3月14日の北陸新幹線開業を間近に控え、開業を待つ金沢、高岡、富山、黒部、糸魚川、上越、飯山……。各地域の膨らむ期待と戦略を総力取材した。
事例1 伝統と革新の調和する まちづくりで人を呼ぶ
金沢商工会議所(石川県金沢市)
北陸新幹線のターミナル駅がある石川県金沢市では、来訪者の大幅な増加を見越して、早くから準備を進めてきた。開業を目前に控えた今、まちはどのような変化を遂げているのだろうか。
100年に一度のチャンス
大正2(1913)年に全線が開通した北陸本線が、一昨年の平成25年に100周年を迎えた。開通当時、北陸本線は沿線に絶大なプラスの効果をもたらしたと想像される。今回の北陸新幹線開業も金沢にとって地域活性化の「100年に一度のチャンス」と言えるだろう。
これを生かすべく金沢商工会議所が具体的な活動をスタートさせたのは19年のこと。「新幹線対策特別委員会」を設置し、JR全社が展開するデスティネーションキャンペーン(自治体や観光業者と協働で実施する大型観光キャンペーン)の誘致、金沢駅やバスターミナルの案内表示の改善、バスの利便性の向上などを、積極的に関係機関に提言・要望してきた。
20年には、おもてなしを推進する「ようこそ金沢推進協議会」を設立。観光、宿泊、飲食、小売、旅客運輸の団体・企業を対象に「もてなし力向上セミナー」を開催し、来訪者の満足度を高めるソフト面の充実に努めてきた。昨年からは「ざわもて運動(かなざわ商工会議所会員事業所がみんなで行う〝おもてなし運動〟)」を展開。来訪者に直接対応する物販店や飲食店、ホテル、交通機関をはじめ約6000の会員事業所に、おもてなしを分かりやすく紹介したチラシを配布するなどホスピタリティの向上を図っている。また、東口、西口となっていた駅出入り口の名称を分かりやすく「兼六園口」「金沢港口」に改称することになったのも、「おもてなし」の一環として同所が関係機関に働きかけて実現したものだ。 「新幹線が開業した他地域をずいぶん視察しました。例えば、東北新幹線や九州新幹線が開業したとき、沿線地域ではどのような取り組みをし、それはどのような影響をもたらしたのか。また開業後の様子なども学ぶことが多く、非常に参考になりました」と同所の深山彬会頭は振り返る。
駅周辺に起きている変化
まちにもさまざまな変化が起こっている。金沢は、中心市街地や観光スポットが駅から離れている。そのため、駅はこれまで出発地的側面が強かった。しかし北陸新幹線東京-金沢間開業により、駅周辺には飲食店が次々と出店し、兼六園口周辺のテナントビルはすでに飽和状態だ。金沢港口周辺でもオフィスビル、ホテル、マンション、商業ビルなどが次々とオープン。駅周辺ににぎわいが生まれつつある。そして、中心市街地でも再開発やマンションの工事が進んでいるほか、ホテルや百貨店の改装も行われており、受け入れ態勢の準備が進んでいる。
また、新商品の開発も盛んだ。例えば食料品では、新幹線車両をデザインした商品が登場しているほか、加賀友禅を使った小物、鮮やかな色彩が特徴の九谷焼の器類など、石川県の伝統工芸を生かしたアイテムも誕生している。
「何といっても目玉は観光商品の充実ではないでしょうか。金沢の見どころを巡る市内ツアーはもちろん、金沢と白川郷・飛騨高山、金沢と能登・富山といった広域観光を提案し、それぞれの地域の風情やグルメを存分に味わってもらうことが、地域全体の活性化につながるのではないかと期待しています」(深山会頭)
伝統を守りながら 新たな文化を育てる
日本政策投資銀行北陸支店が平成25年に発表した「北陸新幹線金沢開業による石川県内への経済波及効果」では、観光客などの宿泊、飲食、土産、域内交通費などの直接波及効果と、それによって誘発される間接波及効果の合計が年間124億円と試算している。これには首都圏へのPR効果や企業進出などの要素は計算に入っていない。そのため、開業後も情報発信や各種取り組みを継続することで効果の増大が期待できる。
反面、危惧すべき要素もある。東京-金沢間が最速で2時間28分と大幅に短縮されるため、日帰り出張が可能となる。これにより、滞在時間が短縮されたり県外資本の支店や営業所が撤退する恐れもある。同所は北陸新幹線がもたらすマイナス面の影響に関するアンケート調査を昨年秋に実施。集計がまとまり次第対策に乗り出す予定だ。
「ビジネスでも観光でも、金沢を訪れた人たちに少しでも長くこの地を堪能していただきたい。そのためには金沢が受け継いできた伝統を守りながら、新たな文化を育てて、『一度来ただけでは味わい尽くせない』と感じてもらうことが大事だと考えています。今後も伝統と革新の調和する魅力あるまちづくりに突き進みます」(深山会頭)
多少のマイナス要素はあれ、地域活性化に大きく貢献するであろう北陸新幹線開業に対する地元の期待は大きく膨らんでいる。しかし、石川県として見れば県の半分までしか開通していない。これまで、10年後をめどに敦賀(福井県)までの延伸工事が進められてきたが、今年に入って政府・与党は3年前倒しすることを正式に決定。金沢-福井間についてはさらに2年前倒しする検討もされており、早期開業が待たれる南加賀、福井では整備推進への期待が高まっている。
また、北陸新幹線が東海道新幹線の代替補完機能を発揮するためには全線開業が望まれる。それに向けて、「一日でも早い大阪までのフル規格全線整備を強く求めていきたい」と、深山会頭は力強く結んだ。
※月刊石垣2015年2月号に掲載された記事です。
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