからは街区につくられた商業施設の中のテナントとして賃料を払い、他人が仕掛けた集客に依存しながら、店を再建していかなければならない。そうした初めての経験に対する懸念を取り除くとともに、今までの考え方ややり方を変える必要性などを伝える努力を続けている。
「やはりコミュニケーションの重要性を強く感じています。そこでまちの人たちと対話したり、情報交換したり、ときには一緒にイベントを開催できるように、街区内にかつてはなかったコミュニティースペースやライブハウスを設けているのも、計画の目玉の一つです。今後、そうした施設を活用して、さまざまな分野の専門家や大学教授などを招いて接点を増やし、それが発想を転換するきっかけになってくれればと考えています。ここの皆さんは商売のプロばかり。私が話しても、説得力ないですから」
そう笑いながら語る臂さんだが、同社のエリアマネジメント事業が実践段階に移るのはまだ先のことだ。未整備の街区も残っている。同社は今までにも増して、商工会議所や市などと密に連携しながら、住民や来街者でにぎわうまちづくりを目指してまい進する。
会社データ
社名:株式会社キャッセン大船渡
所在地:岩手県大船渡市大船渡町字笹崎57-11
電話:0192-22-7910
HP:https://www.facebook.com/kyassen.ofunato
代表者:田村滿 代表取締役
従業員:3人
※月刊石垣2017年3月号に掲載された記事です。
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